4-8 薬局にて
ゆずがヒナタと共に暮らしてきる調剤薬局は、一階の入り口にあたるところにはシャッターが降りていて、来る者を拒んでいる。
そこにはゆず曰く、「自重を捨てた威力のトラップ」が設置してあるらしく出入りは二階の窓から行っていると言う。そう言われて見れば、そこかしこに焦げた跡や爆発の跡らしきものがある。その跡を見る限り、ちょっと驚かせるといったレベルではないことは分かった。
それを苦笑いを浮かべて見ながら、ゼンさんは巧みにマイキーを前後進させて、建物ぎりぎりに駐車してみせた。
「ここから上がると良いよ」
そしてゼンさんはリビングの天井の部分から梯子を引き出す。アイたちも知らなかったが、そこからマイキーの天井の上に出れるらしい。
アイたちは、マイキーの屋根から薬局の一階の屋根に飛び移り、そこから二階の窓に行くことができた。
「あ、待って」
たまたま先に行ったミィが窓を開けようとすると、後ろからゆずが止める。そして窓枠の上の方をゴソゴソと触っている。
「え……もしかして?」
ミィが若干顔を青褪めさせていると、ゆずはサラッと言った。
「ごめん、ごめん。ここにも仕掛けてたんだった」
「それ、ちゃんと言うてや……」
「だいじょぶ。ちょっと痛いくらいだから」
そう言ってゆずは窓を開けて中に入って行った。
「……絶対大丈夫ちゃうやろ。気ぃつけんと、片手くらい平気で吹き飛ばすで、あのねーちゃん」
ミィは後ろにいるアイ達を振り返って言う。それというのも、一階にトラップを仕掛けてあると聞いた時、同じように、建物にトラップを仕掛けて侵入者を撃退していたミィが興味を持ってどんなものかを聞いていた。
その内容をアイ達は知らないが、それからミィはやたらと警戒が強くなっていた。
「と、とにかく行きましょ?」
そう言ってアイが建物の中に入るとしぶしぶミィも入ってくる。ところが……
「うわぁ!」
マイが声をあげた。トラップだらけの恐ろし気な外観とは異なり、中は小綺麗に整頓されていて掃除も行き届いている。
終末世界とは思えないほど、快適そうな部屋だった。
感心して見ていると、ゆずは無骨なボストンバッグを抱えて戻ってきた。
そして、興味深そうに部屋の中を見ているマイや、戻って来たゆずに「素敵なところじゃない」と言ってくるアイに、ゆずは少しだけ嬉しそうな顔をして言った。
ゆずもこの建物を気に入っているのだろう。
「みんな来れたなら休憩していってよかったけど、残念。今度泊まっていくといい。この建物は電気も使えるし水も出る。お風呂だって入れる」
機嫌良さげにそう言っていた。
みんな来れたらというのは、二階の窓から出入りするという条件は、片足が不自由なゼンさんや、病気がちなお母さんには難しいからだ。
「それもいいわね。問題が片付いたらみんなでお邪魔してもいいかもね?」
アイが言うと、マイがやった!と小さく喜びを表しているし、ミィもゆずとは趣味が合うらしく嬉しそうにしている。
「ん、楽しみ。」
ゆずもそう言って微笑んだ。のだが……。絵面が凶悪だった。微笑んで会話しながらも、片手に拳銃より少し大きいくらいの銃を持って、もう片方の手はボストンバッグからライフルのような物を取り出そうとしていた。
「えっと、それは?」
若干引き気味にアイが聞くと、ゆずは思い出したように言う。
「あ、そうだ。これ、持って行って」
気軽な口調でそう言って、アイに持っていた銃を手渡した。
「確かMAC10とかいう短機関銃。接近戦で使いやすい。あげる」
短く説明されて、アイとミィは困惑した表情を見合わせた。そんな簡単にあげていい物なのか……。
「ん~、気持ちは嬉しいけど……マイ、あげる。わたしにはきっと使いこなせないもの」
「そやな。あげる言われても。ウチも祖国の銃があるねん」
アイは貰った銃をマイに渡し、ミィは自分のHK45を取り出して見せた。
「気に入らなかった?接近して制圧射撃に使えると思った」
断られるとは思っていなかったのか、意外そうな顔でゆずはそう言う。
「気に入らないとかそういうんじゃないのよ。ただわたしに銃は向いていないだけ。マイなら使えるから」
特に含むところもなさそうに、アイはあっさりと言ったので、ゆずも特に気分を害した様子もなく納得した。
「ん。まぁ、あげたものだから好きに使えばいい。これ弾」
そう言ってゆずは渡した銃用の弾丸まで取り出して渡した。その箱には45ACPと書いてある。
「なんでそんなんぽろぽろ出てくるの……。あ、でもその弾多分ウチの拳銃にも合うわ。マイ、少しわけてな?」
呆れた様子でゆずにそう言った後、弾丸の箱を見てミィはHK45のマガジンを取り出して確認する。一発出してみるとやはり同じだったので、嬉しそうに笑っている。
「アイは銃を使わない?」
それを眺めながらゆずが聞くと、アイ苦笑して頭をかきながら言った。
「えーと……使わないんじゃなくて、使えないのよ。当たらないだけならまだしも、他の人に当たっちゃったら大変だもの」
するとそれを聞いたゆずが、少し目を見開いてそのあと笑った。
「ふふっ」
「もう、わたしは真剣に……」
「あ、ごめん。違う……ほんとにヒナタと似てるなって思った。ヒナタも全くおんなじことを言って、一切銃器類は使わなかった」
そう言ってゆずは目を細めて、どこか懐かしそうな目でアイを見ている。
「あ、そうだ。それなら……」
アイを見ていたゆずが、何かを思い出してクローゼットを開けて色々引っ張り出し始めた。そして三人が見つめる中、取り出したのは濃い緑色した軍服のような服と、それと一緒にしまってあった細長い包み。
「これは私が守備隊にいた時の備品。もしかしたらこれなら使えるかなって思って」
ゆずはそう言いながら包みから黒光りする刀を取り出して、柄をアイのほうに向ける。アイは何か言いたそうにしていたが、とりあえず受け取った。
「それは№都市で作られた支給刀。刃の部分が替刃式になっている。残念ながら替え刃はもう残っていないけど、感染者相手ならこれでも十分斬れる」
そう言われ、アイはそろそろと刀を抜いた。ギラリとしたよく手入れされている刃が、照明の明かりを反射して輝く。周りに気を付けながら抜いて構えてみると意外にしっくりくる。
「それは私やヒナタみたいな小柄な人用に調整してもらったやつだから、少し短めだけど使いやすいはず」
ゆずが追加でそう言った。確かに重すぎることもなく、決して大柄じゃないアイにとっては、長さもむしろちょうどいい。ちょうどいいのだが……
「うん、すごく使い易そう。でも、ね?」
言葉を濁すアイに、ゆずは首を傾げる。
「わたし刃物を使うの苦手みたいなんだよね……」
そう言ったアイの言葉に、ゆずは目をぱちくりと瞬かせる。アイは少し言いにくそうにしながら続けた。
「少し前に、襲ってきた奴らが刀を持ってたことがあって……。それを奪ってわたしも試しに使ったんだけど、うまく斬れなかったんだよねぇ」
せっかくくれたのに申し訳ないといった顔でアイはそう言ったが、その話を聞いてゆずは納得したように頷いている。
「なるほど。それなら私が教えることができるかもしれない。刀は当たった瞬間に引かないと斬れない。これから練習すればいい。それは使わないからあげる」
そう言って支給刀も簡単に譲ってしまう。
「な、なあ……さっきから簡単にぽんぽんくれてるけど、大丈夫なん?銃も刀も貴重な武器やのに」
気軽に出してきては簡単にあげてしまうゆずに、不安になってきたのかミィがそう言った。確かに今の世界では武器は貴重でもともと一般的に流通していない日本では特に手に入りにくい。
しかしゆずは問題ないとかぶりを振って言う。
「守備隊だった頃、もめごとが向こうから寄ってきやすいカナタ君が隊長だったせいもあって、それなりに修羅場はくぐっている。ここにあるのは相手から奪ったものがほとんどだから気にしなくていい」
カナタがここにいれば、俺のせいなのか?と目を剝いて言いそうなことをゆずは言って気にするなと言う。
本当に大丈夫なんだろうかと不安そうにしながらも、アイたちはそれぞれ貰ったものを大事そうに抱える。その様子を満足そうにみながら、ゆずは自分の支度を始めていた。




