第6話:変装? 隠蔽? 関所大騒動
「ひええぇぇぇっ! 上からはワイバーン、横には謎の巨大トカゲぇぇぇっ! 終わった、我が人生完全に終わったぁぁっ!」
商人が御者台で頭を抱えて叫び、護衛の剣士たちも顔面を蒼白にして剣を構え直す。
上空から猛スピードで滑空してくる二匹の飛竜。狙いは完全に、立ち往生している馬車と馬たちだ。鋭い鉤爪が日光を反射してギラリと光る。
「ラグナ! 頼む、あの飛竜を叩き落としてくれ! じゃないと俺たちの『第一町人発見』が全滅で終わる!」
「グオオンッ!」
ツヨシの叫びに、ラグナが重厚な咆哮で応えた。
馬車へと襲いかかろうとした一匹目のワイバーンに対し、ラグナは巨体をひねり、鞭のようにしなる巨大な尾を豪快に振り抜いた!
ズバァァァァンッッ!!!!
特撮映画のVFXも真っ青な重厚な打撃音が空気を打ち破る。
「ギニャッ!?」
空中を飛んでいたはずのワイバーンは、ラグナの尾の一撃を胴体に直接喰らい、まるでフルスイングされた野球ボールのように遥か彼方の岩山へと吹き飛んでいった。チュドーン! と遠くで盛大な煙が上がる。
「な……なんだと……!?」
護衛の剣士が目玉を飛び出さんばかりに見開いた。
残るもう一匹のワイバーンが、仲間の惨劇に驚愕しながらも軌道を修正し、ラグナの頭上から毒のブレスを吐き出そうと口を開く。
「ラグナ、上だ! 熱線はダメだぞ、後ろの馬車が巻き込まれる! 爪で引っ叩け!」
ラグナはツヨシの指示通り、口を閉ざすとどっしりと後脚で立ち上がった。全高四メートルの巨体が二足立ちになると、その威容はもはやビルの一角のような圧倒的存在感となる。
迫り来るワイバーンに対し、ラグナは大きな前脚を振り上げ――豪快な張り手(怪獣パンチ)を繰り出した!
ドカァァンッ!!
「ギャフン!?」
頭上から襲いかかったワイバーンは、ラグナの巨大な前脚によって地面へと叩きつけられ、深々と穴を掘る形で埋まった。白目を剥いてピクピクと痙攣している。完全ノックアウトだ。
静寂が戻った街道。
ものの数秒で二匹のワイバーンを壊滅させたラグナは、満足そうに「ふしゅー」と鼻息を吹くと、再びドシンと腰を下ろし、ツヨシに向かって「甘えモード」のつぶらな瞳を向けた。
「ガウ♪」
「よしよし、えらいぞラグナ! 完璧な撃退だ!」
ツヨシがラグナの大きな顎の下を撫でてやると、ラグナは目を細めてゴロゴロ(重低音)と喉を鳴らした。
その光景を、商人と護衛たちは口をぽかんと開けたまま、呆然と眺めていた。
「あ……あの……大丈夫ですか?」
ツヨシが声をかけると、商人が弾かれたように御者台から飛び降りて駆け寄ってきた。
「す、素晴らしい……! なんという強さじゃ! ワイバーンをまるでハエ叩きのように……! 青年、お主、この恐ろしい魔獣を従えておるのか!?」
「あ、はい。……だから言ったじゃないですか、『珍しい巨大な犬(相棒)』だって」
「どこが犬じゃ!! どう見ても伝説級の魔獣じゃろうが! ……いや、しかし命の恩人には変わりない! ワシは行商人のガルノだ。恩人殿、街へ向かうのなら一緒に行かんか? ワシの紹介なら関所の通過もスムーズになるはずじゃ!」
こうしてツヨシとラグナは、商人のガルノたちの馬車に同行し、街の入り口にある「関所」へと向かうことになったのだった。
◇
「……で、ガルノさん。これがその『カモフラージュ』ですか?」
一時間後。街の巨大な壁と関所が見えてきた街道で、ツヨシはツッコミを入れた。
現在、ラグナの頭から尻尾にかけて、ガルノが商品として積んでいた超巨大な帆布(船の帆に使う布)が何枚も被せられ、ロープでぐるぐる巻きにされていた。布の隙間から、巨大な漆黒の頭部と黄金の瞳、そしてトゲトゲの背鰭が隠しきれずに飛び出している。
「これなら遠目から見れば、巨大な荷物を運ぶ『大型の荷車』に見えんこともないじゃろ!」
「見えませんよ! どう見ても布を被った巨大トカゲですよ! 尻尾出てますし!」
ツヨシのツッコミも虚しく、馬車と「布を被った巨大な何か(ラグナ)」は関所の門前に到着した。
門を守る兵士たちが、槍を構えてゾロゾロと集まってくる。全員の顔が引きつっていた。
「ま、待て! 止まれガルノ! お前、後ろに何を連れてきているんだ!? 地面が揺れているぞ!?」
門兵の隊長が声を震わせながら叫ぶ。
ガルノは汗をダラダラと流しながら、精一杯の営業スマイルを浮かべた。
「やあ隊長さん! これかい? これはね……その……海外から仕入れた『動く巨大な最新型建築機械』だよ!」
(嘘が雑すぎるだろ!!)とツヨシは心の中で叫んだ。
その時、ロープで縛られて退屈したラグナが、布の中から「きゅい〜ん」と甘えた声を漏らした。
隊長が青ざめる。
「……今、機械から『きゅい~ん』って聞こえなかったか? おい、布を脱がせ!」
「あ、待ってください! 刺激すると危険……じゃなくて、デリケートな機械でして!」
ツヨシが慌てて制止しようとしたが、兵士の一人が恐る恐る槍の柄で布を引っ掛け、めくり上げた。
ばさっ。
直後、露わになったのは――四メートル超級の漆黒のウロコ、立ち並ぶ凶悪な背鰭、そして黄金色に輝く巨大な瞳。
「「「「ヒエッ………………っ!???」」」」
兵士たちが全員、呼吸を忘れて固まった。
「も、モンスターだぁぁぁぁぁっ! 門を閉じろー! 敵襲――」
「待て隊長! 落ち着け!」
ガルノが間一髪で隊長の肩を掴んだ。
「この魔獣はな、途中でワシらを襲ったワイバーン二匹を一瞬で叩き潰してワシらを救ってくれたんじゃ! ほら、この青年の言うことを完璧に聞く、極めておとなしい……従魔なんじゃよ!」
「は、はい! ほらラグナ、『お座り』!」
ツヨシが指示を出すと、ラグナは素直にドシンッ! とお座りをした。関所の地面が大きく揺れ、兵士たちが「ひえっ」と跳ね上がる。
ラグナは兵士たちに向かって、人懐っこそうに「ガウ♪」と重低音で鳴き、尾をペチペチと振ってみせた。
「ほ……本当だ……。これほど巨大な個体なのに、人間に襲いかかる気配が全くない……」
隊長は額の汗を拭い、腰が引けた状態でツヨシとラグナを交互に見た。
「しかし……こんな規格外の魔獣、前例がないぞ。街の中に入れるわけにはいかん……」
「隊長さん、頼むよ。ワシの命の恩人なんだ。ギルドでテイムの正当な手続きをするまで、関所の広場に繋いでおくだけでもダメかい?」
ガルノの必死の説得と、ラグナの「つぶらすぎる瞳(とワイバーンを倒した実績)」が奏功し、隊長はついに深いため息をついた。
「……分かった。ただし! 暴れたら即座に街中の騎士団を投入するからな! いいか、絶対に暴れさせるなよ!」
「ありがとうございます!」
ツヨシは胸を撫でおろした。
こうして、変装(隠蔽)は一秒で破綻したものの、ガルノの協力とラグナの愛嬌(?)により、ツヨシとラグナは無事に関所を通過。
交易都市の門をくぐり、人間社会への第一歩を踏み出すことになったのだ。
しかし、関所の広場に座り込む「四メートル超級の巨大怪獣」を見た街の人々が、この後さらなる大騒ぎを起こすのは、言うまでもなかった。




