3-3 バイク
それから厳重に銃砲店を施錠して、ゼンさん達はミィシアの館に向かったということだった。
銃砲店には、もう使える銃は残っていないのに、わざわざ厳重に施錠してきたのは、あの店と商品である銃を不正に使わせないために守った店の主人のお爺さんをゆっくり寝かせてあげるためだろう。
そして庄司は自分が見た南という男のことも話した。
「見た目は普通の青年だったからな。今の世界は心のタガが外れやすい。君たちも気をつけてくれ」
そう言って話を締めると、改めてミィシアに向き合った。
「そういうわけだ。しばらくこの館に住まわせてほしい。必要な物資の調達とマイキーの充電が必要なんだ」
庄司がそう言うと、ゼンさんが横から付け加えた。
「あと、ミィシアちゃんが一緒に来てくれるなら、マイキーももう少し改造しないとね?だいぶ手狭になってきたし、マイちゃんと二人アイちゃんのベッドで寝るのもつらいだろう?」
そう言われ、アイとマイが顔を見合わせる。
「そうですねぇ、シングルベッドですもんね」
と、顔を曇らせるマイ。
「そうね、意外とマイって寝相悪いのよね」
と、アイ。
「ちょ!そんなこと……」
マイが顔を赤らめて否定しようしたが、自分でも思い当たることがあるのか、その声も尻窄みになっていく。
「いや、そんな手がかかるならウチは一人でもええで。今までもそうやったし……」
顔を赤くしてパシパシとアイを叩くマイを横目で見ながらミィシアはそう言った。
「あらぁ、だめよ。大切な私の娘なんですもの。ゼンさん?手間だけどよろしく頼むわね?お年頃の女の子なんだから自分だけのお部屋はほしいと思うのよ」
ニコニコしながら言うお母さんの言葉に、ミィシアの遠慮もかき消された。
「うん、そうだね。ミィシアちゃん、この辺りに自動車修理工場とかないかな?廃車がたくさんあるところがいいな」
ゼンさんにそう聞かれ、ミィシアは少し考えて口を開いた。
「近くにはないな……バイク屋ならあるけど……」
ミィシアがそう言った途端、それまでマイとじゃれあっていたアイが、マイを押さえつけて口を挟んだ。
「あ、そうだ!ゼンさん、わたしバイクほしい。マイキーみたいに電気で走るようなバイクってないかな?」
アイがそう言うと、大人組全員があまり賛成ではないような表情になった。
「海外には電動スクーターが普及してるけど、日本には少ないんだよねぇ。できないことはないけど、どうしてバイクなんだい?」
「探索いく時便利かなって。オフロードタイプのバイクだったら、感染者が転がってても乗り越えて行けるでしょ」
「でも、バイクは身体が剥き出しだからねぇ。こけたら危ないし……」
ゼンさんもお母さんもあまり乗り気ではないようだ。
バイクは危ないというイメージが強い。
「逆に考えてよ。バイクだと細い路地にも入れるし、荷物だって手で運ぶよりスムーズだし……何より変なやつに追われても逃げることができるわ」
いや、お前は逃げずに股間をつぶすだろう。
全員が思ったが口にはしない。アイならそれでいいならそうするけど、と言いそうだからだ。
「うーん、一応アイちゃんの言うことはわかったよ。でも、あくまでマイキーが優先だからね?エンジンを換装するのも材料がないとできないわけだし……」
しぶしぶという感じでゼンさんがそう言うと、アイは満足そうな笑顔で頷いた。
「もし、略奪者が乗ってるの見かけたら率先して奪っておくわ」
と、なかなかに物騒なことを言うアイにマイが感心した声を出した。
「アイちゃんバイク乗れるの?すごぉい!私も後ろに乗せて?」
そう言ったマイをしばらく見たアイは、ニコッと笑った。
「乗れるかどうかはわかんないわよ?乗ったことないもの」
「え……」
その場にいる全員がピシッと固まる。
「アイ……、バイクの免許持ってるからそう言ったんじゃないのか?」
庄司が疲れた顔で言う。大体だがここにいる少女達は高校生か、卒業したばかりくらいの年齢に見える。
バイクの免許を持っていてもそう不自然ではない。
それだけに乗れる前提で話していたのだが……。
「いいえ?練習すれば乗れるでしょ」
とあっさりした感じでアイは言った。それを聞いて大人組はため息をつき、マイは「……後ろはまた今度でいいや」と呟いていた。
その様子を見てミィシアはどこか羨ましそうな顔をしていた。
◆◆ ◆◆
「この館、無駄に広いからな!好きなとこ使ってええで。あ、散らかしとるのはごめんなさい」
ミィシアが暮らしている間、散らかしに散らかしているところを、お母さんが片付けを始めていたのだ。
結局、この館を拠点に物資集めとマイキーの充電と改装、もしくは乗り換え。
それを目的にしばらく過ごすことになった。
「もう、ゼンさん?わたしのバイクも忘れないでよ?」
今後の動きをそう言ってみんなに伝えたゼンさんが話を締めようとして、アイが不満げに口を挟んだ。
「あ、ああ。大丈夫、忘れていないさ。ハハ……」
ゼンさんはそう言ったが、アイにバイクを与えたらとんでもない無茶をしそうで、すでに危惧している。
「バイク屋じゃなくて、やっぱり自動車工場がよかったなぁ……」
小さく呟くゼンさんをミィシアが慰めていた。
ミィシアの館は守りは完璧なので、ゼンさんとお母さんがカメラと電子ロックを操作するだけで、誰も二階には辿り着けない。
なので、残りは手分けして目的の物を探すため、行動を開始した。
◆◆ ◆◆
庄司とミィシアは、例のバイク屋を目指していた。
「それ、使えるのか?」
庄司がミィシアを見て言う。ミィシアはアイと立ち回った時と同じ格好をしている。
すなわち自分の背丈くらいの剣を背負い、腰にはハンドガンがある。
「HK45か……45ACPなら感染者相手にもストッピングパワーは高いだろうが、予備の弾丸はない。これから集めないとな」
庄司がミィシアの武装を見てそう言った。
「あの館に住んでたウチのじいちゃんの物や。祖国のドイツから持ってきた言うとったで。弾は……この一箱くらいやな」
そう言って、大きめのポーチから銃弾の入った箱を取り出して見せる。
開けて見ると、ケースから何発か抜けているがほとんど満タンに入っている。
装填している分と合わせて五十発前後ということだろう。
「使い方に関しては心配ないで、ここに遊びに来るたびに撃ってたからな。地下に射撃場あんねん」
気軽な調子でミィシアはそう言ったが、庄司は今が平時でなくてよかったと頭を抱えた。
よく今まで警察に踏み込まれなかったものだ。
頭を抱えながら庄司がそう言うと、ミィシアは苦笑いしながら言った。
「じいちゃん……ってかウチの家は、祖国から騎士爵を授与されてんねん。永年って言ってたから、ご先祖さんがなんかすごい事したんやろな」
そう言ってミィシアはからからと笑った。
--なるほど、だからその剣というわけか。銃に関しては、あるいは外交問題になるのを恐れて見逃していたのかもしれないな。
と、庄司が心の中で納得した頃、目的地に着いた。
「あそこや……なんやけど、まぁようけおるなぁ」
バイク屋がよく見える場所と庄司が指定したので、ミィシアはバイク屋を見下ろせる少し丘になった公園に庄司を案内した。
そこから見下ろしてのセリフである。
目的のバイク屋は随分の荒らされた形跡があり、感染者もウロウロしているのが見える。その格好は作業着の者や、平時の服装もいるしパニック後の格好をしている者もいる。
「考えることは同じってわけか。おい、裏に廃車置き場もあるじゃないか」
思わぬ誤算に庄司が喜色を見せて言うと、ミィシアは役に立ったのが少し嬉しそうだった。
「とはいえ、あの感染者たちをどうにかしないといけないな」
そう言って庄司は思案しだす。それを見てミィシアは「音で誘導してどっか連れてけばいいんちゃうん?」と気軽な感じで口にしていた。




