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やり直し聖女の幸せぐーたら計画〜過労死を回避したら隣国の放蕩王子からの溺愛ルートに入りました〜  作者: 夢旗ひつじ


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2/4

放蕩王子は重要人物

 幸せぐーたら計画はいきなり難航している。


 私にとって幸せなぐーたらとはなんなのかと考えた結果、『とにかくたくさん寝たい』という安直なものしか浮かばなかった。

 自分の企画力のなさにがっかりする。


 その安直な計画も実行に移すことは難しかった。


 今朝は魔晶石に祈りを捧げて、夜である今は私とカルドス様の結婚記念パーティーの主催として社交に励んでいる。

 昼間はもちろんパーティーのための身支度と事務仕事に奔走していたから、ぐーたら計画は一歩も前進していない。


(カルドス様の妻でいる限り、ぐーたらなんて夢のまた夢なのでは?)


「大丈夫か? ぼんやりしているように見えるが」

「あ、ええ。大丈夫です」

「君の体が一番なんだ。無理をしないでくれ」

「ありがとうございます」


 密かに絶望していた私を気遣うカルドス様は、惚れ惚れするような優しい微笑みを浮かべる。

 端から見たら完璧な夫でしかない彼の姿に令嬢達が憧れのまなざしを向けていた。


「見た? カルドス様、本当にお優しいわね」

「ヴェルダリアが豊かなのもカルドス様がリリィ様を心から愛しているからよ」

「羨ましいわ」


(いいえ、この人は不倫してます。優しいのは人前だけです)


 言えるはずもないことを胸中でのみ呟きながら、カルドス様と微笑み合う。

 彼は私に『人前なんだからしっかりしろ』と暗に指示しているだけだなんて誰も気付かない。


 幼い頃から親交を深めてきたから、カルドス様の考えていることは大体わかる。

 カルドス様が私を愛したことは一度もないってことも。


(私がカルドス様を好きだった理由ってなんだったのかしら)


 笑顔で周囲と挨拶を交わしながら考えてみたけどわからない。


 1週目のときは絶望で気が付かなかったけど、冷静な今なら自分の本心にも気付ける。


 幸せな聖女になるために、私はカルドス様を好きになった。


 ヴェルダリアを守るために幸せな聖女になり、この身に少しでも多くのマナを蓄積しなければならない。

 その義務感から生じた恋心は、裏切られた痛みを残しつつも、今はもう冷め切っている。


 だって、私には替えがいる。

 私が死んだら、カルドス様はアイリスを聖女の座に据えるのだから。


(離婚したい……) 


 国王夫妻の結婚記念日はヴェルダリアにとって祝福すべき日。

 ヴェルダリアを守る聖女の私が幸せであることを祝うために、今夜のパーティーは開催された。

 でも、そんなの関係ない。


(決めたわ! 離婚しよう!)


「結婚二周年おめでとうございます。お二人の幸福がヴェルダリアの肥沃な大地から伝わってきますな」

「私がリリィをいかに愛しているかが国民全員に知られていることは少し照れくさくもありますがね」

「ははは! なにをおっしゃいますやら!」


 公爵と談笑するカルドス様の横で笑みを浮かべたまま、頭の中はどうやって離婚すればいいかでいっぱいになる。


 離婚したいと告げたところであっさりそうですかとはいかないだろう。

 プライドの高いカルドス様は、理由もなく私にフラれた男になることは許さないはず。

 アイリスとの不倫を指摘しても、『女なのだから我慢しろ』と言われておしまいだ。


 悩んでいたそのとき、会場であるホールの出入り口から黄色い悲鳴があがった。


「ラグニス様よ!」

「まあ、お噂通りすてきな方……!」


 女性達の視線をあっという間に集めたその人は、フロスティア大陸をヴェルダリアと二分する隣国ゼフィーリアの王子ラグニス様だ。

 ふわふわとした黒髪に色っぽい垂れ目がちな紫の瞳を持つ彼は、すらりと背が高く、王族としての圧倒的なオーラを放っている。


 両腕に肉食らしいご令嬢を連れて現れた彼は、ぽやっとして見えるけどとんでもない遊び人だという噂だった。

 彼の名はゼフィーリアの放蕩王子としてフロスティア大陸全土に知られている。


(あんなに女性を侍らせて……。いくらかっこよくても、浮気な男はだめよ)


 浮き足立つご令嬢達に『ああいう男はやめておきなさい。不倫されたら腸が煮えくり返るくらい腹が立つわよ』と言って回ってやりたい気分になったけど抑え込む。


 カルドス様と共に、私はラグニス様に挨拶へ向かった。


「ようこそいらしてくださいました、ラグニス様」


 笑顔のカルドス様に、ラグニス様も笑みを返す。


「遅れてしまって申し訳ございません。ごめんね、ちょっと離してくれる?」

「ええ? 絶対あとでまたお話してくださいませね」

「待ってますわよ」


 両腕に絡みついていたご令嬢ふたりを甘い声で追い払ったラグニス様が襟を正す。

 そのとき、一瞬首元に赤い小さな痣が見えた。

 あれは間違いなく付けられたばかりの新鮮なキスマークだ。


(遅刻理由ってそういうこと? なんて不真面目な……)


 軽蔑する気持ちが表情に出ないように苦労する。

 ラグニス様はふーっと息を吐いてから私達に向き直った。


「今夜はご招待いただき、ありがとうございます。おふたりの幸福とヴェルダリアの繁栄が続くことを心よりお祈り申し上げます」

「ありがとうございます」


 カルドス様がお礼を言うのに合わせて、私もにっこりと笑みを深める。

 ラグニス様は女性を虜にする甘い笑みで応じて、私達が去るとすぐに待ち構えていたご令嬢達に捕まっていた。


「放蕩王子の名は伊達じゃないな」

「噂通り女性に愛される方ですね」


 小声で呆れを露わにするカルドス様に同意する。


 そのとき、私の中に雷のようなひらめきがあった。


(ということは、女性である私がうっかり彼を愛してしまっても不思議ではないのでは!?)


 バッとラグニス様を振り返る。


 女性に囲まれて何やら話をしているラグニス様はゆったりとした所作に色気があり、涙ぼくろが艶っぽい。

 どんな女性でも落とせてしまいそうな魅力がある彼を見て確信した。


(簡単なことだわ。私も不倫すればいいのよ!)


 聖女が不倫なんて前代未聞の行動を起こしたらどうなるか。


 私にはアイリスという代わりがいる。

 離婚したって、カルドス様もヴェルダリアも困らない。

 つまり、私が不倫をすればカルドス様は『裏切られた夫』として躊躇なく私を捨てられる。


 幸せぐーたら計画の第一段階が決まった。

 私は、ラグニス様を相手に不倫をする。

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