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BIO DEFENSE ~Mother phage~   作者: こばん
ハルカと佐久間

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4-6 ゆず、そしてヒナタ

……「はい、どうぞ」


お母さんがソファに座っている女性の前にカップを置いた。香りからコーヒーのようだ。


その声に顔を上げた女性は、お母さんを、そして周りを見て顔をくしゃりと歪める。


「ごめん……。私のせいであなた達まで危険に晒してしまった。冷静さを完全に失ってた、その……ちょっと急ぐ用事があって慌ててた」


そう言うと、女性は座ったままだったが、アイ達一人一人に向かって頭を下げた。


「私は何もしてないから……。その急ぐ用事って?もういいのかしら?」


お母さんが柔らかい口調で訊ねると、その女性は両手の拳をギュッと握ったあと頷いた。


「ん。ごめん、今はおかげで冷静。ほんとに迷惑かけた。その……聞いてもいい?」


そう言って周りを見た女性は一拍待って口を開いた。


「私はゆず。大良木ゆず。あなた、あなたくらいの背格好の……かわいい女の子。見なかった?」


ゆずと名乗ったその女性は、アイを指してそう言った。


「……ヒナタって言ってた子?そう、かわいいの……」


アイがそう言って、もじもじしだす。


「アイちゃん違うとこに反応してる」


「ほんまやな、ほっとこ。でも……アンタの他に生きてる人は多分見てないなぁ」


そう言ったミィの言葉にゆずの顔がこわばる。


「こぉら、ミィちゃん!言い方ってあるでしょ?……ごめんなさいね?でも、あたしたちも移動してきたばかりだし、マイキー……この車に乗ってたから、近くにいたとしても気づいていないわ。ちょっと待ってね?運転してた人に聞いてみましょ」


そう言ってお母さんが立ちあがろうとすると、それより早くアイが動いた。


「わたし呼んでくるよ。お母さんはここにいて?」


そう言うが早いか、運転席の方に行ったアイをお母さんは笑顔で見送っていた。


「ゼンさん、いい?」


アコーディオンカーテンが閉まっているのを見て、アイはその前で止まって声をかけた。


「うん?アイちゃんかい、大丈夫だよ」


中からゼンさんの声が聞こえて、アイがアコーディオンカーテンを開けて運転席に入ると、ゼンさんは庄司と話していた。


「どうしたアイ。顔が赤いぞ?何を照れてるんだ」


中に入るなり庄司にそう言われ、頬を両手で押さえながらアイは言った。


「ゼンさん、あの人……ゆずっていうらしいんだけど、人を探してるんだって。誰が見てない?」


少し恥ずかしそうにアイがそう言うと、微笑んで見ていたゼンさんは首を傾げる。


「人?見てないなぁ。どんな人かな?」


そう言いながらリビングの方に移動しようとするゼンさんの後に続いて、アイも行こうとしてピタリと動きを止めた。

そして、庄司の方を見ると「照れてないから!」と言うと、プイッと顔を背けて行ってしまう。


「ふっ」


それを見て庄司も柔らかい笑顔を浮かべながら腰を上げた。



「いやぁ、見てないなぁ」


リビングにやって来たゼンさんは、ソファに腰を下ろしてゆずの話を改めて聞いたあとにそう言った。


「アイに似てるって……その子も鉄パイプ振り回すような女の子なのか?」


ゼンさんの後ろに立っている庄司がそう言うと、「そんなわけ……」と、アイに睨まれている。


「ん。名前つけて可愛がってた。使う時はそれで死ぬほどぶん殴ってたけど」


ゆずが庄司にそう答えたのを聞いて、アイはギョッとしてゆずを見た。


「くくっ」


「ふふ……」


口を押さえて笑いを隠しているマイとミィをひと睨みして、アイは「かわいいって言ってたのに……」と、ぶつぶつとつぶやいている。


「いや、かわいい。それも間違いない。私の親友……」


そう言ったきり俯いたゆずを見て、ゼンさんはお母さんや庄司と顔を見合わせてからゆずに向き合って言った。


「よかったら話を聞かせてくれるかな?もし僕たちが言った先で会うことがあったら君のことを伝えることもできるだろうし」


そう言ったゼンさんを見て、ゆずは少し迷っていたがポツリポツリと話しだした。


「ん……、ありがと。私たちはもう少し行ったとこにある薬局に住んでる。とてもいいとこ。ついこの前噂を聞いた」


「噂……」


マイが呟いた言葉にゆずは頷いて話を続ける。


「近くに病院があるんだけど、そこにも避難してる人がいて、ヒナタと友達がいる。そこの人たちは、ヒナタのおかげで頑張って生きるようになって頻繁に物資を探しに行ったりしてるんだけど……」


◆◆ ◆◆


ある日、ヒナタはいつものように屋根伝いに病院に避難しているグループのところに顔を出していた。

生きるのを諦めていたグループだったが、ヒナタと出会い色々なことがあり、今では精力的に活動するようになっていた。


そこのリーダー的存在の女性、山野とヒナタは親しくしている。


「え、いいんですか?」


遊びに来たヒナタに、山野は一抱えもある物資を手渡した。


「ええ!この前行った所が大当たりだったの。私たち全員でも持ち帰れないくらいの物資が残ってて、たくさん持って来たから、ヒナタさんにもお裾分け!これは私たち全員の総意だからね?」


山野が大量の物資を前に目を丸くさせているヒナタにそう言うと、少し離れたとこで見ていた男性、井本が寄ってきて言う。


「そうだよ。俺たちもびっくりしてさぁ、俺たちはヒナタちゃんに返しきれないくらいの恩あるからさ、少しずつでも返していかないと、利息で首が回らなくなるからな」


笑いながらそう言う井本を見て、すっかり前向きになって冗談まで口にしていることが嬉しくて、ヒナタは輝くばかりの笑顔を見せている。


「そんな恩なんて……。それに借金じゃあるまいし、利息なんてありませんよっ!」


ヒナタがそう言い返すと、ドッと笑いが巻き起こる。

それにも嬉しそうにしていたヒナタだったが、山野の顔が曇っていることに気づいて、声をかけた。


「山野さん?なんか元気ないみたいですけど……。疲れちゃいました?なら私なんかより休息を……」


そう言い出したヒナタに、山野は両手と首まで振って弁解した。


「いや、ごめんなさい!そうじゃないの。その……あくまで噂なんだけどね?」


そう前置きして、山野は話しだした。


「私たちが物資を見つけてここに帰って来る途中で、この辺では見たことない人達にあったのよ」


山野はこの病院の避難民達が生きることに前向きになり、余裕ができた時間を外にも向けていた。

他の場所で暮らす避難民とも接触して、協力しあって生きていけるようなコミュニティを形成しようとしていた。


タチの良くない避難民がいたりするが、山野に何かしようものならヒナタとゆずという一般人には凶悪な戦闘力の持ち主が出て来るため、それを知っている奴らは何もしてこない。


山野に絡んで、住処を襲撃されてボコボコにされた奴らは多く、病院の周りにいる避難民達の治安はとても良くなっている。


カナタというブレーキがなくなり、手加減というものを捨てたヒナタやゆずを止められるような者は誰もいなかった。


善意には善意を、悪意には容赦のない蹂躙を返す性格の二人が背後にいる山野は、とても好意的に迎えられて広い範囲で協力網を作っていた。


そのため、近隣の避難民達で知らない顔はない。そんな山野が知らない避難民と言うなら、それは他の場所から流れて来たことになる。


パニックが起きて、それなりの時間が経った今では、生き残っている人は大体決まった拠点を持っている。

そして感染者に抵抗する術を持たない一般人は、そこから移動することも簡単ではない。


命をかけて移動してきたのであれば、それはかなりの理由がある時だ。


「その見たことがない人たちはね?住んでいたとこを襲われたんだって……。悪いことをしそうな人達じゃなかったから、略奪者グループかとも思ったんだけど……」


そこまで言うと山野は極端に口が重くなった。言いにくそうにしながら、それでも言わないわけにはいかない。そんな雰囲気を見せて山野が言った言葉にヒナタは唖然とした。


「襲って来た人……物資とか見向きもせずに斬りかかってきたらしいんだけど、その……これ」


そう言って山野が見せて来たのはスマートフォンだった。何か充電できる道具があるのだろう。充電は半分ほど残っている。

山野によると、見たことない避難民達の中にいる若い女の子が、別の目的で動画を撮っていた時に襲撃を受けたらしく、有無を言わさず襲ってくる様子が映っていた。


その人物はヒナタもよく知る人物とそっくりだった。


「言いにくいんだけど、ヒナタさんと一緒にいたハルカって女の人とそっくりだったから……」


眉を下げて言いにくそうに山野は言ったが、ヒナタの耳にはもうその声は届いていなかった。

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