6-2 拠点襲撃
ゆず達が見えなくなってからも、アイ達は目を離せないでいた。
ネメシスの拠点は、ここの区画全体に及ぶそうで一番大きい元工場を中心に、周りの建物を宿舎として生活していると、捕虜にした白づくめが言っていた。
「あの工場に行くんでしょ?あんなに大きな建物で、どこにいるかもわからない人を探せるのかな?」
マイキーの窓からゆず達が向かっていった先を見ていたマイがポツリと言った。
「広いし、相手が何人いるかもどれだけ武装しているかもわからない。工場の防衛がどうなっているのかもわからないんだ、そう簡単な話じゃないよ……」
同じ方向を見ながらゼンさんが答えた。せめて偵察を繰り返して、相手の状態をもう少し調べたほうがいいんじゃないか?とゼンさんや庄司が何度も言ったが、ゆずもヒナタも首を縦にふらなかった。
「どうするの、このまま本当に二人だけで行かせるの?」
気持ちが落ち着かないのだろう。アイがソワソワしながらそう言うと、ゼンさんも庄司も渋い顔をする。
「気持ちは分かるし、俺も助けてやりたい気持ちはあるが……。仮に俺たちが手助けしたところで、どうにかなるとは思えない。……はっきり言ってしまえばそうしたところで、あの工場の中に転がる死体が増えるだけだ」
庄司が口にした言葉に、アイたちは息を飲んだ。
「ちょっ……そないなこと言うたら、ゆずさん達がまるで死にに行くみたいに聞こえるやんか!」
たまらずミィが反論するが、庄司は表情も変えずミィを見ただけで何も言わなかった。
「……言い方は悪いけど、何も違わないよ。僕たちとしては君たちをそんな目には合わせたくないから、速やかにここを離れるのをお勧めしたいね。ゆずくん達には悪いけど、僕らにとっては知り合ったばかりの彼女たちよりも、アイちゃん達の方が大切だからね」
真剣な顔でそう言ったゼンさんの言葉を聞いて、全員が黙ってしまう。
隣では庄司も頷いているので、ゼンさんと同じ意見なんだろう。
「……ねぇ、危険があまりない状態でどうにかできないの?例えば援護だけするとかさ?マイは銃を使えるし、私だって……いや、私はやめといた方がいいか。……何?マイ。その手は」
アイがそう言った隣で、何か言いたげにマイがアイの肩に手を伸ばそうとしていた。
「あ、いや……。えへへ」
「もう、笑って誤魔化さない!私だって自分が射撃に向いてないことくらい自覚してるわよ」
呆れたようにアイが言うと、マイは誤魔化すようにアイと腕を組んで甘えるような仕草をする。
それで有耶無耶にされてしまうあたり、マイに対して甘い自覚もあるが、アイはそれ以上気にしなかった。
「確かに遠距離から狙撃で援護することは可能だろう。特に今回は相手が感染者ではないことが想定される。狙撃による援護があると分かれば相手はその分動きにくくなることが期待できる」
庄司がそう言うとアイが顔を輝かせる。しかし、それはすぐに曇ることになった。
他ならぬ庄司の口から反対意見が出たからだ。
「だが、それは安全な場所を確保できていないと危険を伴う。ネメシスの連中だって馬鹿ではない。狙撃されていると思えば、狙撃手を血眼になって探す。まして、向こうの縄張りの中に飛び込むんだ、どっちが有利かは考えなくても分かるだろう」
庄司に諭すような口調で言われ、マイは眉を下げて俯く。射撃であれば自分が役に立つと目を輝かせていたのだ。
「ほんなら庄司さんは、ゆずさん達を見捨ててでも安全策を取るべきって言いたいんか?」
意気消沈したマイの隣で、ミィが挑むような口調でそう聞いた。その顔は少しばかり怒りを滲ませているようにも見える。
そして、庄司はその視線を真っ向から受け止めて、はっきりとした口調で言った。
「はっきり言ってしまえばそうだ。考えてもみろ、お前達は戦う訓練を受けた兵士じゃない。生きるために、自分の身を守るために戦う術を身につけたに過ぎないはずだ。いいか?相手から手を出されて、それに応じるのと、こちらから相手を害する意図を持って戦いに臨むことは、その意味合いが全然違う。お前達に明確な殺意を持って相手を撃てるのか?」
少し口調を強めながら言う庄司に、ミィは気圧されたように視線を逸らした。
「そ、それくらいわかっとる。必要があればきっとできる」
そうは言ったものの、ミィの言葉からは明らかに勢いがなくなっていた。
次に庄司はマイの方を向いた。
「マイ、確かにお前には射撃の才能があるのかもしれない。でも、狙撃手というのはある意味一番非常にならないといけない。お前に相手の脳天を撃ち抜くことができるのか?手でも足でもない。今生きて動いている人間の、一撃で命を奪う場所を狙って撃てるのか?」
「そ、それは……」
真顔で問われ、マイもタジタジになって口を閉ざした。
それを見た庄司は、大きく息を吐いてゆっくりとマイの隣に座っているアイに顔を向けた。
「私は違うと思うわ」
庄司と目があった瞬間、アイはそう言って庄司は右手で額を覆った。
「やっぱりお前は簡単には納得しないか……」
想像はしていたのか、庄司がそう言うとアイは首を振った。
「そうじゃないの。おじさんの言いたいことはわかるつもり。私達のことを案じてくれているのもありがたいと思ってる。でも、私は思うの。おじさんは、マイに冷酷に人を殺せるのかと聞いていたけど、敵が多いことが想定される場所で、目的はゆずさん達の進行の援護。それなら少し話は変わると思うの」
真顔でそう言ったアイをじっと見て、庄司は続きを促した。
「目的は相手の殲滅じゃない。それなら、相手を撃ち殺さずに派手に出血したり、行動が出来なくなる程度にすればいいと思う。殺してしまえばそれで終わり。でも怪我人だと助けないといけないし、相手の行動を邪魔する。私達が頑張って倍の人数を倒したとしても、二十人に満たない。それよりも、怪我人を量産してゆずさん達と、私達に向かってくる奴らの動きを邪魔した方が効果的よ」
ためらいを見せずにそう言い切ったアイを見て、庄司はもう一度、さっきよりも深く大きなため息をついた。
「……その通りだ。でもそれは撃ち殺すよりも精神的に負担が大きいぞ?大量の血を流して痛がり、助けを乞う者を目の当たりにすることになる。中には痛みに苦しみ抜いた後に命を落とす者も出るだろう。それをやろうというのか?」
そう聞き返した庄司に、アイはほとんど間髪入れずに頷いて言った。
「それが必要なら」
「どうしてお前はそんなに心が極まってるんだよ……。普通は躊躇するだろ?」
思い切り呆れた顔でアイを見て、庄司は言った。
アイが言ってることは、命までは取らないで手加減するのとはわけが違った。
より苦しむように、より大怪我になるようなところを撃って、あえて死んでしまわないようにするということだ。
ネメシスの白づくめ達に、少しでも仲間意識や部隊としての連携をする意識があれば、怪我をして息がある味方がいれば助けようとするだろう。
もしかしたら安全な場所に避難させて、応急処置などを施そうとするかもしれない。
すると、そこにかかった人手と時間の分ゆず達は楽になる。
アイはそう言っているのだ。
庄司がまじまじとアイの顔を覗き込む。そこにはためらいなどの感情は見えなかった。
庄司はもう一度大きなため息をつくのだった。




