4-9 ヒナタの人徳
「あれ?」
ゆずが準備しているのをなんとなく見ていたアイたちだったが、トイレを借りると言ってリビングを出て行ったマイがの声が聞こえてきた。足音が近づいてくるので、トイレを終えて帰ってきているのだろうが……。
やがて戻って来たマイの手には、トイレに行ってきたにしては違和感のありすぎる物を抱えていた。
「ゆずさん、トイレのドアを閉めたら衝撃で倒れたのか、横の物入れから出てきたんですけど……」
少し困った顔をしてマイが抱えてきたのは、スコープのついたライフルだった。トイレの横にある物入には普通絶対ない入っていない物だ。しかし、マイの方に顔を向けたゆずに別段驚いた様子はない。
「あ、それアスカ達の練習用に使ってたやつ。そんなとこにあったんだ」
まるで、ホウキか何かを忘れていたくらいの口調で言うゆずに、守備隊という組織は日常的に銃がありふれている所なのか……とアイは戦慄していた。確かに銃を扱うことも多いが、認識としては間違っている。守備隊でも普通はきちんとした保管方法を徹底されている。ゆずの方がおかしいのだが、それを知らないアイたちは勘違いしていた。
「あすか?」
知らない名前にきょとんとして問い返したマイに、ゆずはショルダーホルスターに腕を通しながら話した。
「ん。十一番隊にいた時の後輩。アスカと由良。二人とも私が狙撃を指導していた。これでも狙撃には自信がある」
そう言って胸を張るゆずと、さっきからポンポン出てくる銃器を交互に見て、アイは両手にライフルを持って乱射するゆずを想像していた。
……実際のゆずとそこまで剥離していないところが怖いところだ。
怖い想像を振り払って、アイは咎めるように言った。
「ちょっとマイ!勝手に持ってきたらだめじゃない。元の所に戻しとかないと!」
そう言うアイに、マイはシュンとしながらも「だってこっちに倒れてきたから‥‥どこにあったのかも分からないんだもん」と、呟く。
「もう、仕方ないわね。ゆずさん、これどこにあったの?っていうか、その辺に置いておいていい物でもないと思うんだけど?」
そう言うアイに、ゆずは実にあっさりとした様子で言った。
「どこにしまっていたかわからない。置いててもしょうがないからあげる」
そう言うと、さっき支給刀と一緒にクローゼットから出してきた軍服のようなジャケットを羽織った。その腕の部分には「№4」と「十一番隊」という
文字が刺繍されていた。
「いや、あげるって……」
さすがに言葉もなくしてしまったアイを見て、ゆずはさらに言う。
「ここに住んでるヒナタも私もきっとしばらく戻ってこない。ここは簡単には入れないから盗られることはそうないだろうけど、ここに置いておいてもただの鉄くずでしかない。それなら使ってやった方が有意義」
そしてとことことマイに近寄って、マイからライフルを受け取る。そしてスコープやコッキングレバーやマガジンなどを慣れた手つきで確認していく。
「PSG-1。7.62mm弾の狙撃銃。一キロ前後なら高性能な集弾性能がある。セミオートマだけどボルトアクション並みの精度があるいいライフル。うん、問題ない。はい」
一通り確認したゆずは、ぽいっとマイに手渡した。
「ちょっと、ゆずさん」
さすがに止めようとしたアイを遮ってゆずは言った。
「さっきも言った通り、ここに置いておいても意味はない。もし、これがあったばかりにあなた達の誰かの命が助かったということになって初めて意味を持つ。それに、マイは射撃が得意って聞いた。それなら逆に接近戦は苦手だったりする?」
ゆずにそう聞かれ、マイは素直に頷いた。アイと一緒に訓練したりしているが、向いていないのかあまり上達はしていない。
「それなら、さっきあげたMAC10と上手に使い分ければいい。近距離では今持ってるショットガン、遠距離ではこのPSG-1。そして超至近距離まで接近されたらMAC10を乱射する。ん、ばっちし」
そう言うとゆずは、自分は納得したのかさっさと歩きだす。そして振り返るとついてくるように言った。
ゆずが向かったのは台所だった。何かごちそうしてくれるんだろうか?そう考えたのもつかの間、ゆずはキッチンにある床下収納庫を開けた。
「うお、まじか!」
「すごぉ、たくさん」
ミィとマイが思わずそう言ってしまうのも無理はない光景があった。そこには箱に入った銃弾が大量にあったのだから……。
「これはほとんど№都市で作られたコピー品。でも普通に使えるしちゃんとした弾もある」
そう言うとゆずは一つ一つ銃弾の種類を口にしながら該当する銃をもつ者の前に置いて行く。
「7.62……これはマイ。45ACPはミィとマイで分けて、む、5.7mmがあんまりない。そもそも流通が少ないから仕方ないか。都市にいる頃に唐司に申請しとけばよかった……」
などとぶつぶつ言いながら、床下収納庫から銃弾を取り出したゆずは、すっきりした顔で言った。
「よし、じゃあ行こうか!」
……いったいどこと戦争しに行くつもりだろうか。この時アイは心の中でそう思っていた。
◆◆◆◆
「これはまた……すごいねぇ」
「確かに多少蓄えがあるとは言っていたが……」
戻って来たアイたちを見て、にこやかに雑談していたゼンさんと庄司はその顔をひきつらせていた。
「ん、残しといてもしかたないから。はい、これ。89式に合うはず」
真顔でそう答えたゆずは、庄司の持っている89式小銃の分まで持ってきていたらしく、5.56mmと箱に書かれたそれを庄司に渡していた。
実際のところ、十一番隊にいる頃には接近戦を禁じられていたゆずは、弾切れを極端に恐れていた。射撃手である自分は銃弾がないとただのお荷物だ。自分でそう思いこんでいたゆずは、現役の時からこまめに銃弾を集めていた。略奪者が銃を使っていることも多かったため、制圧した後にはそれぞれのマガジンからまでかき集めていた。
ここまで集めていることはヒナタも知らない。今回はそれをすべて放出した。ヒナタ探索にどれだけ本気かというのがわかる。
とはいえ、アイたちはそんなことは分からないので、ゆずはすました顔をしていた。貰った銃弾に新しい物や古いものが混在していることに気付いた庄司意外には気付かれなかったし、気づいた庄司も追及するようなことはしなかった。
◆◆◆◆
「え?動画の場所?もちろんわかるわ。そうだ、地図があったはず。少し待ってて?地図にしるしをして渡すから。付近にある避難所も分かる限りは書いておくわ!」
薬局から一つ道を挟んだところにある田島医院。そこに例の動画を撮った者がいるということで、詳しく話を聞くために立ち寄ったアイたち。そこの代表の元看護士の女性、山野はヒナタを探しに行く。そう言ったゆずにとても協力的だった。山野もヒナタのことを心配していたし、いくら黙っているわけにはいかなかったとはいえ、実際に動画を見せてヒナタが一人出て行く原因を作ってしまった負い目もあるのだろう。
やがて山野は、ここにいる避難民全員に聞き取りをしてくれて、避難所がある場所やハルカらしき人物が襲撃をした避難所の場所まで詳細に書いてくれた。
「私もあれからずっと気になってるの。ヒナタさんがそう簡単にやられはしないと思うけど、こんな世の中だしヒナタさんも冷静さを欠いているでしょうし……。ゆずさん、ヒナタさんを見つけてあげて?おねがい!」
山野はそう言って、自分達が集めてきた食料などの物資まで渡してきた。貰えないとは言わせない雰囲気をそこにいる避難民全員から感じ、ゆずはヒナタがどれだけ好かれていたかを感じて嬉しくなった。
「ん、ありがと。ありがたく貰ってく。あとはヒナタが直接お礼を言いに来るから……」
そう言ったゆずに、山野も微笑んでもう一度「お願いね?」と繰り返した。




