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BIO DEFENSE ~Mother phage~   作者: こばん
マザーというもの

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5-10 骨喰と感染

アイは混乱していた。


拠点を出てから、子供服を探して街を歩いていたのだが、路地から急に姿を現した感染者と至近距離で遭遇してしまった。


電柱の影になってよく見えなかったこともあり、アイが気づいた時には感染者はアイに向かって両手を伸ばして捕まえようとしていた。


いくらアイが鉄パイプ片手に感染者と戦える人間であっても、一噛みされるだけで致命的なのは変わらない。


今ほんの少しの油断のせいで、今にも感染者の手がアイの身体に届こうとしている。


「やば!」


慌ててその手からなんとか逃れたが、感染者は完全にアイに狙いを定めてしまっていた。

アイに向かって手を伸ばす者、覆い被さるように身体ごと向かってくる者。

それをなんとか掻い潜って、バックステップをして距離を取って向かい合う。


警戒はしていたつもりだったが、電柱で隠れるように路地があり、今もそこから二体の感染者が姿を見せている。


……四体か。


一人で対処するには微妙な数だ。一体二体ならともかく、三体四体となると一人では少しきつい。


戦うか、逃げるか……。そう考えていたのに、いつのまにかマザーの骨をいつもの鉄パイプのように握って構えていた。


「これは戦えってことかしら……」


こうして構えてみてもほとんど違和感がないことに思わず苦笑がもれる。


我先にと手を伸ばしてくる感染者を見て、アイはほとんど反射的に動いていた。


伸ばしてくる手から、姿勢を低くして逃れながらその感染者の膝を払うように骨を振るう。

仮に膝の骨を砕いたところで感染者相手にはあまり効果はない。


少し動きがぎこちなくなるくらいのものだ。だが感染者の手を避ける時に無意識にそうしただけだ。


運が良ければ、足をもつれさせて転ぶこともある。アイはそう自分に言い訳しながら、姿勢を整えながら追撃をしようとして……後ろに飛んで距離をとった。


「え……」


思わずそんな声が出てしまう。アイが膝を殴った感染者が地面に膝をついている。

そしてそのまま前のめりに倒れてしまった。


本来なら、もう少し物理的に破壊しないと骨が折れたくらいでは歩いてくるはずなのに、叩いた脚が使えないような感じで倒れたままもがいているのだ。


「え、ウソでしょ……」


不自然な体勢での攻撃だったこともあり、手応えは骨を砕いたような感触まではなかった。

それなのに……


呆然と倒れた感染者に目を向けていたが、ハッと我に帰る。感染者は倒れた個体だけではないのだ。


倒れた感染者が邪魔をして、そこまで近づいてはいなかったが、残りの感染者もアイに向かってくる。


一番前に立って向かってくる感染者は、まだ若いようでアイと背丈も変わらない。

生前は割とイケメンだったかもしれない男子の感染者が、その顔を見にくく歪めてアイに手を伸ばしてくる。


アイは冷静にその手を弾いて、肩口を殴りつける。


バキッという手応えを感じ、肩の骨を砕いた感触はあった。


「ええっ!?」


思わずアイは声を上げてしまった。肩の骨を砕いたくらいのはずが、糸が切れたようにその感染者が地面に倒れ伏したからだ。


膝を砕いた感染者もまだ立ち上がれずに、地面をかきながら少しずつアイに向かってくる。

その隣には元イケメンの感染者が倒れているので、後ろにいる二体の邪魔をしている。


「……どういうこと?」


しまいには、無理に乗り越えてこようとしたのか、後ろにいた感染者も、おり重なるように地面に倒れてしまった。


今なら簡単に逃げれる。だが、アイは確かめずにはいられなかった。


肩の骨を砕いた感染者は、後ろから来た感染者に踏まれたり、その上に倒れ込んだりされても動かない。

弱点の延髄を砕いた時みたいに……。


意を決したアイは、倒れてもがく感染者の背中に向かって骨を振り下ろした。


どむっという、中身の詰まったタイヤを叩いたような感触が手に伝わる。あえて背骨や肩の骨を避けて叩いたのだ。


「っ!」


思わず目を見張った。その感染者は叩いた瞬間ピンと手足を伸ばして一瞬硬直したように手足を伸ばしてすぐに弛緩した。


「動かない……」


それからアイは色々試してみた。わかったのはこれまでは延髄付近を直接砕くような打撃しか有効ではなかったのが、肩や背中に当たっても有効打になるということだった。


さすがにあまり離れたところを叩いても倒せないが、それでも手や足などであればその部位は使えなくなるようだ。


「……感染者によく効く武器ってわけ?どうなってるのよ」


四体の感染者の動きを止めたあと、持っているマザーの骨をしげしげと眺めながら、アイはそう口にせずにはいられなかった。


「骨喰だね」


「えっ?」


子供用の服を手に入れて拠点に戻ると、入り口のところでヒナタに会った。

ヒナタは田島医院の方に行った帰りだと言う。


アイが拠点を出る時には、すごく落ち込んでいる様子だったヒナタだったが、今は少しだけマシになっている。……顔色はまだ悪かったが。


「骨喰だね」


マザーの骨のことを話したアイに、ヒナタは少しだけ目を見張ったあとに少し考えてそう言った。


「えっ?」


「刀の名前だよ。よく覚えてないけど、ちょっと振ったら骨まで砕くとかなんとか……。まぁ、由来は骨を喰むって意味なんだろうけど、この場合骨が喰むだけどね?」


そう言って、まだ元気はないものの微笑んでそう言うくらいにはなっているヒナタを見て、アイは内心ホッとしていた。

そして、ヒナタの言うことに耳を傾けるとなるほどと言うようなことを教えてくれた。


「なるほど、骨喰……。」


そう口にしながらじっとマザーの骨を見つめる。実際のところ、形が変わっているのでもう骨っぽくはない。

かと言って何かと言われると、形容しようがない形をしているのだが……。


ただ不思議と骨喰という名前はしっくりくる気がした。


「うん、採用!今から君の名前は骨喰だ!」


そう言ってマザーの骨を掲げると、ヒナタも少しだけ笑ってくれた。


その後、二人連れ立って拠点の中に入ると、拠点の中では微妙な空気が広がっていた。


「え……どうかしたの?」


リビングでは、ユアの肩を抱いたマイがかばうようにしているし、その向かい側ではミィや庄司が真剣な顔をしている。


「何かあったの?」


誰からも返事がなかったことに、少し苛立ちながらアイがもう一度聞いた。

するとゆっくりとアイの方をみた庄司が、重苦しい口調で言った。


「……ユアちゃんがな」


「ユアちゃんがどうしたのよ!」


はっきりとしない言い方に、アイの口調も強くなる。


そんなアイに視線を向けた庄司が、口を開いて何かを言おうとしたが、それに被せるようにしてマイが懇願するような口調で叫んだ。


「ねえ、アイちゃんはユアちゃんの味方だよね?この子を追い出したりしないよね?」


今にも泣きそうな顔でそう叫んだマイに押されるように、何かを言おうとした庄司が口をつぐむ。


「え?どういうことなの?」


全く状況が掴めないアイが、困ったようにそう言ったところで、ユアと目が合った。

いや、見えていないのだから目が合うことはないのだが、ユアもアイの位置が分かるのか顔を向けていたのだ。


その顔は不安そうにしている。ただそれだけではなくどこか後ろめたいような感じもする。

ユアが何かしてしまったんだろうか?それも追い出されるかもしれないようなことを……。


しかし、まだ小さくしかも盲目の少女が何かしでかしたとして、それがなんだというのか。目くじら立てて追い詰めるようなことなのか。


アイの性格的に、よほどのことがあったとしても、ユアを追い出すなんてことは許容できそうになかった。しかも、アイにはマザーと交わした約束のこともある。


「何があったかわからないけど……。ユアを追い出すなんてことはもちろん反対するよ。で、マイ?一体どうしたっていうのよ!」


自分の考えを述べた上で再度マイに尋ねる。

すると……マイが言いにくそうな顔をして俯いてしまった。

その態度にアイはますます苛立ちを募らせるが、幸い文句を言い出す前に庄司が話し出した。


「アイの言うことはわかる。俺だってそうさ。ただ、これはみんなで考えないといけない問題なんだ」


そう前置きした上で庄司は言った。


「その子は……ユアは感染者に噛まれている」


その言葉に、激しく反応したアイが顔をユアに勢いよく向けると、ユアは何か感じたのか怒られる時のように身を縮こめた。


そして再び重い沈黙がその場を支配したのだった。

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