第8話:大食い怪獣ラグナと、破産寸前のツヨシ
「頼むからもっとゆっくり噛んで食べてくれぇぇぇ!!」
ギルド裏の解体場で、ツヨシの悲鳴がこだました。
ツヨシの目の前では、登録手続きを終えたばかりの相棒・ラグナ(全高四メートル超級)が、山積みにされた巨大丸焼き肉を「丸呑み」にしていた。
ゴクンッ!
巨大な肉の塊がラグナの長い喉を通っていくのが外からでもわかる。時間にして、わずか三秒。
「ガウッ♪(ごちそうさま!)」
ラグナは満足そうに黄金色の瞳を輝かせ、ツヨシに向かって「おかわり」を催促するように前脚をペチペチと鳴らした。その衝撃で解体場の木箱がガタガタと揺れる。
「おかわりって言われてもなぁ!? 今ので金貨三枚飛んだんだぞ!? 俺の全財産、もう銅貨五枚しかないんだよ!!」
そう、大怪獣の成長期における胃袋は、文字通りブラックホールだった。
ギルドの修繕費と保証金で金貨一〇〇枚の借金を背負ったツヨシ。それに加えて、ラグナが一日に消費する食料は、最低でも牛二頭分。
「このままだと、明日には俺が街の路地裏で野宿どころか、ラグナの餌代のために俺の臓器を売るハメになる……!」
絶望に打ちひしがれるツヨシに、受付のクリスが冷ややかな視線で書類を差し出してきた。
「困っているようね、ツヨシ。なら、手っ取り早く稼げる方法があるわよ」
「ほ、本当ですかクリスさん!? どんな仕事でもやります!」
「ギルドの掲示板の奥にある『難関討伐依頼(Sランク・Aランク)』よ。普通の冒険者パーティーなら全滅覚悟の危険な魔獣退治だけど……報酬は一回につき金貨二〇枚以上。今のあなたたちなら、ピッタリじゃない?」
ツヨシは掲示板に並ぶ凶悪な魔物の指名手配書を見上げた。
「これだ……! これしかない! ラグナ、食いぶちは自分で稼ぐぞ!!」
「グオオン!」
◇
最初のターゲットは、近郊の渓谷を荒らし回る「岩甲巨亀」。
体長六メートル。全身が強固な金剛石並みの岩で覆われており、並の剣や攻撃魔法では擦り傷一つつけられない、冒険者泣かせの頑強な魔物だ。
渓谷の奥で待ち構えていたグラン・タートルは、ツヨシとラグナを見るやいなや、巨体を丸めて岩の球体となり、凄まじいスピードで突進してきた。
「うわっ、重戦車みたいな突進だ!」
慌てるツヨシだったが、持ち前の特撮オタクの血が即座に覚醒する。ツヨシの『怪獣愛(LV.MAX)』スキルが脳内で警報を鳴らした。
「待てよ……全身硬い装甲で覆われた怪獣……これは特撮映画でよくある『対・重甲魔獣戦』のパターンだ!」
ツヨシは思考を高速回転させ、グラン・タートルのフォルムを分析した。
「いくら外殻が硬くても、内部までカチカチなわけがない! 甲羅の隙間……首を引き抜く瞬間の『関節の柔らかい肉』! あそこが弱点だ!」
ツヨシはラグナの背中の上でメガホン代わりに手で筒を作り、叫んだ。
「ラグナ! 正面から叩くな! 突進を横に避けて、すれ違いざまに尻尾で横転させろ! ひっくり返せば首が出る!」
「ガウッ!」
ラグナはすさまず突進をサイドステップでかわし、すれ違いざまに巨大な尾を豪快に叩きつけた!
ズバァァァンッ!!
「ゴモッ!?」
バランスを崩したグラン・タートルは、豪快に横転。腹を上にして四肢をバタバタとさせ始めた。予想通り、首を外に伸ばして起き上がろうとする。
「今だラグナ! 露出した首の根元に……『寸止め熱線』の要領で、至近距離から一撃叩き込めぇぇぇっ!」
ラグナの背鰭が青く光り、凝縮されたエネルギーが首の根元を貫いた。
チュドォォォンッ!!
弱点を的確に突かれたグラン・タートルは、一瞬で沈黙。かかった時間は、わずか三分だった。
◇
二つ目の依頼は、湿地帯に潜む「多頭毒蛇」。
切られても再生する九つの首を持つ、絶望の魔獣だ。
普通の冒険者なら「斬っても再生する!」とパニックになるところだが、特撮オタクのツヨシには通じない。
「再生系怪獣の攻略法は昔から決まってるんだよ! 『再生細胞が焼き尽くされるほどの超高熱で全首を同時に蒸発させる』か、『核を一撃粉砕』だ!」
ツヨシはヒュドラの九つの首が交差する「胸元の発光部分」を目ざとく見つけ出した。
「ラグナ! 雑魚首は無視だ! 胸元の核を狙え! 咆哮で動きを止めてから、フルパワー熱線だーっ!」
『グラアアアアアアアアッ!!!!』
ラグナの超重低音の大咆哮が湿地帯を揺らす。九つの首が恐怖で一斉に固まった瞬間、青白く輝く放射熱線が真っ直ぐ核を貫通。
ズドドドォォォンッ!!
再生する隙すら与えず、多頭毒蛇は一瞬で光の露と消えた。
◇
その後も、ツヨシとラグナの快進撃は止まらなかった。
飛行して逃げ回る「巨大怪鳥」には、ツヨシが風向きと軌道を計算し、ラグナの「偏差射撃(予測熱線)」で一撃撃墜。
地中に潜る「巨大ワーム」には、ラグナの「踏み荒らし(地震攻撃)」で引きずり出し、弱点の腹部を叩き潰す。
ツヨシの「怪獣生物学に基づいた弱点看破(ただのオタク知識)」と、ラグナの「圧倒的破壊力」。
この二人の(親バカ)コンビネーションの前に、ギルドの難関討伐依頼は次々と、まるで作業のように消化されていった。
◇
その日の夕方。冒険者ギルド。
「……信じられないわ」
受付のクリスは、カウンターの上に山のように積まれた「討伐証明の部位」と、報告書の束を前にして呆然としていた。
Sランク依頼三件、Aランク依頼五件。
腕利きの冒険者パーティーが数ヶ月かけてこなす量の難関依頼が、たった一日で、しかもたった一人と一頭(?)によって完遂されたのだ。
「はい、これ報酬の金貨一五〇枚ね……」
クリスからズッシリと重い金貨の袋を受け取り、ツヨシは「勝った……!」と涙を流した。
「やったぞラグナ! 借金一括返済! お前のご飯も牛五頭分買い占められるぞーっ!」
「グオオオンッ♪」
ギルドの裏手で、ラグナが歓喜の大咆哮をあげた。その振動でギルドの天井からパラパラとホコリが落ちてくる。
周囲の冒険者たちは「あいつら一日にどんだけ稼ぐんだよ…」「ていうかあのテイマー、指示が的確すぎて怖いんだが…」と引いた目で見つめていたが、ツヨシたちの知ったことではない。
「よしラグナ! 今夜はパーティーだ! 街で一番デカい肉屋の肉を全部買い占めるぞ!」
「ガウガウ♪」
膨大な胃袋を持つ相棒と、それを支える特撮オタクの知識。
破産寸前だった二人は、一日にしてギルドトップクラスの「超・稼ぎ頭」へと成り上がったのだった。
しかし、この時のツヨシはまだ気づいていなかった。
二人が街で目立ちすぎた結果、闇の底から彼らの「怪獣の力」を狙う怪しい影が忍び寄ってきていることに――。




