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第9章 3 火中の狐

「てかさ、この映像どっから持ってきたの?」



明鏡止水は、顔を逸らす。



「……答えないなら倉庫に戻ろっか」



美咲は目を細めながら、デバイスの接続を切ろうとする。



「待て」



即座に制止が入る。



「これはイベント中の配信映像を切り取ったものだ。違法な取得ではない」



「ふーん?」



美咲はさらに目を細める。



指先で映像を拡大し、明鏡止水に見せる。



「ただの拡大した画像じゃこんなに綺麗に撮れないよね?」



「会場の監視カメラの映像も使って、

複数視点の統合……やってるでしょ」



沈黙。



明鏡止水は、また視線を逸らす。



「……やってるじゃん」



美咲はため息をつく。



肩をすくめる。



「バレないようにやってよね、BANとかゴメンだから」



「……承知した」



「せっかくだし使わせてもらうけど…!」



美咲はデバイスを展開する。



フードの男の映像を呼び出し、足、手、顔、身体と順に拡大しながら、細かく切り取っていく。



「マテリアル構成は普通っぽいけど……フレームが滑らかだし、分子再構築合成のタイプかな」



表示されたデータをなぞりながら、小さく頷く。



「結構いいパーツ使ってるじゃん」



パーツ全体のバランスを見て、少しだけ口元が緩む。



「構成は紫電と近いし……スピードタイプ寄りみたい」



さらに情報を展開し、細部へと視線を落とす。



「……ん?」



手元で指を止める。



手のパーツを拡大する。



流線型のしなやかな材質。

指の背に走る一本のライン。



「こんなの、見たことないな」



少し首を傾げる。



「市場に出てるやつはだいたい覚えてるけど……これは照合しても登録されてないみたい」



データベースを走らせるが、該当なし。



「ノーネームパーツ……かな」



軽く息を吐く。



全体を見直す。



「パーツ自体はまともなのに、ちょいちょいカスタム入れてるし……」



少し楽しそうに笑う。



「選び方も癖あるな、これ〜。どんな人が組んだんだろ」



視線が戻る。



「色彩やパーツの選び方からして……中国都市のプレイヤーっぽいかな」



少し考える。



「そういえば、足がつかないカスタムしてるエンジニアが中国都市にいるって噂、聞いたな〜」



軽く振り返る。



「ちょっと見に行くの、アリじゃない?」



明鏡止水を見る。



「……その分析に異論はない」



静かに返答が来る。



「このプレイヤーには観測対象として興味がある」



明鏡止水の言葉に、美咲は小さく笑う。



「私はどっちかっていうと、調整したエンジニアの方が気になるかな」



軽く肩をすくめる。



「こんな技術持ってるのに見たことないし」



「どういう人なのか、同じエンジニアとして普通に気になるじゃん」



そう言って、美咲はウインドウを閉じる。



「じゃあ決まり!現地で何かあったら守ってよね」



「善処しよう」



美咲についていくように、明鏡止水は歩く。




中国・上海都市 転送ゲート前



美咲は転送時の眩い光を手で遮りながら、中国・上海都市に降り立つ。



夜とは思えないネオン街の光量が、転送の光をかき消す。



肩がぶつかりそうになるほどの人の密集に、美咲は少し後ずさりし、大通りの隅へと移動する。



すれ違うプレイヤーの顔が険しい。



周囲を警戒するような鋭い視線と、同じギルドと思われるプレイヤーの集団が、町中をかき分けるように進んでいく。



上海都市は、最前線のような雰囲気を漂わせていた。



息の詰まるような緊張感が走る。



美咲は腕を組み、周囲を観察する。



「この都市の状況、どう思う?」



明鏡止水は首をわずかに傾けながら、プレイヤーたちを観測する。



「不安と疑念が満ちているな」



淡々とした合成声が返る。



「この感情は、特定の対象ではなく周囲の人間に無差別に向けられている」



わずかに間を置く。



「この種の感情は、争いが起因している確率が高い」



「無論、他の要因も考えられるが、この規模で広がっている以上、争いの影響は無視できない」



静かに言い切る。



「争いは、争いを伝播させる性質を持つからだ」



明鏡止水の分析に、美咲は考え込む。



「イベントの妨害といい、なーんか変な空気」



言葉とは裏腹に、声は弾んでいる。



「目的のエンジニアが巻き込まれてないといいけど…」



群衆の中、次々と歩いていく人々が吸い込まれていく影がある。



「…!」



地下へと続く階段。



近づくと、先は見えないほど深い。



うねりを上げるように空気を飲み込み、人々は誘われるように入り込む。



それに呼応するように、美咲は足を進める。



呼吸が荒くなる。降りるたびに鼓動が早まる。



歩くたびに足音が反射して、通路に響く。



そして、その先は――。



複雑怪奇に建物が編み込まれ、どこまでも深く下へと続いている。



歪に形成された橋や階段が、人を渡していた。



開けた視界に映るのは、闇に輝く地下の市場だった。

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