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BIO DEFENSE ~Mother phage~   作者: こばん
吸血鬼と仲間

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2-5 アイの制裁

「で、その大事な娘さん達はどこ行ったんだ?」


庄司もクッキーをつまみながらそう聞いて、食べた後「うまいな」とびっくりしたように呟いた。


「例のライフルの練習をすると言って出掛けたよ。少し下った海岸に、険しい岸壁があったろ?あそこなら下まで降りればまず人はいないだろうし、撃っても音が反響して位置がわかりにくいはずだ。そしてその岸壁の方に行こうと思ったら、僕たちがいる目の前の道路を通る必要がある」


そう言ってゼンさんはにっこりと笑った。先ほど何気なく車を移動させていると思ったら、そこまで考えているとは……

このグループの大人たちは本気であの少女達を守ることに全力のようだ。それならば自分も気合を入れないといけない。心の中でそう考えた庄司が密かに気合を入れなおしていると、その少女達が帰ってきた。


「……何かあったのかい?」


困ったようにゼンさんが聞いた。戻って来てすぐに分かるくらいアイは不機嫌で、マイはご機嫌だったからだ。


「別に何も……。私は近接戦闘に向いているんだって再確認しただけよ」


そう言って武器やプロテクターなどを外すアイからは明らかに不機嫌なオーラが漂っている。ちょっとシャワーを浴びてくる。そう言って、アイがリビングを出て行った途端、残った全員がソファに座り額を突き合わせるようにコソコソと話し出す。


「どうしたんだい?マイちゃん」


そう聞かれて、さっそくお母さんが作ったクッキーを頬張っていたマイは、口に入れた分をもぐもぐとしっかり咀嚼して飲み込んでから話し出した。


「それがですね?あのライフルすごい使い易くて……」


マイが何があったのかを話し出す。


◆◆◆◆


アイとマイは、ゼンさんから教えてもらった岸壁の下に、たくさんの荷物を抱えてやってきた。マイはライフルとその銃弾。アイは護身用の鉄パイプと、途中の民家で貰って来た皿だ。マイが受け継いだライフルは、正確にはミロク社製 MS2000sportsというものらしい。クレー射撃というスポーツ射撃用のライフルで、12ゲージという弾を使う。

そもそもクレー射撃が何なのかも知らなかったアイたちにどういうものかを教えた結果、練習するならいいんじゃない?と言い出し今に至る。


クレー射撃には皿みたいなものを使うらしいが、皿みたいなものなら皿でもいいんじゃないかというアイの意見の元、近隣の住居から皿を頂いてきている。


「いい?準備できたら合図頂戴」


海に向かって立つマイと、その横側で皿を構えるアイ。マイは教わった通りに弾を入れて構える。


「はいっ!」


マイが合図を出した瞬間、アイが皿を放り投げる。縦回転のフリスビーの要領だ。放物線を描いて宙を舞う皿が頂点に達した時。


ターン パン


小気味いい音と共に皿が弾けて破片が海に落ちる。まさか一発目で当てて来るとは思ったいなかったアイが驚いた顔でマイを見ると、マイは感激した様子でアイを見ていた。

今にも抱き着いてきそうな様子を見せるマイに、あえてアイは厳しい顔を作って言った。


「まだ一回当たっただけじゃない。目標は半分以上当てるんでしょ?次は方向を色々と変えて投げるわよ!」


アイがそう言うと、マイも表情を引き締め直して銃を構えた。


「っ!お願いします!……はいっ!」


ターン パン


しばらく打ち寄せる波の音に交じってその音が続いた。


それから一時間ほどして……


「すごいじゃない!マイ。向いてるのよあなた」


アイにしては珍しく、手放しで褒めていた。マイは信じられない顔でライフルを見つめている。持ってきた皿の三分の二ほどを使って練習した結果、マイは半分どころか八割くらいの確率で当てることができるようになった。以前ゼンさんが持っていた古い散弾銃を使って練習した時とは比べ物にならない成績である。


「信じられない……きっとこのライフルがすごいんだよ。なんかね?すごくしっくりくるの!」


そう言うマイは頬を紅潮させてとてもうれしそうにしている。これでお荷物卒業だなどと言っているから、戦闘面で役に立てていなかったことを気に病んでいたのかもしれない。そして、マイが小気味よく命中させるのを横で見ていたアイは、ある欲求が膨らんでいた。


マイでさえあれだけ当てることができるのなら、自分でも半分くらいは当てれるんじゃないかとの思いだ。マイは戦闘面で役に立たないと気にしていたが、アイも射撃に適性がないことを思っているより悔しかったようだ。


「ねえ、マイ?少しだけ貸してくれない?絶対乱暴に扱ったりしないから」


そう言って下手にお願いしたアイに、「アイちゃんならいつでもいいよ!」とマイは快く貸してくれた。

このライフルがマイにとって大事なものの上位に食い込んでいることは見ていてわかる。そんな大切な物を快く貸してくれたマイのためにも当てて見せる!そう心の中で誓うアイの足元にざっぱーんと波が押し寄せていた。


銃弾を入れ慎重に構える。少々手荒に使っても曲がったりこそしても、壊れるということのない鉄パイプと比べたら、このライフルは芸術品に思えてくる。構えたら目の端に入ってくる舞の文字。この文字がマイに与えてくれるものは大きいだろうなあと、ふと考えて「はいっ!」と声を張り上げた。


それに反応したマイが皿を宙に飛ばす。


見えてる。照準も見やすいし重さも銃身の長さもちょうどいい。アイはこのライフルの使い心地に感心しながら、落ち始めた皿に狙いを定めた。

ターン …………


「……はいっ!」


気を取り直して合図を出す。再び皿が宙を舞い、今度は頂点に差し掛かったところを……


ターン …………


トリガーを引いて銃を折ると、空薬きょうがポンと飛び出してアイのおでこに当たる。アイは震える手で弾薬を装填して構えた。


それから十回ほど装填しなおして撃ってみたが、当たったのは二回だった。しかも外したことに意識が行って銃を折る時に薬きょうが飛び出すのをいつも忘れてしまう。ぽこんと熱い空薬きょうがおでこに当たる。いい加減やけどくらいしているかもしれない。それよりも銃を折った回数分、アイの心まで折っていた。


「……もういい」


言葉少なにライフルをマイに返すアイ。マイはどう慰めようか言葉に悩んでいる様子だ。それを見てアイはにっこりと笑った。


「大丈夫よ。元々わたしは近接戦闘が得意だもの。やっぱり銃は向いてないわね」


そう言ってあははと笑って見せたが、マイの顔は引きつっていた。その帰り、たまたま道端で遭遇したガラの悪い男たちに絡まれた。目を付けられたのはマイで、しつこく絡んできて体に触れようとする男たちに嫌悪感を抱いたが、それよりも背後から膨らんでくる怒気にマイは泣きそうだった。


五分後、五人いた男たちは全員股間を押さえて道路に転がされた。その横でいくらかすっきりした顔をするアイを見て、マイは自分にはないはずの股間がヒヤッとした気がした。


◆◆◆◆


「ということがありまして……」


話し終えたマイに、ゼンさんも庄司も顔が引きつっていた。


「それはまた……間が悪いというか、うっぷんを晴らさせてくれてありがとうと言うべきか……」


ゼンさんもかなり動揺しているようだ。その横で目頭を押さえている庄司が真剣な口調で言った。


「気持ちは分からなくはないし、全面的に無理やり事に及ぼうとする男たちが悪いが……あの制裁の仕方はちょっと疑問だぞゼンさん。初めて会った時もやってたが、仮にも女の子なんだ。靴越しだとしても容易く触れてはいけないと思う」


真面目な顔でそういう庄司に、ゼンさんもマイも苦笑いを返す。言って止めるならとっくに止めている。恐らく本人はそれが最も効果的だと思っているのだ。そしてそう外れてもいない。


奥からシャワーの音と鼻歌が微かに聞こえてくるのを聞きながら、リビングに重いため息が三つ重なった。

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