3-11 オチ
「今頃、来てくれとるかなぁ?」
ゆっくりと再び旅路を進み出したマイキーのなかで、片付けもひと段落したミィが休憩しながらそう口にした。
「今日あったばっかりなのに、すぐに襲ってくるの?」
お茶を飲みながら、マイが言う。それを受けてアイが答えた。
「来るわ。今まで生きている連中なら物資の重要さは肌身に染みてるはず。それにネメシスは大所帯みたいだし、いくらあっても余るなんてことはきっとないわ。それに……」
「それに?」
「館までずっとあとをつけられてたもの」
さらっと言ったアイに、マイの顔がひくつく。そしてすぐに信じられない顔になり、首を振った。
「どうしてそのままにしてたの?アイちゃんならぱぱぁーんってやっつけちゃうのに」
ぱぱぁーん、で大きく両手を上げながらマイが言うと、アイは苦笑した。
「ゼンさんから止められたの。ゼンさん、だいぶネメシスを警戒してるみたい。わたしは薄気味悪いってことと、女の子をなんかの実験に使ってる変態の集まりって認識しかないけど……」
「いや、それ結構やばいやつちゃうん?そんなもん警戒しかせんやろ」
ミィが呆れたように言うと、アイは肩をすくめた。
「とにかく、あとをつけてる奴を排除するよりも、急いでここを離れた方がいいってゼンさんが言うから」
実際は気づいた瞬間、マイキーから飛び出して行こうとしたアイを庄司と二人がかりで止めた一幕もあったが、そこは意図的に割愛した。
「あとをつけてる奴をやっつけたところで、すぐに別のやつが来る。こっちが気付いていないフリをしたほうが、向こうも準備をするだろうから時間が稼げるって」
アイがそう言うと、マイもミィも感心した顔になった。
「さすがゼンさんやなぁ」
そう呟いたミィをちょっと見て、マイは苦笑しながら言った。
「で、アレなんだ……」
そう言うと、アイもミィもニヤリと笑った。
「せっかく来てくれたんだから、ちゃんと応対しないと失礼でしょ?」
「そやな!」
そう言って楽しそうに笑う二人の少女と苦笑いする一人の少女を乗せて、マイキーは軽やかに生者の姿が見えなくなった道路を走って行った。
◆◆ ◆◆
|(リーダー!裏口を見つけました。奴らここから出入りしていたようです)
アイ達がまだ館の中にいると思っている白づくめ達が、館の周りを調べていると、形だけ偽装して隠していた裏口を発見した。
感染者がウロウロしている一階の正面から出入りしているはずはないと予想したリーダーの男が部下に命じて周辺を探させていたのだ。
|(わかった、すぐに行く)
トランシーバーのスイッチから手を離したリーダーの男はニヤリと笑う。
どうやら、ここの連中は自分にもっと出世をさせてくれるらしい。
欲に塗れた顔を醜く歪めてリーダーの男は、一人隠れていた安全な場所から、ミィシアの館の裏口の方に移動して行った。
リーダーの男が連絡のあった場所にいくと、数人の白づくめが思い思いの武器を手に、そこに立っていた。
リーダーの男を見ると、スッと動いて見つけた裏口の方に案内する。
なるほど、周りから見えにくいようにしているが、頻繁に開け閉めしている様子がある。
地面も不自然に一部分だけ草の生えていない場所がある。ここから出入りしているのは間違いなさそうだ。
リーダーの男が目配せすると、一人の白づくめがそっとドアに近づく。そして、ゆっくりとノブに手を伸ばすと……
「ぎやっ!」
動物のような声を出したかと思うと、硬直したように地面に倒れ込んだ。
ただ、その手はドアノブを握っている。
「何をしている!」
リーダーの男が苛立たしげに言うが、ドアを開けようとした白づくめは不自然な格好のまま反応しない。
「おい!」
リーダーの男が隣にいた白づくめに言うと、倒れている男に近づいて、声を抑えて怒鳴りつける。
どうやらドアを開けようとした白づくめは下っ端らしく、怒鳴られても反応しなかったために、足蹴にされて地面に転がった。
「…………気絶してます。あと妙な痙攣をしてますね」
倒れた白づくめは頭巾も剥がされ、素顔があらわになる。その顔は驚愕したまま固まっていた。
「なんだ?何が起きている?」
リーダーの男が訝しんでそう口にした。部下の男はドアを開けようとしただけだ。
ライトでドアを照らしてみるが、特に変わったところはないし、見る限りドアノブに細工がされているようにも見えない。
すると、倒れた男の体を調べていた白づくめが、戻ってきて言った。
「特に持病を持っていたとか、体調不良を訴えていたということもないのですが……先ほど心臓が停止しました。」
「なんだと?」
リーダーの男は思わずそう聞き返した。何もおかしいことはなかった。自分の目の前でドアを開けようとしただけだ。
「倒れた直後はおかしな痙攣をしていましたが、まだ生きていました。しかし、その後急に動かなくなり……」
それを聞いて、リーダーの男の脳裏にこの館の噂が浮かんだ。
曰くこの館には吸血鬼が住んでいる。
曰く夜な夜な街に出て、若い女性の血を吸う。
曰く館に入ろうとした者は、今まで生きて帰ってきたものはいない。
「バカなことを!そんなことがあるものか」
噂を思い出して背筋が寒くなったが、リーダーの男は頭を振ってその考えを追い出した。
--だからなんだと言うのだ。仮に吸血鬼がいようがここにまだ動く車やそれなりの物資があることはわかっている。
奪って本部に献上すれば、俺の地位は安泰になるんだ!
リーダーの男は歯噛みしながら、息が荒くなり顔にまとわりつく頭巾を脱ぎ捨てた。
「おい、ドアノブに毒針が何かないか調べろ!」
男は部下にそう命じた。
実は、ドアノブを触った者が感電するように、ドアノブ裏側ではノブのところに電線が取り付けてあった。
ミィシアの館も太陽光発電パネルがあり、蓄電池に貯まるようになっている。
蓄電池からは館内のブレーカーにつながっていて、館内の電気を賄っていたのだが、今は蓄電池から伸びた電線はドアノブに繋げてある。
大元のブレーカーに入る前の200Vの電気が……。
倒れた男は、感電して自力で逃げるより早く筋肉が硬直してしまい、ドアノブを触ったまま倒れ込んでしまった。
その間も流れ続けていた電気は、ドアを開けようとした白づくめの身体を通り地面に抜けていく途中にあった心臓を経由して行った。
心室細動を起こしてしまったのだ。
それがわかったのは、白づくめの一人がドアノブを持っていたバールで軽く叩いた時だった。バチッという音と火花が散って、バールを持っていた男も衝撃で放り出した。
「電気だと!?」
リーダーの男が叫んだ。ライフラインが止まってしまってかなりの時間が経つ。ネメシスも、本部や大きい支部などは近隣の家からパネルを盗ってきて太陽光発電の設備を整えている所もあるが基本的には使えない所がほとんどだ。
ここにいる白づくめたちが使っているアジトにはそういう設備が無かったため、その可能性を思い出せなかった。
しかし、リーダーの男は考えた。車があり物資があり、電気を使える館。ここを自分たちのアジトにしてしまえばいい。そう考えてみてみると洋風のお城みたいな外見と堅牢なレンガの壁。まさしく一国一城の主になれる。
そう考えて、どうにかドアを開ける手段を考えていると、少し離れた所にゴム手袋が干してあるのを見つけた。
「なるほど……ここの奴らはこれを使って」
にやあっと笑ったリーダーの男は、乱暴にそれをむしり取ると手にはめた。そして何度がドアノブを指で触って確かめて、感電しないことを確認すると、おもむろにノブをひねった。
「開いた!」
よし……後は部下を突入させて……。
リーダーの男が思考できたのはそこまでだった。ドアが開かれる動きに連動して、もう一つ罠が仕掛けてあったのだ。
があん!
硬質な音を立てて、リーダーの男の頭に直撃した。重しをくっつけた金ダライが……。
がらんがらんと派手な音を立てて地面に転がる金ダライと、気を失ったリーダーの男。
金ダライには、イラストと文字が書いてあった。ミィシア謹製のそれは、舌を出した顔文字と、「ば~か」の文字だった。




