6-1 家族のようなもの
「本当にこの道で合ってる?慎重に思い出した方がいい。下手をするとこの道の先があなたの死出の道行になる」
ゾッとするような冷たい声でゆずさんがそう言うと、ガチガチに拘束された薄汚いおじさんは小刻みに震えだした。
さっきから冷や汗をビッショリとかいているし、失禁されたら掃除するのがうんざりするから、もう少しお手柔らかに脅してほしい。
私は運転席のすぐ後ろで繰り広げられる光景を見ながら、思わずそう考えていた。
あれから一晩休んで、私たちは全員でマイキーに乗り込んだ。
守備隊という組織の制服を身にまとったゆずさんと、片手を吊っていながら反対の手に短めの刀を握りしめているヒナタさん達が、剣呑な気配を放っておじさんを挟んで立っているので、私とマイやミィは少し離れた場所でひと塊になって座っている。
ユアがいた避難所で会ったハルカさんを放っておけば、また人殺しをさせられるということで、ゆずさんとヒナタさんはそれを阻止しようとしている。
色々と話し合った結果、ネメシスの拠点を調べることになったんだけど……。
「な、なあ!頼むから俺はその辺で降ろしてくれ……。嘘は言ってない、この道をずっと登っていけば廃工場がある。そこが俺たちの拠点だ。でも、わかるだろ?俺があんた達に教えたってバレればきっと殺される!」
拘束されたおじさんは、今にも泣きそうな顔で何度もそう繰り返している。
まぁ、ゆずさんもヒナタさんもガン無視してるけど……。
このおじさんは、ほんの一時間ほど前までは、ネメシスの構成員である白づくめの格好をしていた。
どうやら避難所を探していたらしく、街を歩いていたところを、ゆずさんが捕まえて来たのだ。
「なんか獲物を狩る肉食獣みたいやったな?」
離れた位置のソファに、三人並んで座っていると、コソコソとミィが言った。
私を挟んで反対側に座っているマイも、その言葉にコクコクと頷いて同意している。
「……確かにすごかった。白づくめのおじさんも隠れながら移動してたのに、すぐに見つけてマイキーを停めさせると飛び出して行って、あっという間に捕まえてたからね」
その時の様子を思い出しながら私が言うと、ミィもマイもその時のことを思い出しているのか、白づくめだったおじさんとゆずさん達をチラチラと見ている。
急に停めてと言い出したゆずさんは、車が停まると同時に出て行って、物陰から物陰へ素早く移動しながら白づくめのおじさんに接近して、それこそ獲物に飛び掛かる肉食獣めいた動きで、あっという間に無力化させた。
「あっという間に拘束して、抵抗する意思を削いだ後に引きずってマイキーに戻ってくる姿はホラーやったけどな……」
その時の姿を思い出しているのか、マイは肩を抱いてブルリと身震いをして、ミィが苦笑いを浮かべる。
「あれで、我々みたいに特別な訓練を受けたわけではないのだから、笑うしかないがな」
いつから話を聞いていたのか、ソファの背中側に庄司さんが立っていて苦笑しながらそう言った。
「そうだよね……。厳しい訓練を受けた庄司さんならともかく、ゆずさんは元々私たちとおんなじ普通の女の子だったんだもんね?一体なにがあったらあそこまでなれるんだろ……」
顔を寄せてコソコソ話していると、目的地に近づいてきたのか、マイキーがグッと速度を落とした。
窓から外を見ると、さっきまで狭く荒れた道を登っていたのが、少し広い道を下りだしている。
クネクネとカーブを曲がりながら下っていく先には、森に囲まれている中ぽっかりと空いた部分に広い道が伸びていて、工場や事務所らしき建物が何棟かあるのが見える。
「この辺りは山を切り拓いて土地を用意して、企業を誘致していたんだろう。なるほど、こんな山の中で近くに民家もないだろうし、隠れる場所としては最高かもしれない」
同じく窓から外の様子を見た庄司さんが少し感心したように言う。
庄司さんがそう言ったすぐ後に、下っていた道が平行に戻り大きな看板のついた門のようなものをくぐった。
--リバーフォレスト--
かろうじてそう読めた看板には、区画の案内図があり全体の二割くらいしか売れてないようだった。
その門の脇に車を停めて、ゼンさんが窓を開けて様子を見ている。
「なぁ!頼むから……」
そしていまだに騒いでいる白づくめのおじさんに、ゆずさんが冷たい視線を向ける。
「ひっ……」
じいっと見つめられたおじさんは、拘束されて動かない手足を必死に動かして、なんとかゆずさんから距離を取ろうと、お尻を滑らせて離れようとする。
「……ヒナタ」
「りょーかい」
ゆずさんとヒナタさんが短くやり取りをした。
おじさんの肩をむんずと掴んだゆずさんが、おじさんを引きずるようにしてマイキーのドアを開けた。
そして、ポイっと道に放りだす。べしゃっと地面に倒れたおじさんは痛そうだったけど、それでも助かると思ったのか顔を明るくしている。
期待した顔で見上げた先には、自分たちも降りようとしているゆずさんとヒナタさんがいて……。
二人の顔を見た瞬間、おじさんの顔が凍りついた。
ヒナタさんの手には短い刀が握られている。
「待て待て……、言われた通り案内しただろ?用済みになったからって……。そんな鬼みたいなことしないよな?」
顔を真っ青にしながら、おじさんはズリズリと後ろに下がりながらそう言った。
「鬼?それは何もしてない避難所を皆殺しにして回っているアンタたちネメシスのほうでしょ?」
低い声でヒナタさんが言う。
「ネメシスは何度も私たちを襲って殺そうとした。私たちはそんな間柄のはず」
そう言いながら、腰から拳銃を抜いたゆずさんが、おじさんに見えるように弾を確認してスライドを引いた。
「待て……、待ってくれ。俺は何もやってない!やめ、助けて!」
とうとうミノムシみたいに地面に這いつくばって逃げ出したおじさんに、素早く近づいたヒナタさんが手に持っている短い刀を振るった。
鞘に納めたまま。ドスっという音がしておじさんは動かなくなった。
それを二人がかりで近くの茂みに放り投げて、二人はマイキーの入り口のところから中を見て言った。
「私たちはこれからネメシスの拠点を襲撃する。ここまで付き合ってくれてありがと。……歩いてここまで登ってくると考えるとうんざりする」
言葉の通りうんざりした顔でゆずさんは言った。確かに道は割と広かったけど、街からかなりの距離を登ってきた。
さっきの人の話では、ネメシスはバスを出して乗り合わせて街まで行くらしい。
「襲撃って……。君たち二人でかい?それだけの武器で」
運転席から移動して来たゼンさんがゆずさんとヒナタさんを交互に見ながら言った。
二人とも軽装と言ってもいい格好だ。ゆずさんは腰にハンドガン、手には小さい機関銃みたいな物を持っているだけ、ヒナタさんに至っては腰に二振りの短刀を差しているだけで、しかも肩を貫通した刀傷のせいで左手は満足には動かせない。
ゼンさんが心配そうに言うと、ゆずさんはヒナタさんと顔を見合わせて苦笑いした。
そしてゼンさんに向き直ると言った。
「装備が心許ないのはいつものこと。負傷しているのは……うん、無謀なのは理解している。でもやりようはある。私達にとってハルカさんは家族のようなもの。家族が道を誤っているのなら、それは私達が正してやらないといけない」
真剣な口調で言うゆずさんに、ゼンさんもそれ以上何も言えなかった。
なにより、話を聞いて私もなんだか納得してしまった。
仮にマイやミィが同じようなことになったら、私も同じことをするだろうから……。
それ以上止める言葉が出なくなったのを見て、ゆずさん達は笑みを浮かべながら別れの言葉を口にした。
「それじゃ」
「また会えるといいね」
そう言いながら、軽く手を振ると二人は姿勢を低くして移動して、すぐにその姿は見えなくなった。




