第8章 35 冬フェス ヴァーチャルリンク開催
紗良が、空へと飛び上がる。
一直線に飛竜の群れの中へー。
そのまま、一体にしがみつく。
暴れる翼。
振り落とそうとする力が加わり、身がよじれる。
「絶対⋯離さない⋯!」
紗良の手に力がこもり、踏ん張る足からは焔が噴射する。
鱗を溶かし、飛竜の背中に窪みができそこへ足をガッチリとかける。
暴れ狂う飛竜を見て、
周囲の飛竜が引き寄せられていく。
群れが、偏り始め、ルートが開ける。
「今!」
美咲の掛け声と共にリリカチームが、一気に駆け抜ける。
紗良の戦いを背に、北エリアへ進む。
上層・北エリア。
大ブロック――研究管制塔。
無機質な構造物。
感情を拒むような造形。
その中心で―リリカは、足を止める。
視線を巡らせる。
後ろではまだ、紗良が飛竜を引きつけており
追いかけてくる様子は無い。
その様子を見てリリカは決意を改めて固める。
「……北エリアの大ブロックは2つとも絶対に取る!
ここはシンプルに撮影しよ、余計な演出はいらないよ」
その意図を、キャットは理解する。
装飾を排した、無機質なワンピースを用意。
色も、形も、余計な主張はない。
ただ“存在する”だけ。
そのワンピースを身に纏い、
研究管制塔の中で佇む。
無機質な研究施設にその中に立つ、一人の少女が立つだけだが
だからこそ際立つ、“違和感”と見る者に問いを残す構図。
説明はなく想像を膨らませるシーンに
キャットはシャッターを切る
これまでのリリカとは、まったく異なる表現。
「……いける」
キャットが、小さく呟く。
登録。
「な、なんと……!」
「神秘的な……写真……!」
「リリカチーム、飛竜の妨害を跳ね除け、撮影に成功!
汐花チームに迫る勢いで投票を伸ばしポイントを獲得――!」
スクリーンが更新される。
1位 汐花チーム 140ポイント
1位 リリカチーム 140ポイント
3位 サオリチーム 90ポイント
同率首位。
並ぶ。
北エリアへ辿り着いたサオリの視界に
その現実が、突きつけられる。
「はぁはぁ、負けたくない……」
息が荒い。
それでも――止まらない。
「……絶対に」
前を向き、その先にある
もう一つの大ブロック、天文台通りへ
サオリは進む。
「サオリ……!急ぎ過ぎだ!」
後ろから天藤が声を張る。
だが――止まらない。
サオリは、振り返らない。
ただ、前だけを見ている。
「焦る気持ちは分かるけど⋯!」
天藤もまた、走り追いかける。
やがて視界の先に、天文台が現れる。
球体の建造物。
上層から切り離されたように、
空中に浮かぶ孤立構造であった。
それを支えるのは、横に伸びる支柱と二本の橋。
わずかに先行しているが逆の橋を目指し
リリカチームも近づいていた。
「ここを取ればまだ追いつける」
「……まだ……負けてない……!」
視界が、揺れる。
暗く、滲む。
それでも――足は止まらない。
サオリには、もう――走る以外の選択肢が
なかった。
希望と渇望に身を委ね、サオリは橋を駆ける。
「――リっ!」
遠くから聞こえるなにかが、風にかき消される。
「――サオリっ!」
届かない。
「危ない!!サオリ!!」
天藤の声がようやくサオリに届く。
その声は危険を教えるものであったと
理解したその瞬間ー。
サオリの視界の端に影が差し込む。
横目に映る巨大な影。
「あっ……」
その正体は飛竜だった。
リリカチームを見失った一体が、
一直線に突っ込んでくる。
「くそっ!」
天藤が即座に反応する。
泡を展開。
層を作り、衝撃を受け止める。
だが――止まらない。
飛竜の巨体の質量が、泡ごと押し潰す。
橋の柵が、砕ける。
「っ……!」
衝撃。
サオリの身体が、宙へと投げ出される。
――落下。
その光景を対岸の橋からリリカチームが見ていた。
「サオリ……!」
「サオリ!!」
リリカが、叫ぶ。
身体が先に動く。
柵へと駆け寄り乗り越えようとする。
「だめ……!」
美咲が掴む。
「あんなん空中に落ちたらもう無理やて……!!」
キャットも、引き止める。
勢いを止められ、リリカは柵を力いっぱい握りしめる。
届かない現実。
リリカの力が抜け、その場に崩れ落ちる。
「……そんな……」
視線の先、落ちていくサオリ。
何もできない絶望が広がる。
その隣で迅は柵に足をかける。
迅はただリリカを見ていた。
「……迅」
消え入りそうな声で話すリリカ。
「お願い助けて」
震えている。
「サオリは……」
言葉が詰まる。
それでも、絞り出す。
「……私の、大切な親友なの」
その一言を聞き、迅は柵を掴む。
迅は、振り返らない。
「ああ、任せろ」
それだけで、十分だった。
次の瞬間――踏み込む。
空へ身を投げ出す。
落ちていくサオリへ向かって。
一直線に。




