↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生しちゃったので怪獣を飼ってみた  作者: 羽越世雌
第1章:荒野の出会いと「特撮英才教育」編
PR
3/8

第3話:初めての「熱線」と、特撮オタクの英才教育

「ちがーう! そうじゃない! 噛みつく直前、一瞬『タメ』を作るんだよ!」


荒野の真っ只中。ツヨシの怒号が響き渡っていた。


朝起きたら案の定、ラグナはさらに一回りデカくなっていた。体長約二メートル。軽自動車くらいのボリューム感である。もはや「なでる」というより「打撃を加える」に近い手応えのスキンシップをかわした後、ツヨシはある重大な使命感に駆られていた。


怪獣映画ファンとして、この素晴らしい才能をそのまま野生のカンだけで戦わせるなど、あってはならない。

「魅せる戦い方」、すなわち【怪獣の英才教育】を施さねばならないのだ!


「いいかラグナ、よく聞け。怪獣の攻撃ってのはな、ただがむしゃらに殴りかかればいいってもんじゃないんだ。そこには『間(ま)』と『溜め』、そして『美学』が必要なんだよ!」


「ガウ……?」


木の枝をタクトのように振り回しながら熱弁するツヨシに、ラグナは首を傾げている。


「例えば、尻尾攻撃(テールスラップ)だ! 相手を打つ前、背中を反らせて一瞬静止する! そこから一気に腰を入れて振り抜く! これによって画面越し……いや、対峙する敵に『来るぞ……!』という圧倒的絶望感を与えるんだ! わかるか!?」


ツヨシは自ら腰を落とし、空想の尻尾を振り回すポーズ(特撮スーツアクターの動き)を実演してみせた。


ラグナはそれを見つめると、「きゅい?」と鳴いて真似をするようにぬ~っと腰を落とし、尻尾をゆらりと構えた。


「そう! それだ! その重厚感! 天才かお前は! 昭和平成の歴代スーツアクターたちのソウルを感じるぞ!」


ツヨシが親バカ全開で大歓喜していると――


ガサガサガサガサッ!!!!


荒野の岩陰から、不穏な重低音と地鳴りが響き渡った。


「ヒッ……!? 今度はなんだ!?」


岩山を粉砕しながら現れたのは、体長五メートルを超える巨体。漆黒の甲殻に包まれた、ハサミの直径だけで大人一人が潰せそうな「大ハサミサソリ」だった。


「キシャアーッ!!」


口からネバついた溶解液を撒き散らしながら、ハサミサソリが二人に向かって突進してくる。


「デカい! 昨日のムカデとは桁が違うぞ! ラグナ、警戒しろ!」


ラグナはすぐさまツヨシの前に立ちふさがった。体長二メートルのラグナに対し、敵は五メートル。完全に体格差で負けている。


ハサミサソリが巨大な右ハサミを振り下ろす!


ズドォンッ!


地面が爆発したように弾け飛ぶ。ラグナは間一髪で横に転がり回避したが、サソリの連撃は止まらない。左ハサミ、さらに頭上から鋭い毒針が幾度となく襲いかかる。


「ガウッ……! グアッ!」


甲殻の硬さにラグナの噛みつきが通用せず、ジリジリと後退させられるラグナ。焦りからか、動きがただの野良犬のようにドタバタし始めていた。


「落ち着けラグナ! 相手の巨体に惑わされるな!」


ツヨシは腹の底から叫んだ。ステータス画面の『怪獣愛(LV.MAX)』が狂ったように発光している(ような気がする)。


「思い出せ! 敵が重装甲の時の鉄則だ! 懐に飛び込め! 相手のリーチが長い分、密着すればハサミも毒針も届かない! ド直球に正面から行くな、サイドに回り込めーっ!」


ツヨシの的確すぎる(そして怪獣映画でよく見る)指示が、ラグナの脳内に直接届いたかのように、ラグナの動きが一変した。


サソリがハサミを振り上げた瞬間、ラグナは斜め前へと鋭くステップ。敵の懐、ガラ空きの腹の下へと潜り込んだ!


「今だ! 教えた尻尾の『タメ』だ!!」


ラグナは一瞬、グッと身を沈めて静止した。

呼吸が止まるような「間」。


そして――バゴンッ!!!!


下から上へ突き上げるように振り抜かれたラグナの尻尾が、サソリの柔らかい腹部を完璧に捉えた! 五メートルの巨体が浮き上がり、背中から地面にドシンとひっくり返る!


「しゃあぁぁぁ! 完璧なカウンター!!」


ツヨシはガッツポーズを決めた。しかし、ハサミサソリも伊達に荒野を生きていない。ひっくり返った状態で狂乱し、無数の脚を激しく動かして暴れ狂い、再び起き上がろうとする。近寄れば巻き込まれて刻み突きにされる死のゾーンだ。


「マズい……接近戦は危険だ! 一気に距離を取れ!」


ラグナは跳び退がるが、サソリは起き上がり、怒り狂ってハサミをシャキシャキと鳴らし始めた。このままでは泥沼の力押しになる。


その時、ラグナの背中に異変が起きた。


ジジジ……ッ。


「……え?」


ツヨシの目が点になる。


ラグナの背中に生えた三角形の背鰭――一番下の尻尾の付け根あたりが、うっすらと青白く発光し始めたのだ。


「ま、まさか……嘘だろ……!?」


発光は、尻尾から背中、そして首元へと向かって、順番にパチパチとリレーするように上がっていく。


ジジジ……ピカッ! ピカッ! ピカッ!


「背鰭の発光順……! これ……このシーケンスは……!!」


特撮オタクの血が、狂ったように沸き立った。脳内で伊福部昭の名曲(あのゴジラ的なテーマ)が爆音で再生される。


「ラグナ! 腹の底から魔力を練り上げろ! 吐くんだ! 口から……熱線を吐けぇぇぇぇーっ!!」


ツヨシの叫びに呼応するように、ラグナの背鰭が一際強く、眩い青白さに輝いた。ラグナは大きく胸を反らせ、空気を思い切り吸い込むと――


ッッッ――――――カァッ!!!!


言葉にならない超高音の衝撃波とともに、ラグナの口から青白く輝く熱線の束が一直線に放たれた!


細い、だが圧倒的な密度を持った熱線の光束が、荒野の空気を切り裂く。


熱線は一直線に大ハサミサソリの胸甲を貫通し、そのまま背後の巨岩に激突。


チュドォォォォォンッ!!!!


一瞬の静寂の後、大爆発が巻き起こった。


もうもうと立ち込める煙。熱線の熱で赤くドロドロに溶けたサソリの残骸と、半分吹き飛んだ岩山。


「……………。」


ツヨシは呆然と口を開けたまま、立ち尽くしていた。


「……吐いた。本当に吐きやがった……熱線(ブレス)だ……! 本物の……怪獣の熱線だぁぁぁぁぁっ!!」


「きゅい〜〜ん……」


感動で涙を流すツヨシの横で、当のラグナはというと――初めての熱線に自分の口がびっくりしたのか、目を丸くして「あつっ!」という顔で舌をペロペロと出していた。背鰭の光はすっかり消えている。


「ラグナぁぁぁぁっ! お前最高だよ! 天才だよ! 本物の怪獣だよ!!」


ツヨシは煙の臭いも気にせず、駆け寄ってラグナの首元に抱きついた。二メートル級の巨体はカチカチで温かい。


「ガウガウ♪」


ラグナは嬉しそうにツヨシをペロペロと舐め回す。舌が熱線でちょっと温かい。


「決めたぞラグナ。俺がお前を最強で一番カッコいい『大怪獣』に育て上げてやるからな! 次は熱線を吐く前の『咆哮』のタイミングを仕込むぞ!」


「ガウ?」


異世界の荒野に、ツヨシのあやしすぎるスパルタ特撮英才教育の決意が響き渡る。

しかし、ツヨシはまだ気づいていなかった。


初めて放ったその小さな熱線の「光」が、遥か遠くの街道を歩く人々の目に留まってしまったということに――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。