4-10 刀というもの
「しっかし、これだけ弾があれば撃ち放題やな?もう楽勝ちゃうん?」
ミィがHK45のマガジンに銃弾を詰めながらそう言った。
手持ちにあるマガジン全部満タンにしても、一割も使っていない。
気持ちが大きくなるのも仕方ないのかもしれない。
残りはしっかりとケースに入れてリビングに急遽作られた棚に置く。
ゆずの銃器の保管方法を聞いた庄司は、盛大に顔をしかめて、アイ達にしっかりと保管するように厳しく言ってきた。
アイ達も思うところはあったので、改めて数の管理や状態の確認をしている。
アイ達が庄司に厳しく指導されている横で、素知らぬ顔をしていたゆずだったが、さっきのミィのセリフには反応した。
「そんなことない。使い方によっては足りないかもしれない。今向かっている場所周辺は、以前も通ったことがある。ネメシスや友愛の会みたいな大きなグループがいるし、強力なマザーもいる」
真剣な顔で言うゆず。実際に見てやり合ってきたということもありその言葉には重さがある。
「その、マザーというのはわたしたちは実際にあったことはないのよね。そこまで強いの?」
アイが聞くと、ゆずは視線を下げて言った。
「強い……というか規格外、反則。多分ここにあるどんな武器を使っても、マザーには傷もつけられない。今まで見たマザーは全部人っぽくない形をしていたから、すぐわかると思う。見かけたらすぐに逃げる。これは絶対」
強めの口調でそう言われて、さっきまでの楽勝ムードはカケラもなくなった。
「……そこまでなの?」
マザーというのが感染者の延長線上の存在というイメージを持っているアイ達では、マザーの脅威をイマイチ測りきれないでいた。
「ん、そこまで。大袈裟でもなんでもない」
真剣な顔のままゆずはそう言い切った。
……それでもアイは、心のどこかで大袈裟だ。と、思っていたのかもしれない。
やがてマイキーは山野さんにもらった地図の一番近い印の場所に差し掛かろうとしていた。
ゼンさんは一度マイキーで現場近くを通り、付近の確認だけしてくれた。
「あそこだよね、牧田小学校。外には……人影は見当たらないねぇ。残念だけど車ではこれが限界だ」
「大丈夫だよ、ゼンさん。あとはわたし達で調べてくる。」
そう言うと、アイはいつもの鉄パイプと、ゆずからもらった支給刀を持って立ち上がった。
「無理しちゃだめだよ?あくまで何か見つかればいいかな?程度で考えておくこと。」
ゼンさんはそう言うと、近くの広い場所にマイキーを停めた。
この小学校は、ハルカらしき人物に襲撃されたところだ。
「ゆずくん、大丈夫かい?」
ゼンさんがゆずに優しく問いかける。ゆずは少し戸惑っていたが、少しだけ微笑んで頷いた。
「ん。だいじょぶ。行ってきます」
そう言うと周りを確認してマイキーを降りた。続いてアイとマイ、ミィも降りる。
「気をつけろよ?」
庄司がそう言って見送るのを、アイが手を振って答えた。
アイとゆずが先頭を歩き、ミィを挟んでマイが背後を確認しながら歩く。
その隊列でそろそろと進んでいくのを、マイキーの窓越しに庄司が見つめている。
「やはり不安かな?」
いつまでも見ている庄司の隣に、ゼンさんがコーヒーを持ってやってきた。
庄司はそれを受け取りながら苦笑している。
「不安……というのとは少し違うと思う。アイは俺と出会う前から一人で探索していたし、ゆずという少女は現場慣れしている。マイやミィにも気負った様子はなかったしな。多分俺が見送る側なのが慣れていないんだろ。いつも見送られるほうだったからな」
そう言いながら庄司はソファに移動する。
「心配なのは違いないけどな」
そう言うと、ゼンさんも微笑みながら頷いた。
「僕はいつも見送る側だからねぇ。だからと言って慣れはしないけど……。まぁあの子達なら大丈夫だって判断して送り出したんだろ?何かあれば連絡があるさ」
そう言ってゼンさんは、リビングに新しく置かれた機械を見た。
これもゆずが持っていたもので、無線の親機だ。この親機を中心に1km程度の範囲内ならば、今アイ達がつけているインカム同士で通話ができる。
ゼンさんと庄司は、コーヒーを飲みながら無線のそばからは離れなかった。
「人影が見える。あれは……感染者ね」
先頭を歩くアイがそう告げた。見ると校庭に入る門はしまっているが、ふらふらと歩く感染者の姿が確認できる。
先に見つかり騒がれると厄介なので、気配を殺しながら近づく。
[マイ、どちらか撃てる?]
インカムを使ってアイがそう聞くと、すぐに[アイちゃんから見て左]と返事が返ってくる。
アイはゆずとミィに待つように合図して、スルスルと校門に近づく。今の学校は外部から中が見えにくいように目隠しのフェンスなどが建ててあることが多い。
この学校も新しめのフェンスがあり、それがアイの姿を見つけにくくさせていた。
[マイ、カウントお願い]
校門にギリギリまで近づいたアイはそう言うと、ゆずからもらった支給刀をスラリと抜いた。
[分かった。10、9、8……]
校門に隠れて、マイのカウントを聞きながらアイは支給刀を見つめる。
--わたしに使えるかしら……。
そう自問するが、答えはない。そうしているうちにもカウントは進んでいる。
[2、1、ゼロ!]
その瞬間、立ち上がったアイはひらりと校門を越えて右側の感染者に走り寄る。その途中で「ターン」と、銃声が聞こえて、ビチャっと左側の感染者のアゴ下に赤い飛沫が舞った。
「あああぁぁ……」
左側の感染者が仰向けに倒れる頃、走ってくるアイに気づいたもう一体の感染者がアイに向かって手を伸ばし、唸り声を出しながら足を踏み出した。
そのままの勢いでアイは感染者と交錯した。
刀を振り抜いた姿勢のアイに、感染者がゆっくりと振り向こうとする。
[アイちゃん!]
インカムからマイの声が聞こえる。しかし、感染者が完全に振り返った時、パッと首から血飛沫が散って首が不自然な角度に倒れた。
それでもアイに向かって歩こうと足を踏み出したが、その足は空を切ってそのまま前のめりに倒れた。
「ふう……」
ようやく息を吐いたアイは、ヒュンと支給刀を振って鞘に納めた。
「あれ?」
納めようとしたが、途中から入らなくなり焦っているとゆず達とマイが近寄ってきた。
「なにしとんねん」
アイの姿を見て面白そうに言うミィを睨んだアイはゆずに向かって言う。
「入らなくなっちゃった」
するとゆずが手を伸ばしてきたので渡すと、ゆずは片目で支給刀が曲がってないか見ている。
「ん。曲がってる。多分力が入りすぎ……刀は横の力に意外と弱い」
そう言われて、アイはシュンとする。
「どうした?」
アイに支給刀を返そうと差し出しながらゆずが首を傾げる。
「だって……もう壊しちゃったから……」
そう言うアイにゆずは微笑んだ。
「だいじょぶ。このくらいなら時間が経てば元に戻る」
「ほんとに?」
刀を受け取りながら半信半疑の様子だったが、心なしかアイの機嫌は上向いていた。
「今のアイの使い方は西洋の剣と同じ。「叩き」斬る感じ。日本刀の切れ味は今の数段上を行く」
ゆずが日本刀の使い方をレクチャーしていると、体育館から感染者が一体フラフラと出て来た。
「ちょっと貸して。マイ、後続が来たらお願い」
そう言うと、ゆずは身を屈めて感染者に近づく。そして……
ヒュン!
刀を振り抜いてくるりと振り返る。その後ろでまだ立っている感染者の姿に、アイ達が慌てていると、ぐらりとよろめいた感染者は首と胴体を別れさせながらゆっくりと倒れた。




