2-10 新しい仲間
そう長くはもたないだろう。そう言う庄司の話を聞いたミィシアは俯いて聞いていた。
「そっか……。まあなんか調子悪いなって思うことけっこうあったからな。この館はウチのじーさんが住んどったんやけど、しょっちゅう何かしらの業者が来てた気がするわ」
寂し気にミィシアがそう言うと、庄司が頷いて言う。
「そうだな……。建物全体をカバーしているカメラや、ドアロックの集中管理。太陽光パネルが発電しなくなったらこういうのも使えなくなるからな」
「じゃあ、ここは使えなくなるんですか?」
眉を下げて悲しそうにマイがそう言うと、庄司は苦笑する。
「すぐに、という訳じゃない。ただ長くはもたないだろうという話だよ。」
ポンとマイの肩を叩きながら庄司は言ったが、マイの表情は晴れない。庄司はマイキーから何か連絡が入ったのか、インカムを付けた耳を押さえて部屋の静かな方に移動した。
「なんでアンタが寂しそうなのよ。関係ないじゃない」
マイの様子が気になったのか、アイはマイに話しかける。
「だってお爺さんとの思い出の建物なんだろうし……」
そのマイの答えを聞いて、ミィシアは笑みを浮かべた。
「それなら大丈夫や。爺さんはウチが小さい頃に死んでるし、ここにおったのも身を守るのに適してるって思ったからや。……まあ全く何も思わんって言うたら嘘になるけど、命を懸けてここに残るって言い張るほどの愛着はないで」
ミィシアがそう言うと、マイはようやく安心したようだ。
「あの子は記憶とか思い出に考える所っていうか、思い入れみたいなものがあるからね」
安心したら、あまり見ることのない洋館の造りに興味を覚えたのか、マイは部屋のあちこちを眺め出した。そんなマイを見ながらアイがそう言うと、ミィシアは形のいい眉を曲げてアイを見た。
「ん?どういう意味や」
「あの子記憶がないのよ。気付いたら感染者が動き回ってる世界の、廃棄された病院で目覚めた。基本的なパーソナルデータは覚えてるけど、ここ一年くらいの記憶がすっぽり抜け落ちてるらしいわ」
少し声をひそめてそう言うと、ミィシアは少し微妙な顔をした。
「ほんまかいな?そんな都合よく部分的に記憶がないなんてことあるか?」
そう言ったミィシアににアイ頷いて返した。
「わたしも最初は疑ってかかったけど、しばらくあの子と話してみたら分かるわ。それに私たちに嘘をついても何の得もないわ」
まぁ……確かにな。とミィシアもマイを見て納得するあたり、マイの人柄は伝わっていたようだ。
そんな事を話していると、少し険しい顔をした庄司が戻ってきた。
「すまない、少しマイキーの周りで人の気配がするそうだ。俺が戻って確認してくるから、持ち出すものの選択とまとめ、それからアイたちも物資として使えそうなものの回収を始めていてくれるか?ミィシアもそれでいいか?」
そう言った庄司に頷くアイとマイに比べて、ミィシアはぽかんとしている。
「ほら、ぼーっとしてないで荷物をまとめてちょうだい。マイキーも手狭になって来てるから無駄なものもってきたら容赦なく捨てさせるわよ?それはそれとして、使えそうなものがあったら使わせてほしいし……どうしたの?」
そう言ったアイがポカンとするミィシアを見て、どうしたのか訊ねると、ミィシアはおそるおそる口を開いた。
「え、助けてくれるん?その……ウチ、何も持ってへんで?言われたことは何でもやるつもりやけど、ほとんど食べ物も残ってないし……迷惑ばかりかけると思うしな?」
次々とネガティブな理由を上げるミィシアに、アイは何も言わず手近にあったカレンダーを破って交互に折り始めた。そしていまだにセルフでネガティブキャンペーンを行っているミィシアの頭に振り下ろした。
ぱあん
小気味の良い音を立てて、アイが作ったハリセンで叩かれたミィシアがきょとんとしている。
「ごちゃごちゃうるさいわよ。私たちは損得勘定ばかりで動いているわけじゃないし、……その、なんて言うか」
そこまで言うと急に言葉に詰まったアイに変わって、マイが残りを言った。
「アイちゃんの言う通り、私も拾ってもらった方だし偉そうな事は言えないけど、アイちゃんは人柄を見て助けの手を差し出してくれてる。助ける価値がないって思えば容赦ないけどねー。もちろん、その手を取るも取らないもあなたの自由だけどね!」
マイはそう言うと、ニマニマ笑いながら言葉の足りないアイを見ているが、アイは照れくさそうに違うところ見るだけで、否定はしなかった。ミィシアは何かをこらえるようにしばらく黙っていたが、顔を上げた時にはいつものにぎやかなミィシアに戻っていた。
「そうしたら……世話になるわ。ちょ、まずは正しいハリセンの作り方を教えたる!」
「そんなものいいから持ってく荷物まとめなさいよ」
ぽいっと持っていたハリセンを机の上に放り投げると、ミィシアに荷物をまとめるように言うのだが、ミィシアはアイが放り出したハリセンを取るとまず最初に荷物に入れた。
「あほう!あとで、後で絶対に教えたるからな!」
そう宣言してタンスから洋服を引っ張り出す様子を、アイもマイも笑顔を浮かべて見ていた。
◆◆◆◆
「待ってろって話だったけど……少し遅すぎないかしら?」
庄司は自分が戻るまで準備をしながら待つように言って出て行ったが、もうかなりの時間が過ぎている。
マイキーを停車している場所を考えても、行って様子を見て戻るだけならもうとっくに戻ってこないとおかしい。
「大丈夫なんかな?こっちはこっちで動いたほうが良くないか?」
不安げに拠点を出る準備を終えたミィシアが言う。
ミィシアは持っていく荷物をまとめた上で、自前の武器も用意している。
もう一つの祖国ドイツ製の拳銃で、ヘッケラー&コッホ社製のHK45という拳銃と、シュネイベルク家が先祖代々騎士爵を持っているためか、この館の暖炉の壁に家紋と共にかけてあった洋風の剣をいじりながら、落ち着きのない様子でいる。
「大丈夫よ。おじさんは何か急を要することなら絶対何か言うはずだし、危険ならむしろわたし達だけでも逃げろと言ってくるはずよ」
アイは出口付近に台車に乗せた大掛かりな荷物を縛るロープに緩みがないか確認しながら、ミィシアに落ち着くように言った。
ミィシアは館に押し入ってきた連中の持ち物を無造作に倉庫に放り込んでいて、使えそうなものが結構あった。マイのミロクで使えそうなショットガンの弾もあり、大荷物になっていた。
「そんなもんかいな。置いていかれたとは考えへんねんな?」
ミィシアがそう言うと、アイだけではなくマイもぴたりと動きを止めて、顔を見合わせた。
「……その可能性は考えてなかったわね。まぁありえないけど」
「置いていかれるのはショックだね。ないだろうけど」
その可能性は本気で考えてなかったようで、二人とも一瞬だけ考えたが、結果的に否定の言葉を口にしている。
「……信用してるんやな?」
ポツリとこぼした言葉に、アイもマイも動きを止めてミィシアを見た。
それに気づいたミィシアは誤魔化すように笑いながら言う。
「いや、ウチは、そこまで信用できる奴おらんかったからな。ここに来る奴らは物資目的の略奪者か、脳みそまで腐っとる感染者しかおらんかったし、……ずっとこの館を管理していた、代々仕えてるっていうメイドさんにも逃げられてるしな」
ウチが信用なかったんかな?と、寂しそうに笑うミィシアに、アイとマイは顔を見合わせる。
「……その人は何も言わずに逃げたの?」
アイがそっと聞くと、ミィシアは苦笑いしながら首を振った。
「いや……一応声はかけて出て行ったけどな?住み込みやなくて近くから通ってるゆう話やったけど、家に子供がおるからーって言うて出てったきりや。ウチも小さい頃から世話んなってた人やったけどな」
そう言ったミィシアの声色から責めるような感情は全く感じない。むしろその身を案じているようにすら聞こえた。
「……じゃあ逃げたんじゃなくて、止むに止まれぬ理由があったんでしょ。入れ違いになるといけないから書き置き残しときなさいよ?」
真面目な顔でそう言うアイに、ミィシアは少しビックリしたような顔をしていた。




