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BIO DEFENSE ~Mother phage~   作者: こばん
ハルカと佐久間

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4-5 誰がために

明石大橋が使えないと聞いて、逆戻りを余儀なくされたアイ達一行は避難していた自衛隊の駐屯地を過ぎてまもなく岡山県に入ろうとしていた。


「あとの選択肢は、瀬戸大橋か来島大橋だね。ちなみにアイちゃんはどっちを目指したい?」


大きなトラブルもなく、軽快に走るマイキーの運転席でゼンさんが近くにいたアイにそう聞いてきた。


「どちらも使えるかどうかはわからないのよね?それなら近い方がいいと思うけど……。あとは行ってみて考えるしかないわね」


助手席に座って前を見ながらアイはそう答えた。


「それもそうだね」


軽く笑いながらそう言ったゼンさんは、再び運転に集中しだした。


それほど速度が出ているわけじゃない。他の車に乗っていたエンジンを、重さも用途も違う車に載せ替えているので、そもそも本来のスペックは発揮できていない。


その上、至る所に廃棄車両があるのでどうしても速度は出せない。

今もマイキーがギリギリ通るかどうかという隙間を、ゼンさんは道路を目一杯に使って鮮やかにパスしていった。


そして、今となっては必要のない方向指示器を使って、少し狭い脇道にマイキーを滑り込ませた時だった。


「っっ!」


車体が軋むほどのフルブレーキがかかった。助手席に座っているアイのすぐ先に、驚いて固まっている女性の顔がある。


「ふう……」


それほど速度が出ていないのが幸いしたのか、女性を跳ね飛ばすことなくマイキーは止まった。

思わずゼンさんから安堵のため息が聞こえたが、危機は去っていなかった。


固まった女性の背後に大量感染者がいたからだ。


「ゼンさん、みんなに伝えて!」


それだけ言うと、アイが飛び出して行く。


止める暇もなく行ってしまったアイに、ゼンさんは何か言いたそうな顔をしていたが、気を取り直して他のみんなに知らせるため、大声を張り上げた。


一方、急いでいたので鉄パイプだけ手にして外に飛び出したアイは、迫る感染者に向かって拳銃を撃つ女性に向かって叫んだ。


「わたしが時間を稼ぐから車に!」


そう言うが早いか、意外に慣れた動きで感染者とやり合っている小柄な女性に目を伸ばす感染者の首筋に鉄パイプを叩きつけた。


グラリと体がぐらついたその感染者を思い切り蹴飛ばして、後続の感染者の足止めにする。そして別の感染者の膝を砕いた。

隣で、拳銃だけではなくなんと刀まで使っている小柄な女性が、聞き取れないほど小さな声で何か呟くのが聞こえた。


「……ヒナタ?」


見ると、自分の方をポカンと見ている女性にアイは思わず強い口調で行ってしまった。


「ひなたでも日陰でもいいから、ぼうっとしないで!」


その声にハッとした女性は、我に帰ると後ろから庄司とミィが出て来るのを見て状況を把握したのか、下がりながら拳銃を連射した。


「へぇ……」


かなりの腕前のようで、ほぼ聞こえた銃声とぐらついた感染者の数が同じくらいだったことに、アイが感心しながら鉄パイプを振るっていると、銃撃とアイの鉄パイプでできた隙間にバカでかい剣を持ったミィが突っ込んだ。


「いっくでぇ!」


自分と同じくらいの長さの剣を振り回すミィは、お世辞にも巧みにとは言い難いが、重く長い剣の勢いは凄まじく細かく狙う必要のないほど感染者がいる今の状況では、一番効果を発揮していた。


景気良く先頭の感染者の首を刎ねた剣は、勢いを止めることなく隣の感染者を吹き飛ばしている。


そしてミィは隙間を広げると深追いしないでアイと共に後ろに下がり、入れ替わりに待ち構えたように庄司が膝立ちでライフルを撃つ。

その隣にはようやく間に合ったのか、マイの姿もあった。


バン バン 


タタタッ タタタッ タタタッ


二種類の銃声が響き、バタバタと感染者が倒れる。それでも、女性が連れて来たと思われる感染者はマイキーが行こうとしていた道路のさらに脇道から次々と姿を現している。


「ちょっ、どんだけ引っ張って来てんねん!」


ミィが思わずそう言うと、マガジンを装填した女性が苦渋を浮かべた顔で言った。


「ごめん。少し無茶をした。助けてくれて感謝する。でも迷惑なら気にせず行ってほしい」


淡白な口調で的確に急所を撃つ女性を見て、アイが咎めるような目を向ける。

ミィは手で口を塞ぐ仕草をしながら剣をマイキーの中に放り込んで自分も拳銃を抜いた。


こうなるとアイの出る幕はなくなる。


バン バン


すっかり慣れた手つきで二回撃つたびに銃を折って弾を入れ替えるマイ。


タタタッ タタタッ


庄司は無駄に撃たず、的確に一番近い感染者に向かって撃っている。


タン タン タン


女性の拳銃は、口径が小さいのか控えめな銃声の割には一発撃つ毎に感染者の首から赤い飛沫を散らし、時には貫通して後ろにいる個体にまで当たっている。


ダン ダン ダン


そこにミィの少し重い銃声が加わった。こちらは精度はあまり高くないものの、当たれば大きな穴を開けている。


マイが三回ほど弾を入れ替えた頃、庄司が拳を握った手を上げて、その後後退するような仕草で手を動かす。


下がれというハンドサインだった。マイやミィが撃ちながら下がると、女性もサインを理解したのか同時に下がり出した。


「いいわ、乗って。おじさん!」


マイキーの入り口で鉄パイプを構えたまま、下がって来たマイとミィ。そして、女性をマイキーに押し込むと、アイは庄司に向かって大声を上げた。


アイの方をチラリと見た庄司は、少しだけ頷くと89式のセレクターレバーをレにした。


タタタタタ!


残弾を左右にライフル振りながら撃ち尽くすと、身を翻して庄司はマイキーに向かって走った。


入り口ではアイが鉄パイプを構えて援護体制を取っている。そのままマイキーの中に駆け込むと、アイが近づいて来た感染者に鉄パイプを一度だけ叩きつけて中に飛び込んでくる。

それと同時に庄司が入り口を閉めると、すぐにやって来た感染者が入り口の窓に顔を押し付けるようにしながら叩き出した。


「ゼンさん!もういいぞ、出してくれ」


庄司が声を張り上げると、運転席から「了解!」と、聞こえてきて、マイキーは一度後退してから進路を変えて走り出した。


アイと庄司がリビングに行くと、項垂れるようにしてソファに座る女性と、両脇で警戒しているマイとミィ。それから何か飲ませるつもりなんだろう、キッチンのところにお母さんが出て来ていた。


アイはそのままリビングに残り、庄司はこの後のことを相談するために運転席の方に向かった。

今やマイキーの運転席は、ゼンさんの私室のようになっていて、アコーディオンカーテンで仕切られるようになっている。

マイキーの持ち主だというのに、狭い運転席と助手席のスペースしかプライベートルームがないわけだが、ゼンさんも庄司も女性は尊重して、子供は守るべきという性格のため、アイ達やお母さんに優先している。


庄司などは私室などなく、寝る時はリビングのソファである。


念のためアコーディオンカーテンを閉めた庄司はそのまま助手席に座った。


「驚いたよ。急ブレーキから怒涛の展開だったな」


庄司が苦笑いしながらそう言うと、ゼンさんも苦笑いになって頷いた。

辺りをキョロキョロと見ていることから、マイキーを一時的に停める場所を探しているのだろう。


「ゼンさん、あそこはどうだ?」


そう言って庄司が指した場所は、真っ先に派手な外壁と看板が目に入ってくる。

駐車場は広く、二階のある立体駐車場もある。


「いやぁ、僕はだいぶ前に辞めたんだけどねぇ」


珍しく冗談を口にするゼンさんに、急に戦闘になって昂っていた気分が落ち着いて来るのを感じながら庄司も笑った。


「俺はやらんが、部下がハマってたな。勝った時だけ自慢げに言っていたが、多分その何倍も納めてたんだろうな」


苦笑しながらそう言うと、ゼンさんは笑って言う。


「ここに通ってる人はみんなそうさ。負けた金額から目を逸らさないと、ため息しかでなくなる」


そう言いながらゼンさんはマイキーのハンドルを切り、今や錆びて動かなくなった車両がたくさん停まっている駐車場にマイキーを滑り込ませた。


「どうだい?今なら好きな台を選び放題だと思うが?」


そう言って大きなガラス貼りの店舗の入り口を親指で指す。


「選び放題かもしれないけど、稼働もしてないし……ああなってからまでやりに来てる人達もいるみたいだからねぇ」


店舗の中には、入って来た車に気づかず店舗の中を彷徨う感染者の姿が、外からも窺い知れた。

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