第8章 34 冬フェス ヴァーチャルリンク開催
汐花チームの快進撃は、止まらない。
上層・南エリア。
居住区画に存在する大ブロックへと到達する。
高層ビル群が立ち並ぶ空間。
その隙間を縫うように、
強烈なビル風が吹き荒れていた。
向かい風。
不規則な乱流。
この状況では――
神珍鉄の推進力だけでは、落下の危険がある。
視線を汐花へ向ける。
その表情は、変わらない。
ただ、静かに――
「信じてる」
短く、それだけを告げる。
差し出される手。
葵時雨は、それを取る。
掌から伝わる、揺るぎない信頼。
戦場とは違う。
もっと静かで、逃げ場のない圧。
――応えるしかない。
神珍鉄を構え、呼吸を止める。
そして――放つ。
寸分の狂いもない一撃が、
ビル最上階を正確に射抜く。
次の瞬間、収縮。
身体が引き寄せられて
乱流する風により乱される。
推進力もあって暴風に晒されるが如く
身体が、持っていかれる。
それでも。
葵時雨は握る力を微調整し、
直感と反射だけで、軌道を維持する。
その最中――汐花が、合図を送る。
握る手を短く、二度強く握った。
――了解。
次の瞬間。葵時雨は、手を離した。
宙へと投げ出される、汐花。
落ちていく。
だが、その姿に恐怖はない。
目を閉じて静かに指先を唇へ。
そして――わずかに目を開く。
その“一瞬”。を葵時雨は、迷わず切り取る。
シャッターを切り、次の瞬間には
思考を切り替える。
空中を落ちる汐花の回収へ。
最上階へと到達した葵時雨は、
そのまま駆け抜け――
躊躇なく、身を翻す。
再び、空へ落下。
神珍鉄を再展開し、放つ。
その一撃が、汐花の横顔を掠める。
だが――
汐花は、動じない。
再び、手を差し出す。
触れて繋がる。
葵時雨は再び汐花を引き寄せる。
その瞬間、汐花は、微笑んだ。
まるで、この状況そのものを楽しんでいるかのように。
刹那の喜びを確かに噛み締めていた。
二人は、神珍鉄を伝い地上へと降り立つ。
そして――登録。
投稿された一枚。
空中に浮かぶ歌姫。
堕ちることさえ、表現へと変える存在。
その一瞬が、切り取られていた。
言葉を失う観客。
誰も、評価できない。
ただ、圧倒される。
「……汐花チーム……」
「大ブロック……制圧……」
司会者の声が、
遅れて会場に響く。
「我々は……今、何を見ていたのでしょうか……」
スクリーンが更新される。
1位 汐花チーム 140ポイント
2位 リリカチーム 90ポイント
3位 サオリチーム 90ポイント
「な、なんと……!」
司会の声が震える。
「この波乱の展開に――
さらに混沌が訪れようとしています!」
スクリーンが警告表示へと切り替わる。
《妨害ブロック発動》
「汐花チームが制圧したブロックは……
妨害ブロック……!」
「上層に、
妨害モンスターが出現します!」
その直後――
雄たけび。
空気を裂くような咆哮が重なり合って響き渡る。
見上げると大樹の中から影が落ちる。
一つではない複数の影。
状況を把握しようとしていた
リリカチームとサオリチームへ、
一直線に迫ってくる。
その正体に気づいた瞬間――
すでにそれは牙を向く。
飛竜の群れが空中からの急襲してきていた。
「……っ!」
風圧が叩きつけられる。
影が、両チームを覆う。
「ちっ……!」
サオリの前へ、神崎が踏み出す。
黒い雷が、腕を走る。
迎え撃つ構え。
飛竜の群れが――サオリチームの元へ
なだれ込む。
一直線に伸びる上層・西エリアの道路で
鉢合わせた為逃げ場はない。
真正面から衝突する。
正面から突っ込んでくる飛竜を、
神崎が真正面から受け止める。
身体は軋み、衝撃により空気が震える。
その背後で、天藤が動く。
泡の壁を展開し
別方向から襲い来る飛竜を弾き飛ばす。
剛と柔。
二人の連携が、群れの襲撃を受け止める。
だが――
一手、二手、三手。
連続で叩き込まれる圧力。
防ぎきれない。
陣形が、軋む。
神崎と天藤は、同時に理解する。
――持たない。
天藤が即座に動く。
踵を返し、サオリの背を押す。
「さっさと行け!」
神崎が叫び2人は前へ、北エリアへ進む。
だが背後から、飛竜の影が迫る。
その牙が届く直前。
神崎の槍が、一直線に突き抜ける。
脳天を貫き、一撃で仕留める。
落ちる飛竜。
その死骸を踏み台に神崎は立つ。
周囲の飛竜の視線が一斉に向けられた。
だが――神崎は笑う。
「……来いよ、爬虫類」
「まとめて相手してやる」
槍を構え応戦の姿勢を見せた。
一方――リリカチーム。
上空を旋回する飛竜の群れ。
その“死角”を縫うように建造物の影に潜み
進んでいた。
「こっち!」
美咲の指示ー。
明鏡止水がその場で変更し
導き出したルートを進む。
建造物が密集している住宅街。
上空からの視認が遮られるエリアだった。
羽ばたきの音が、頭上をかすめる。
だが――来ない。
「どうやら上から見えなければ――来ないみたい⋯」
飛竜の群れを物陰から見据え美咲は確認する。
遠回りにはなるが、
安全に進めるルート。
そのまま、慎重に前へ進んでいく。
やがて、住宅街が途切れ視界が、開ける。
その先――北エリアの研究施設。
だが、その先へ進む為の遮蔽物はない。
出た瞬間、確実に狙われるのが目に見えていた。
一瞬の沈黙、紗良が一歩前へ出る。
「……あたしが行く」
「空中に出て、囮になる」
「……本気?」
美咲が問う。
紗良は、迷わず頷く。
「今、全員で辿り着く事が目的じゃないでしょ⋯。それに大丈夫!あたし逃げるの得意だし⋯!」
紗良は少しおどけたように喋るが周りのメンバーは言葉に詰まる。
美咲もそれが、最適であると認識していた。
飛竜の注意を引き、
なおかつ空中で対応できる存在。
適任は、紗良しかいない。
迅は紗良を止めようとするが紗良の視線は決意が込められていた。
自然と迅は止めようとした手を下ろす。
紗良は、息を吐き――前へ出る。




