第7話:交易都市入城! ギルド登録とテイムの証明
交易都市アーデルハイド。
石造りの壮麗な街並みと、東西から集まる行商人たちの活気に満ちたこの都市は、今やパニックの渦中にあった。
原因は、関所横の広場に鎮座する巨大な「何か」である。
「ドシン……ドシン……」
全高四メートル超。全長八メートル超。
漆黒のウロコに包まれ、背中には凶悪な三角形の背鰭をズラリと生やした謎の超巨大モンスター――ラグナが、退屈そうに尾をペチペチと地面に打ち付けている。そのたびに「地鳴り」が発生し、遠巻きに見守る街の人々が「ひえっ!」「また揺れた!」と悲鳴を上げていた。
当のツヨシはというと、命の恩人である商人ガルノに連れられ、街で最も巨大な建物――冒険者ギルド本部のドアを叩いていた。
◇
「……正気か、ガルノ?」
冒険者ギルドの受付カウンター。
対応に出たのは、銀髪をきっちり束ねたベテラン職員の女性・クリスだった。彼女は提出された申請書と、窓の外に見える「二階建ての家よりデカい影」を交互に見比べ、頭痛をこらえるように眉間を押さえている。
「あそこに座っている『動く巨大建造物』みたいな魔物を、この青年……『レベル1の迷子』の従魔として登録したいだと?」
「そうだ! ツヨシ殿はこのラグナちゃん(仮)を見事に従えておる! ワイバーンを一撃で叩き落とすほどの強さじゃぞ!」
ガルノが鼻息荒く熱弁するが、クリスは冷ややかな視線をツヨシに向けた。
「青年。嘘はよくないわ。テイム(従魔術)というのは、高度な魔力制御と強い精神力が必要な高等技術よ。レベル1の冒険者が、あんな災害級の個体(ドラゴン級以上に見えるけれど)を従えられるわけがないでしょう」
「いや、嘘じゃないんです!」
ツヨシは必死に訴えかけた。
「あいつは確かにデカいですけど、中身はめちゃくちゃ甘えん坊で、俺の言うことを完璧に聞くんです! ほら、ステータス画面にも……あ、ステータスには『怪獣愛(LV.MAX)』しか書いてないや……」
「怪獣愛? なにそれ、聞いたこともないスキルね……」
クリスはあきれ顔で溜息をついた。
「いい? 従魔として認めるには、ギルド規定の『証明の儀』をクリアしなければならないの。つまり、『テイマーの指示に正確に従うこと』と『無意味に暴れないこと』を、試験官の前で実証してもらうわ。……ただし、万が一暴走したら、即座にギルド総出で討伐することになるけれど」
「討伐!?」
ツヨシは青ざめた。ラグナに討伐隊の攻撃が当たったら、ラグナが怒って「放射熱線」をブチ撒けてしまう。そうなればこの綺麗な交易都市が一瞬で更地(特撮の爆破セット状態)になってしまう!
「分かりました! やります! 証明してみせます!」
◇
ギルド裏手の広大な訓練場。
厳重な警戒体制の中、ツヨシ、ガルノ、クリス、そして武装した高ランク冒険者たちがズラリと並んでいた。
広場の中心には、関所から移動してきたラグナが「ドシン」とお座りしている。
ラグナは周りの物物しい雰囲気に臆するどころか、「いろんな人間がいっぱいいる~♪」とばかりに黄金色の瞳を輝かせ、尻尾をブンブンと振っていた。
「では、試験を始めるわ」
クリスが羊皮紙のメモを手に、冷徹な声で告げる。
「第一課題:『指示への即応性』。基本的な命令に従えるか試させてもらうわ。……青年、指示を出しなさい」
「了解です! ラグナ、行くぞ!」
ツヨシが広場の中心へ歩み出ると、ラグナは「きゅい〜ん(重低音)」と嬉しそうに身を乗り出してきた。
「まず第一の指示! 『お手』!!」
ツヨシが右手を掲げると、ラグナは「ガウ♪」と鳴き、丸太のような太い前脚をぬっと突き出した。
ズドォォォンッ!!
ツヨシの手に触れる直前、ラグナは優しく前脚を寸止めしたが、その風圧と質量だけで訓練場の石畳がメキメキと砕け散った。
「「「「ヒッ…………!???」」」」
周囲で見守っていた高ランク冒険者たちが、揃って腰を抜かした。
「よし、次は『伏せ』!」
ツヨシが手を下げると、ラグナは巨体を低くし、地面にベタリと伏せた。
「最後に、『待て』!」
ツヨシが手のひらをかざすと、ラグナは「くぅん」と鼻を鳴らし、一切動かなくなった。ハエが鼻先に止まっても、ピクリとも動かない完璧な「待て」である。
クリスは呆然とメモを取る手を止めていた。
「な……なんて完璧な服従……。あんな巨大な魔物が、指一本でコントロールされている……!?」
「フフン、甘いですねクリスさん。ラグナの凄さはこれだけじゃありませんよ!」
ツヨシのオタクの血が騒ぎ出した。ただ命に従わせるだけでは「怪獣の美学」が足りないのだ。
「ラグナ! 次は英才教育の成果を見せてやれ! 『威嚇からの、寸止め熱線』だ!!」
「ちょ、熱線!?」クリスが悲鳴を上げる。
ラグナは目を見開き、どっしりと大地を踏みしめると――
『グラアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』
訓練場全体、いや、都市の半分を揺るがす圧倒的な重低音の大咆哮を響かせた! 衝撃波で冒険者たちの装備がガタガタと震える。
直後、ラグナの背鰭が尾から首にかけて、パチパチと順番に青白く激しく発光!
ジジジジ……カッ!!
口内に目も眩むような青いエネルギーが凝縮され、発射寸前の最高潮に達した――その瞬間!
「はい、ストップ!!」
ツヨシがパンッと手を叩いた。
ピタッ。
ラグナは口を閉じ、凝縮された熱線のエネルギーを「ふぅ~」と小さな青い煙にして鼻から吐き出し、ケロッとした顔でツヨシに微笑みかけた。
「ガウ♪」
完璧な制御。完璧な「寸止め」。
訓練場は、静寂に包まれていた。
高ランク冒険者たちは泡を吹いて倒れており、クリスは持っていた羊皮紙をパラパラと地面に落とした。
「……あ、あり得ないわ……。あの絶大な破壊エネルギーを、一瞬で収束・キャンセルさせるなんて……。テイマーの意思が完璧に伝わっていないと不可能な芸当よ……!」
クリスは震える手で眼鏡を掛け直し、ツヨシを驚愕の眼差しで見つめた。
「認めざるを得ないわ。この魔物は……あなたの完璧な『従魔』よ。名前は……?」
「ラグナです!」
「……わかったわ。登録名『ラグナ』。種族……測定不能(判定:特級大型魔獣)。テイマー名『ツヨシ』。……正式に冒険者ギルドへの登録を認めるわ!」
「やったーっ!!」
ツヨシが飛び上がって喜ぶと、ラグナも嬉しそうに「グオオン!」と咆哮を上げた。
こうして、ツヨシとラグナは正式に冒険者ギルドの一員となり、交易都市での生活権を手に入れたのだった。
しかし、一安心したツヨシの前に、クリスが笑顔(ただし目が笑っていない)で一枚の紙を差し出してきた。
「おめでとうツヨシ。……ところで、これ『訓練場の石畳の修理費』と『ラグナちゃんのギルド滞在保証金』の請求書ね。合計で金貨100枚になります」
「……は?? 金貨100枚……!?」
ツヨシの顔から血の気が引いていく。
さらに、関所に移動したラグナのお腹から「ゴロロロロ……」と、落雷のような重厚な腹の虫の音が響き渡った。一食で牛一頭分を平らげる大怪獣の胃袋が、飯を求めている。
「が、額がエグすぎる……! 飯代どころか、借金地獄からのスタートかよーッ!?」
ツヨシの異世界生活第二幕は、感動の合格から一転、破産寸前の超ドタバタ金策サバイバルへと突入していくのだった。




