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BIO DEFENSE ~Mother phage~   作者: こばん
吸血鬼と仲間

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2-7 洋館

泣きじゃくるマイを何とかなだめて聞きだした話によると、寝る前にシャワーを浴びようと思ったマイ。浴びていると脱衣場で何やら物音が聞こえる。この時点でかなり怖かったが、吸血鬼なんている訳ないし、仮にいたとしてもマイキーの中は安全だと。

そう考えてシャワールームの扉を開けたところ、脱衣場の窓から侵入しようとする吸血鬼がいた、見上げるような大男だったので思わず大声を上げてしまったということらしい。


「窓から侵入しようなんて、随分しみったれた吸血鬼ね。入るならもっと颯爽と入りなさいよ」


ぶつぶつと文句を言いながらアイは脱衣場に来た。脱衣場の窓は大きくない。そもそも換気を目的としてあるので、大きく開く必要はないのだ。


「ここから入ってって……ねえマイ?この窓から入るってわたしでもきびしいんだけど?」


多少冷ややかになってしまった目線でマイを見ながら言うと、マイはぼそぼそと「だって入って来たんだもん……」と言う。


「ここから入ってきたなら随分と小柄な吸血鬼だね。吸血鬼に物理法則が通用するならだけど」


ゼンさんも苦笑いしながらそう言っている。


「だっていたもん……」


段々と声が小さくなってはいるが、見たこと自体は間違いないようだ。


シュンとしながらも、アイのシャツの裾を掴んで離さないマイを見ると、ふつふつと怒りが沸いてくる。


「よし、明日乗り込むわよ!吸血鬼か何か知らないけど、人様の家に勝手に入ろうとする奴にはお仕置きが必要よ」


睡眠を邪魔されたこともあってか、妹分を怖がらせた相手は容赦をするつもりはないらしい。庄司とゼンさんも苦笑いしながら止めなかった。今回は何事も無かったが最悪、裸で武器もないマイが殺されていた可能性もあるのだ。


そしてその夜はマイにきつく抱きしめられ、寝苦しい思いをしたアイは、吸血鬼への怒りを人知れず募らせていた。


翌朝、朝食をとったすぐにアイは突撃を決めた。人類が最も油断しているのは朝方と相場が決まっている。


「私も行くのぉ?」


ミロクを抱いて不安そうにしているマイに、アイは言う。


「あなた今心で負けてるのよ?これから毎晩吸血鬼の影におびえて過ごす気?それよりも一緒に乗り込んで行って女の子のお風呂覗こうとする変態はつぶしてやればいいのよ!」


なんだか罪状が変わっている気がしないでもないが、拳を握って力説するアイを止める者はいなかった。


同じ場所に停めていては危ないので、マイキーを移動させつつ洋館に近付く。途中で茂みに廃棄車両がたくさんある所があったので、マイキーはそこに紛れさせた。


「よし、出発だ。アイは突っ走りすぎるなよ?マイは遅れるな」


三人編成で、前衛をアイ、後衛をマイ、そして中衛を庄司と定めて進む。金持ちの別荘らしき建物に隠れながら進んだ三人はすぐに洋館の塀にたどり着く。近くにはさび付いた鉄製の小さな門がある。裏門か通用門だろう。


「いるな。感染者が見えるだけで三体。もっといるだろう。マイ、室内では遠くから呼び寄せることはないから危険を感じたらすぐに撃て。アイは……吸血鬼を見つけてもお手柔らかにな」


「私だけ指示がおかしくない?」


そう不満を訴えるアイの頭をくしゃりと撫でて、「信用してるんだよ」と言うと庄司はひらりと塀を越えた。二メートルを超える塀のわずかなでっぱりに手足をかけて登って言った庄司に改めて脱帽する。すぐに塀の向こうからさび付いた金属がきしむ音が聞こえて扉が開いた。


素早く身を滑らせて中に入ると、再び施錠する。外からの感染者の侵入を少しでも防ぐためだ。


「裏口は施錠してあるな。普段はこっちから出入りしているのかもしれんな。見た目はさび付いているが丁番の動きはスムーズだ。頻繁に開閉していることがうかがえる」


そう言っている間に鍵を開けた庄司の手並みに、アイは小さく口笛を吹いた。エリートはピッキングもできるらしい。


「やはりな、こっち側は感染者が来ないように封鎖してある。表から見ると一階は感染者がどの部屋にもいるように見えるが、こうして移動に必要な通路は残してあるんだ。」


表から中がよく見える洋館の特性を利用しているらしい。表から見てどこでも感染者の姿があれば、家人は誰もいない。しかも見える範囲は荒らされているように見えるから物資の期待もできない。感染者と室内で戦う危険とは割に合わないと思わせるようにしている。実に巧妙だ。


庄司はさすがというべきか、わずかな違和感を見逃さない。人の痕跡を巧みに見つけて普段の動線まで予測している。


「ここに住んでいるのは少ないな。多くても二人か三人。それも女性だな」


そう予想した庄司の話を聞いて、アイはジトッとマイを見る。


「見上げるような大男ねえ……」


「そっ、そう見えたんだもん」


そう言うマイの言葉にも力はない。吸血鬼はともかく見上げるような大男はマイの恐怖心がそう見せた可能性が高いようだ。


「とにかく油断はするなよ?」


庄司に言われて二人は頷く。アイは鉄パイプを、マイはミロクをいつでも使えるように構えながら進んだ。


「待って!」


急にアイが制止の声を上げる。そして耳を澄ましている様子に、庄司もマイも息をひそめる。そっと通ってきた通路を戻ったアイが、通ってきた扉のノブを握る。


「開かない」


そして小さくそう言った。


「なんだと?さっきは開いたのに……。まさか一方からしか開かないドアか?」


そう言いながら庄司が同じように試すが、確かに開かない。マイの顔色が悪くなっていく。


「ちがうわ。わたしたち多分監視されてる。さっき、電気的にドアがロックされる音が聞こえたもの。カメラで見ながら遠隔で鍵を操作して近づけさせないようにしてるんじゃないかしら」


声をひそめてそういうアイに、庄司は半信半疑で周りを見て、一瞬だけ止まった。その後普通を装って二人を見る。


「確かに監視カメラがあった。石壁の隙間に隠されている、よくわかったな」


本気で驚いたように庄司が言うと、アイは肩をすくめて言う。


「たまたまよ。私も電気ロックの音が聞こえなかったら気付かなかったわ」


そう言いながら、次の扉を開けようとする。入ってきた扉を除けば残りは二つ。どっちかを意図的にロックできれば進む方向を操作できるというわけだ。

アイと庄司が二つのドアを同時に開ける。


「開いたわ」


「こっちは開かない。ということはこっちには行かせたくないようだな。どうする?」


「あと何回か確認させて?音が小さいから聞き間違いだとまずいでしょ?」


アイがそう言うと、庄司もマイも頷いた。そしてドアを抜ける時に意図的に耳を澄まして音を立てないようにした。


じー……がちゃん


マイが驚きで目を見開く。さすがの庄司もこれには驚いたようだ。


「よくこんな小さい音を……お前どんな耳してるんだ?」


呆れたように言う庄司に、アイはこともなげに言った。


「探索で生き延びるには、どれだけ危険を早く察知できるかよ。私は前の避難所で志願して探索グループに入って、色々試したし鍛えたから」


そう言うアイに庄司は何も言えなかった。口で言うのは簡単だが、常に死と隣り合わせにある状況でそんなことができる余裕があるわけがないのだ。庄司たち空挺部隊の精鋭たちもそれができずにどんどん人数を減らしていったのだから……。


周りに気を配りながら進むアイの背中を見ながら、この子はどれだけの覚悟をもってこの世界を歩いているんだろうか。庄司はそう考えずにはいられなかった。

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