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第9章 6 火中の狐

美咲が声をかけようとしたその瞬間、祖之はまるでそこに誰もいないかのように見向きもせずにすれ違う。


その横顔あまりにも冷たい表情。対照的に、深紅の淡い赤色が、瞬きのたびに揺れていた。


明鏡止水が刀をかざし、その歩みを止める。


その様子を見ていた酒場のプレイヤーたちは、一斉に談笑を止める、


静寂の中、席を立つだけが響く。


いつの間にか、美咲と明鏡止水を囲み、鋭い視線を向けていた。


誰も声を発しない。


しかし、明確な敵対心がそこにあった。


「何、こいつら……」


美咲は周囲を見渡す。


どのプレイヤーも、アバターのパーツの一部に赤い線が刻まれていた。


祖之は明鏡止水をじっと観察している。


足元から胴体、腕、そして刀へ――。


刀の柄から鞘の先にかけて、人差し指でなぞるように触れる。


祖之は、堪えきれないようにクスクスと笑った。


「ここまで精度の高いAIは初めて見た……いったいどういうことだ、これは……」


祖之は、明鏡止水を見据える。


そこへ周囲を囲むプレイヤーの中から一際大きいプレイヤーが前へ出る。


「余所者が何しにここに来た」


低い声で問う。


また一歩近づこうとした所、祖之が間に立つ。


「安心しろ。こいつらは俺の工房の客だ」


祖之は欠伸を交えながら答えた。


問いかけたプレイヤーと祖之が、無言で睨み合う。


その視線を切るように、祖之は出口の方へ振り向く。


睨みを利かせていた周囲のプレイヤーたちも、張り詰めていた緊張がほどけるように、それぞれ元の席へと戻っていく。


祖之は歩きながら、一言だけ声を発した。


「黙ってついてこい……」


その言葉に促されるように、美咲と明鏡止水は後を追うー。


酒場を後にした三人は


少し進んだ先の横に面した路地へ入る。


路地は暗く、廃棄されたアイテムが足場に散らばっている。


突然祖之は立ち止まると

仕切り直すように振り返った。


その顔には、どこか企みを感じさせる笑みが貼り付いている。


警戒する美咲と明鏡止水。


だが祖之はそんな様子に意を介さず、距離を詰めて明鏡止水を舐め回すように観察する。


ぐるりと一周し、細部まで確認していく。


動作は安定している。


「関節の動きは柔らかく、動作はかなり人間に近い。その場の状況を理解し、即座に対処できる高度な知性…。はっはっはっ……どういうことだ、こりゃ」


乾いた笑いが路地に響く。


「ちょっと、さっきの奴らなんだったの?」


美咲は呆れを含んだ声で問いかける。


「ここじゃ余所者を特に毛嫌いしていてな」


祖之は気のない様子で答える。


「お前らがどっから来たか知らんが、この都市じゃ遺跡の占領、略奪、PK……何でもありだ」


「酒場で敵対行動を見せりゃ、ああなる」


祖之は半ば適当に受け答えするように、視線も向けずに言い切った。


祖之のはぐらかした態度に、美咲は疑いの目を向ける。


「納得いかねぇって顔だな」


祖之はそう言って、口元を歪める。


「だったら交換条件だ」


「お前らが欲しい情報と引き換えに、コイツの情報を出せ」


明鏡止水の胸の装甲をドンと叩き、祖之は瞳孔を開く。


「そしたら答えてやるよ」


美咲は心の中で呟く。


(よくわからないけど、こいつにこの情報を渡したらまずい気がする……)


(でも、中国都市の異変に間違いなくこの男が絡んでいるのは確実……)


(踏み込まなきゃ、真実は見えてこない…)


美咲は口元を結び、小さく頷く。


「……決まりだ」


祖之が軽く笑う。


「改めてようこそ」


「ここが俺の工房だ」


祖之が手を壁に添えると、路地の壁が震えた。


壁が二つに分かれ、その奥に巨大な空間が姿を見せる。


奥の一面にはアバターが貼り付けられており――


巨大な工房が姿を現す。

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