3-4 はじめてのじっせん
「音で誘導してどっか連れてけばいいんちゃうん?」
気軽な感じでミィシアは言った。それに対して庄司は真剣な顔をしてミィシアに向き直った。
「いいか?死にたくなかったら軽率な行動はするな。それと常に相手をよく知ることが生き延びることにつながる。これは重要なことだ覚えておけよ」
気軽な感じで言った言葉に、想像していない反応が返ってきて、ミィシアはびっくりしていたが庄司はあえて強めの口調で言った。そしてミィシアを見つめながら続ける。
「音で誘い出すこと自体は有効だ。だがその後はどうする?奴らは音に敏感だが、聞こえなくなると元の場所に戻る傾向がある。理由は知らん。そうなるとバイク屋に突入した者は前後を感染者に挟まれることになる。そうさせないためには、継続的に音を鳴らす必要があるが、音を出し続けているとバイク屋だけではなく他の場所からも呼び寄せることになり、音を出している者はとても危険になる」
そこまで一気に言うと庄司はミィシアの反応を見た。最も多い若者の反応としては、血相を変えて「そんなつもりで行ったんじゃない」だろうか。間違いを指摘されることはだれでも嫌な気分になるし、若者はそれが顕著だ。でもその反応は人物を見る指針にもなる。
庄司はよく新人の隊員に同じことをしていた。それによって接し方に若干の工夫をするのだ。
しかしミィシアの反応は庄司の想像とは違った。
真面目な顔で自分が言ったことと庄司が言ったことを吟味している様子なのだ。そしてしばらく考えた結果、ミィシアは自分の間違いをあっさりと認めた。
「そうやな、軽率な発言やったわ。ウチはこれまで一人やったからな。複数で動くことに慣れてないんやろな。悪いけど教えて欲しい」
さらにミィシアは教えまで乞うてきた。
これは庄司が想像していた中で一番いい反応だった。思わず微笑んで庄司は言った。
「いや。こっちこそきつい言い方だったかもしれん。さっきみたいに思いついたことはどんどん言ってほしい。なに、俺が教えれることであればいくらでも教えるし訂正もできる。どっちかと言うと問題はアイの方なんだよな。アイツはなまじ何でもできるだけに突っ走る傾向があるからな」
庄司はさっきのやり取りも思い出して、また目頭を揉んでいる。ミィシアは少し笑いながら「苦労するなぁ」と言った。
「くしっ!」
「アイちゃんどうしたの、風邪?」
一方物資の探索をしているアイたちは手近な建物に入って、使えそうなものが無いか探していた。息を殺して余計な音を立てないように行動しているなか、アイが派手にくしゃみをしたのである。
「ううん、風邪じゃないと思うけど……ここ埃っぽいからかな?大丈夫よ」
くしくしと鼻をこすってアイは作業に戻ろうとして、やめた。
「と、言ってもここには碌な物なさそうね」
そう言って部屋を見渡す。男性の一人暮らしだったのかワンルームの部屋には足の踏み場もないほどごみや弁当のガラなどがある。これはパニックが起きた後に荒らされたわけではなく、パニックが起きる前から荒れていたのだろう。
「うん、そだね。私もこの部屋なんかヤダ」
マイも本能的に忌避感があるのか、あっさりと頷く。テレビとパソコンを置いた台の前だけぽっかり空いたスペースを見ながら二人はこの部屋は見るだけ無駄と判断した。
そしてアイを先頭に、隣の部屋に移動する。基本物資を探す時は戸建ての住宅を探すことが多いが、この辺りは近くに学校でもあるのか、単身者用のいわゆる学生向け物件が多い。一応見てみるかと入った最初の部屋がさっきの部屋だったので、やっぱり戸建てが多い地区を探すか?と考えながら隣の部屋のドアの前に立つ。
マイに目配せをして、アイはドアをノックした。
コンコン
ガタガタ ガシャン ガンガン!
部屋の中から急にすごい音が聞こえて来て、アイは渋い顔をする。
「この部屋はご在宅だったみたいね」
そんな事を言いながら、ドアの隙間を覗く。感染者はドアを開けるようなことはできないが、突き破ってくる可能性はあるので、警戒しながら確認してマイを見る。
「鍵はかかっていないわね。どうする?」
アイがそう言うとマイは少し考えて言った。
「やっつけちゃおう!」
その言葉を聞いてアイは笑いながら頷いた。感染者がドアのしまった部屋にいるということは、少なくとも誰もこの部屋には来ていない可能性が高い。何かしら物資が見つかるかもしれないのだ。
アイはぺろりと唇を舐めて、鉄パイプを構えて……降ろした。そしてきょとんと見ているマイに言った。
「じゃ、私が開けるからマイお願い」
それを聞いて、口を大きく開けて何か言おうとしたマイだったが、すぐに思い直したように開けた口を閉じた。そしてほんの少し葛藤していたが、やがて頷いた。守ってもらっているばかりは嫌だ。自分も戦う!その目はそう言っている。
アイは満足そうに頷いて、今も内側からドンドンと叩かれているドアのドアノブに手をかける。
「いいわね?3で開けるわよ?」
アイがそう言うと、マイは少し距離をとって、ミロクのセフティを外して構える。そしてアイに頷いて合図をした。
「行くわよ?さん、にい、いち!」
いち!と同時に勢いよくドアを開け放った。音に反応してドアを叩いていた住人が勢いよく飛び出して、柱にぶつかった。
ドアを開けると同時に、感染者からもマイの射線からも外れるようにアイは地面に座り込んだ。マイは感染者の弱点の首を狙っている。銃口はやや上を向くことになるから姿勢を低くしていれば流れ弾に当たる事もないだろうという判断だ。
勢いよく柱にぶつかった感染者は、派手な音を出していたがその痛みなど気にした様子もなく、銃を構えるマイをその視線に捉えた。ゆっくりとマイに向けて両手を上げる。
「はいっ!」
タァン!
狙いをすませてマイが放った散弾は、そのほとんどが感染者の首を貫通して、延髄に巣食っている感染体を破壊した。撃たれた衝撃でよろよろと後ろに下がった感染者はそのまま後ろ向きに倒れて動きを止めた。
「やったっ!やったよアイちゃん、私やっつけたよ!」
「ちょっと、マイ!危ないから銃を振り回さないで。でもよくやったわ。まあ、この距離で外すようなら二度と撃たせなかったけど」
アイらしく最後にチクリと付け加えていたが、自分はお荷物だと思っていたマイにとって、自分だけで感染者を退けられたというのは嬉しいことだったのだ。
「マイ!はしゃいでないで、ちゃんともう動かないか確認。知らないわよ?やっつけたと思っていた感染者が後ろ向いた途端むくっと起き上がって……がぶっと!」
身振り付きでそう言うアイに、マイは表情をこわばらせたが、すぐに頬がぷくっと膨らんだ。
「もうっ!アイちゃん脅かさないでよ。ちゃんと確認しました!すぐに私をいじめるんだから……」
そう言ってむくれるマイの頭を乱暴に撫でたアイは、マイと共に部屋の中に入るとドアを閉めた。
「ほら、気を取り直して物資を探す!……マイも頑張ってるわよ」
そう言ってアイはプイっとそっぽを向いて部屋の中に入って行く。マイは一瞬だけぽかんとしていたが、すぐに笑顔になってアイの後を追った。
「これは……」
短い廊下を抜けて部屋に入ったアイは絶句していた。その後ろからひょいっと顔をのぞかせたマイも驚きで固まる。
アイたちの前には、透明のビニールで梱包された状態の大量のペットボトルに入った水があった。その隣には段ボールが積み上げてある。それをそっと開けて中を見たマイが勢いよく振りかえって言った。
「アイちゃん、これパックのごはん!全部!」
段ボールの表面には高島公民館災害備蓄品とマジックででかでかと書いてあった。




