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第7章 5 協定会議

会議の場は、しんと静まり返っていた。


まるで先ほどまでの騒動など存在しなかったかのように、李・酒龍は何事もなかった顔で席へと戻る。


「――連合の皆様」


静寂を破り、真羅が口を開いた。


「我々は、どのような犠牲を払おうとも、前へ進み続ける覚悟があります」


一拍置き、真羅は言葉を続ける。


「しかし、このままでは納得されない方もいらっしゃるでしょう。

――孔岳殿、私から一つ、提案があります」


真羅は一度だけ孔岳に視線を向ける。

孔岳は何も言わず、静かに頷いた。


「遺恨を残さぬため、今後、防衛戦エリアおよび奪還戦エリアにおいて、

 脅迫や恐喝に類する行為を、明確に禁止すべきかと」


「既にこの件については、他ギルドからも多数の苦情が寄せられております」


真羅は名を挙げていく。


「威閻殿、饕餮殿を筆頭に……

 あなたもですよ、虎晶殿」


名を呼ばれ、序列五位・虎晶は舌打ちするように顔を背けた。


「簡単な話じゃねぇか。

 敵対した相手とは、待ったなしの戦闘――俺好みだ」


李・酒龍のあまりに歪んだ解釈に、真羅は露骨に呆れた表情を浮かべる。


「……酒龍殿」


疲れを滲ませた息をひとつ吐き、真羅は続けた。


「貴方も、これ以上ギルドに不要なトラブルを持ち込まないでください」


「特に、女性プレイヤーからは、あなたに関する苦情も届いております」


李・酒龍は一切気にする様子もなく、椅子に深く腰を沈めたままだった。


「――以上を踏まえ、我々と連合ギルドの皆様とは、ここで手打ちとすべきかと」


孔岳は軽く頷き、連合ギルド側へ視線を向ける。


「真羅殿の進言通り、今後一切、違法薬物の持ち込みは認めない。

 脅迫、恐喝行為についても全面禁止とする」


「……718名を処罰したのだ。

 これ以上、我々に何を求める?」


語尾を落とし、孔岳は苛立ちを滲ませた。


その問いに、沈黙が落ちる。


「……不正に入手した英雄具は、どうするの?」


沈黙を破ったのは、美咲だった。


孔岳は即座に答える。


「除名者からの英雄具の強制回収は行っていない。

 また、既に譲渡されたものも含め、現在、計四つの英雄具が彼らの手に渡っている」


場に、わずかなざわめきが走る。


美咲は思考を巡らせた。

あれほど必死に集めていた英雄具を、ここで手放す?

――他に、何か狙いがあるはずだ。


「あなた達は、英雄具を集めて何をする気なの?」


白澤が、静かに笑った。


「ふふ……敵対する相手に、目的を尋ねるとは」


「だって気になるじゃん?

 英雄具の秘密」


あまりに裏表のない言葉に、白澤は一瞬だけ目を見開く。


「貴方が我々の仲間になるのであれば、いくらでも共有して差し上げますが」


含み笑いを浮かべながら、白澤はそう告げた。


「……ケチ」


子どものように呟く美咲に、迅は思わず項垂れる。


「南の風《サウスウインド》の皆様は他に何かありますか?」


白澤の問いに、ワトソンが深く息を吐いた。


「君達の言い分通りなら、連合ギルドはこれ以上追及できない。

 そう言いたいんだろ?」


そう言って、白澤を見据える。


「でも、僕のしたい話は違う。

 内情は調べたんだろ?

 薬物を売っていたのは、誰なんだ」


「確かに……

 718人も使用者を洗っておいて、知らないはずがない」


ローゼが、虚を突かれたように呟く。


白澤は無言のまま、データをワトソンに転送した。


兎鳴による調査結果。

使用者の取り調べ、尾行、そのすべてが記録されている。

だが――売人の情報だけが、抜け落ちていた。


「売人を特定できなかった、って言いたいのかい?

 おかしい……そんなこと、あり得ない……」


ワトソンは途中で言葉を止め、画面から目を離した。


「……使用者に、売らせていたのか」


どの情報も辿り着くのは

威閻、饕餮、沈・夜哭。

幹部たちの名。

そして肝心の幹部自身が、薬物使用者。


大元の売人は、素性すら一切掴めていない。


「我々の包囲網を抜けて薬を売買している者がいるのは確実。

 だが、まったく尻尾を見せない。

……恥ずかしながら私も困っている」


淡々と語る白澤の口調から、真偽は読み取れない。


「じゃあ、まだギルドの内部に売人が残ってる可能性もあるわけだ」


腕を組んだミハイルが言う。


「……さっきから黙って聞いていれば!

 我慢ならん!」


虎晶が机を叩きつけた。

鈍い音とともに、天板にひびが走る。


「こちらは疑念を晴らすために、718人を処罰したんだ!

 規模にして四分の一……!

 それでも、まだ疑うつもりか!」


「お前等が隠してないって、どうして言い切れる?」


ミハイルと虎晶の視線が、火花を散らす。


「…虎晶、下がりなさい」


白澤は虎晶を一瞥し、静かに告げた。


「売人については誰を犠牲にしようとも、

地の果てまで追いかけ、

売人には然るべき処罰を下す。

 ――この場を借りて、私が誓いましょう」


その言葉に、虎晶は振り上げた拳をゆっくりと下ろした。


「……今度は誰を犠牲にするんだ」


静かに、しかしはっきりと。


「やっぱり俺は、あんたのやり方に納得できない」


迅の視線は、まっすぐに白澤を射抜いていた。


「仲間を犠牲にするあんたは、間違っている」


白澤は笑みを消す。


「それは――」


「我々への宣戦布告と、受け取ってよろしいか?」


白澤が、低く問い返す。


幹部たちの鋭い眼光が、一斉に迅へと向けられた。


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