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BIO DEFENSE ~Mother phage~   作者: こばん
マザーというもの

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5-4 真っ白な‥‥‥

「ここは……」


痛む頭を振りながら、アイは体を起こした。コンクリートの地面に叩きつけられたのか、体のあちこちが痛む。

ただ、幸いどこも折れたりはしていないようだった。


「幼稚園の中ってこと?」


周りはコンクリートの塀で囲まれていて、奥には倉庫か何かの建物がある。振り返ると壊れた遊具やテーブルと椅子などで入り口らしき場所は塞がれているので、あの白い人の形をした何かに、上から落とされたが何かされたらしい。


手を握ったり開いたりして、動きを確認しながら使っていた鉄パイプが近くに落ちていないことに気づく。


「くっそう……。あれお気に入りだったのに……」


口を尖らせて毒づきながら、膝に手を置いてなんとか立ち上がる。


「こっちは……通れそうにないわね。この建物に入るしかないってこと?」


入り口は物が積み上げられて通れないし、周りは背の高いコンクリートの塀に囲まれているため、踏み台も何もない状態では、そこから逃れることは難しい。


残るは奥にある倉庫っぽい建物なのだが、その外観がなんとも入ることを躊躇させる見た目なのだ。


外壁は汚れ、窓は割れてドアはひしゃげて曲がっており、開いたまま動きそうにもない。

何より、そのどれにも大量の血痕が飛び散っていて、しかもそれがそう古くはない。


「……はぁ」


いかにもな外見に、アイは深いため息をついた。確実に何かがいると思われる建物しか進む方向がない。

しかも、鉄パイプは落としてきている。


アイは塀や入口の方を何度も見返していたが、やがて意を決したのか、倉庫の方に足を進めた。


「うえぇ……。中の方も血だらけじゃない。いったいなんなのよ……」


顔をしかめながら、足を踏み入れる。幼稚園の片隅にあるような倉庫だ、それほど広くはない。

薄暗くぼんやりとだが、反対側にも扉があるのが見える。


「……誰も、いないわね。このまま通り抜けて……外に出れば、みんなと合流できる」


小さく呟きながらアイが一歩建物の中に足を踏み入れた時だった。


「誰?……お姉ちゃん?」


ドキリとして動きを止める。幼い子供の声だった。

そっと声が聞こえた方を見ると、アイは口に目を当てて声が出そうになるのを堪えた。


見た感じ小学校にも入っていないくらいの年頃の女の子が、暗がりのコンクリートの床に直接座っている。


しかし、アイが本当に驚いたのはそこではない。その女の子は、赤黒いシミに染まった洋服を着て、血溜まりに囲まれるようにしていたのだ。


「なに、これ……。どういう状況なの?」


小さく呟くと、女の子はわずかに耳をこちらに向けるような仕草をする。


「お姉ちゃんじゃない……。誰?痛いことするの?」


後半はほとんど泣きそうな声でそう言い出した女の子に、アイは慌てて言った。


「ちっ、違うの!ごめんね?ちょっとびっくりしちゃって……。あの、ごめんなさい。私は多分あなたが言うお姉ちゃんじゃないわ。そのお姉ちゃんと一緒にここに隠れていたの?」


女の子は俯いて、アイの方を見ようとせず耳を向けるような仕草をするだけだ。


「……あたし、怪我して、ないか……らぁ」


少しずつ様子を見ながら近づいていたアイに目を向けることなく、女の子はポタリポタリと地面にしずくを落とし始め、そう言って泣き出してしまった。


「ああ、ごめんなさい!怖がらせちゃったよね?もう、そのお姉ちゃんはどこに……」


泣き出した女の子に、困り果てたアイはそう言って周りを見た瞬間、弾けるように地面に転がって周りを見た。


なぜなら、アイのすぐ近くまで来ていたのだ。先ほどハルカとゆずの斬り合いに介入した時に、アイを掴んでここまで吹き飛ばした白いロープ状の物が……。


素早く転がって逃げたことに、それはピクリと止まって行き場をなくしたように、その付近を彷徨っている。


--まずい、このままじゃ女の子が……。


白いロープ状の何かを辿っていくと、いつからそこに来ていたのか、この倉庫の入り口に立っている真っ白な女性につながっている。

そこで、アイはようやく気づいた。そのロープ状の何かは真っ白な女性の背中から伸びている、つまり髪の毛をより合わせたものだということに。


「感染者?でも、あんなの見たことない……。まさか、あれが、マザーってやつなの?」


最悪の状況だった。


武器はもっていないし、代わりになるような物も見当たらない。それに、伸びている髪の毛はアイと泣いている女の子を隔てるように伸びている。


どうにかしないとと、気持ちは焦るが手の内ようがない。

唇を噛みちぎらんばかりに歯噛みするアイを嘲笑うように、ふらふらと何かを探すように彷徨っていた髪の毛が女の子の方に向かって動き出す。


「まずい!やめなさい、あなたの相手は私が!」


そう言って気を引こうとしたが、髪の毛は女の子に触れんばかりのところまで伸びてしまっている。


「お嬢ちゃん、逃げて!どこでもいいから……。お願い立って!」


こんな状況だと言うのに、女の子は俯いた顔を上げようともしないし、じっと様子を窺っているようにも見える。


「くっ!」


なりふり構わず、アイが走り出そうとした時だった。

ふわりと女の子に髪の毛が触れると、それまで俯いていた女の子が、頭を上げると嬉しそうな声を出した。


「お姉ちゃん!よかった。知らない人が来て怖かったの……。もう、痛いことされるのやだよ」


そう言うと、女の子は真っ白な女性の髪の毛を両手で抱えるようにして掴んだ。


「えっ……、どういうこと?」


アイが呆然として見つめる前で、女の子は髪の毛を大事そうに胸に巻き、髪の毛も愛おしそうにふわりふわりと女の子を撫でるように動いている。


ぺちゃ


ポカンとしてそれを見ていたアイだったが、その音を聞いて身構える。

入口のところに立っていた真っ白な女性が、床に広がる血液の水たまりの中を歩き出したからだ。


--近くで見ると、本当に人間みたい……。表情はないし、動きがぎこちないから作り物みたいだけど、見た目は私と同じくらいの年齢くらいだし……。


用心深く真っ白な女性を窺うアイを、まっすぐに見て歩いていたマザーらしき真っ白な女性は、ちょうどアイと女の子の中間くらいで足を止めると、じっとアイを見つめてきた。


「襲って……こない!?どうして……」


まるで何かを訴えるようにアイを見ていた真っ白なマザーは、ピクリと違う方向を見た。


タン タン


少し離れた場所で、銃声が聞こえる。あまり自信はないが、ゆずが持っていたハンドガンの音に似ている。


居場所を伝えようと、大きな声を出そうとして踏みとどまる。

今は大人しくしているが、マザーの髪の毛は女の子の所に伸びているし、多分その気になればマザーは最初にしたようにアイを吹き飛ばすこともできだろう。


喉がくっついてしまったかのように、アイは声を出すことはおろか、身動きすら取れないでいた。


タン タン タン


また銃声が聞こえ、それに混じって庄司らしき声が聞こえる。


「このままじゃ、退路を塞がれる!早くアイを探せ!」


微かにだが、はっきりとそう言ったのを聞いて、アイは思わず動いていた。


真っ白のマザーの方に向かって……。



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