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第9章 5 火中の狐

とにかく追わないと……!


美咲は身を翻し、声の主を追いかける。


しかし目の前には、市場を巡る客の集団が立ちはだかり、あと少しのところで距離を離される。


「ああっ待って…!」


押し込まれながらも、人の隙間をすり抜けて追いかける。


かなり先で、階段を降りていく影が見えた。


「もうあんな所まで……!」


かすかに聞こえる数字の羅列を頼りに、美咲は走る。


階段にたどり着き、その先で橋を渡る影を捉える。


「これなら追いつける……!」


階段を駆け下り、その後を追う。


橋を渡り、左手へと曲がる影に近づく。


曲がった先で、あるパーツ屋が目に留まる。


並んでいるパーツは、どれも見たことのない調整が施されており、人だかりができていた。


特に目を引くのは、可変式の腕パーツ。


動きに合わせてスライドする構造で、腕が鋭い刺突武器へと変形し攻撃。


さらにその刺突武器が折り畳まれ、堅牢な盾として防御にも転用できる。


「すごい……紫電の両腕に装備させてみたい……」


思わず足が止まりかける。


はっと我に返る。


追いかけていた影は、また遠ざかっている。


「しまった……! でもめっちゃ気になる、このお店……!!」


苦渋の決断で店を後にし、その場を走り抜ける。


「嬢ちゃん! 戦闘にも移動にも使える最新鋭のロードバイクはどうだい!」


「ギアをチェンジして短時間エア走行も可能な優れものだよ!」


今度は向かいの店の客引きが目に入る。


「……っ!!」


何それ――氷を削り出したような流線型のボディ。


思わず目を奪われる。


「めっちゃカッコいいんだけど……!」


「……はっ!」


美咲は歯を食いしばる。


「今なら買えるよ〜! 一台しかない特注品だからね〜!」


涙目になりながら、その場を駆け抜ける。


「なんでこんなに気になる店が次から次へと……!!」


影を追いかけ続け、たどり着いたのは酒場だった。


市場の中でもかなり広い区画を占める、出店に囲まれた大きな酒場。


ただならぬ雰囲気を纏ったプレイヤーたちが席に座っている。


装備からしても、レアリティの高い一級品ばかりだ。


「見ろよ、あいつら……噂の」


「ああ、遺跡探索最前線の攻略組ギルド……」


「火竜兵衆……!」


周囲のプレイヤーたちが、思わず息を潜める。


畏怖が、ざわめきとなって広がっていく。


そのざわめきを止める影。


――その男は、迷いなく席のプレイヤーたちに声をかける。


「おう、今回の遠征で目的の物は手に入ったかよ?」


話しかけられたプレイヤーは、テーブルの上にひときわ輝く鉱石を置いた。


「十八層まで辿り着き、注文通りの代物を手に入れてきた」


「人形使い、約束は果たしたぞ、今度はお前が果たす番だ」


男はにやりと笑う。


「仕方ねぇな、約束は約束だ……」


鉱石を見つめながら、静かに言い放った。


人形使いと呼ばれた男は、机の上に置かれた鉱石を無造作に掴む。


「団長、大丈夫ですか」


隣の実直そうなプレイヤーが、警戒するように男を見つめる。


「龍脈石を、こんな奴に託して……」


「風体は怪しいが、この男の実力は本物だ」


対面に座る男が静かに言い切る。


「俺は、こいつ以上の技師をこの国で見たことがない」


――人形使い、祖之。


その名が、場に落ちる。


男は、再び呟き始める。


変則的に。


だが確かに刻まれていく、数字の羅列。


その軌跡は、数字という筆で形を描くように空間をなぞっていく。


「この鉱石の性能……」


「火竜兵衆をまとめるお前の力量……」


「そして仮想敵――九尾の晩餐」


淡々と、しかし確信を持って重ねていく。


「……新しい武器の理想値が見えた」


口元がわずかに歪む。


「見たことのない数値だ」


短く笑う。


「明日までに持ってくる」


「また同じ時間にここに来い――劉翔」


視線が鋭く細められる。


火竜兵衆の長 劉翔の名が、静かに呼ばれた。


人形使い、祖之は席から離れる。


そのまま何事もなかったかのように、酒場を後にする。


そして――


出口で、視線がぶつかる。


美咲と祖之。


一瞬の静寂。


互いの存在を、確かに認識する。

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