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BIO DEFENSE ~Mother phage~   作者: こばん
吸血鬼と仲間

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2-2 初々しい探索

「私も行く!」


アイが出ようとした時、同じような格好をしたマイがそう言った。


「マイ……それちゃんと撃てるの?」


アイは目を細めてやる気を出しているマイを見る。その手には水平二連の散弾銃が握られている。ゼンさんが渡したもので、マイでも自分の身を守れるようにゼンさんや庄司から扱い方を学んでいた。


「これ、散弾だから……私はへたくそかもしれないけど当たりやすいって」


少し俯いてそう言ったマイの後ろではゼンさんが眉を下げて困ったような顔をして立っている。危険なことはさせたくはないが、身を守る術は身につけておく必要がある。といった心境だろうか。


--それってわたしにお守りしろってことじゃない。


アイは思わず文句を言いそうになったが、おびえているものの引こうとはしないマイの目を見て言葉を飲んだ。代わりに大きなため息をつく。


「……いいけど、それ使わないでね?よっぽどじゃないと、音であいつら寄ってくるから」


アイがそう言うとマイは顔を輝かせて頷いた。


アイが辺りを警戒しながら歩き出すと、その後ろを同じようにしてマイも続く。その後ろではゼンさんとお母さんが心配そうな顔で見送っていた。

こんな世界で生き延びようと思えば、最低自分の身は自分で守れるくらいじゃないと生き延びられない。危険なのは感染者ばかりじゃなく、暴力で人の物や命まで平気で奪う連中もいる。特に容姿の優れているマイはすぐに狙われるだろう。


そうすれば待っているのは尊厳の崩壊だ。生きていられるだけマシという意見は本人の前で言えるもんなら言って欲しい。……もしその場にアイがいればそいつは頭蓋骨を叩き割られているだろうが……。

ともあれ、マイは運動神経は悪くないのだが、おっとりしている性格のせいか近接戦闘はからっきしだめだ。アイはおろか、教えようとしたゼンさんや庄司までもがあっさりさじを投げるレベルだった。仕方なくゼンさんが昔手に入れて自衛に使っていた散弾銃を持たせた。


射撃の技術もお察しなレベルだったが、近くで撃てば下手でも当たるだろう。当たったら全力で逃げろと言いながら。それでもマイはそれなりに努力している事をアイは知っている。それだけに同行を無下に断れなかったのだ。


マイも役に立とうと思ってか、必死に学んでいる。こうして歩いているでけでも、マイもきちんと足音や気配を消そうとしているし、危険そうなところには近づかない。アイの邪魔にならないように一定の距離を保ったままついてくる。アイはその動き方に少し感心しながらマイキーから見えた店にたどり着いた。


小さな衣料品店だが、量販店より質がいいものが多いし、今は可愛い下着よりも丈夫なものの方が大事だ。ガラス張りになっている所からそっと中を覗く。何も動いていないことを確認すると、アイはそっと入り口の扉に手をかけた。


「鍵が閉まってる」


思わず口にすると、後ろから残念そうな声が聞こえてきたので、アイは振り返ると言った。


「鍵が掛かってるってことは誰も入っていないってことじゃない。ということは商品は荒らされていない可能性が高いわ。まあ裏口から入られてたりしたら意味ないけど。でもガラスを割られていたり、鍵を壊した跡がある所よりずっと期待できるよ」


そう言うと、感心したような顔になったマイはその後嬉しそうに微笑んだ。自分の記憶どころか荷物も何も持っていなかったマイは、アイの物を借りて着ている。サイズの問題もあるしずっと気後れもしていたのだろう。


アイは鍵の部分に小型のバールを差し込みながらチラリとマイのある部分を見た。アイの物を貸したけど苦笑いしながら返してきた。自分とはずいぶんとボリュームが違う胸を見ながらバールをこじって鍵を壊した。

完全に泥棒の手口に慣れてきている自分に呆れながら商品を並べてある棚に素早く身を隠す。そして、気を取り直して店内の様子を見る。


昼間ゆえに店内は明るいが照明は点いていない。思った通り商品が荒らされていないことを確認してアイは隠れていたところから立ち上がって、マイを呼んだ。


「誰もいないみたいだけど、いつ来るか分かんないし五分ってところね。長居すると音を聞いて他の所から来るかもしれないし、もしかしたら奥にいるかもしれないから」


そう言ってアイは店の奥、バックヤードの方に目をやった。そっちも確認すればいいのだが、万が一感染者がいた場合、ほぼ間違いなくここの店の店主だろう。大切な商品を山ほど盗まれた揚げ句に脳天を叩き割るのは気の毒すぎるので、出来ればそっと持っていきたい。


そう言うとマイも激しく同意してくれた。そして頷きあうと二手に分かれて必要なものをかたっぱしからリュックの中に詰め込んで行った。

……マイが真っ先にブラの棚に行ったことは気にしないことにする。


きっかり五分でお互いのリュックをパンパンにした二人は満足した顔で店を出る。


「次はこの先にある薬局ね。薬局は狙われやすいから、あれば痛み止めや消毒液、風邪薬があれば持ってきて欲しいってお母さんが言ってた。後は生理用品ね。次はどこで手に入るか分かんないからあるだけ持っていきましょ」


アイがそう言うとマイも真剣な顔で頷く。流通が停まってしまった世界では、女の子は特に生きづらいのだ。


物陰に隠れながら進むと道ばたにふらふらと歩いている人影があった。一見酔っ払いのようにも見えるが、背中の方まで真っ赤になるくらい血を流して生きて自分で歩く酔っ払いはいないだろう。アイがぎゅっとお気に入りの鉄パイプを握りしめる。

そして、その人影が一体だけであること、近くに他の奴がいないことを確認すると、力を抜いて振り返った。そしてあごで少し先にいる感染者を指した。その意味を理解して、アイの顔と感染者の背中を交互に見たマイの顔が曇る。

今にも泣きそうな顔になったが、ぎゅっと目の前で拳を握ると頷いた。


「大丈夫、わたしが後ろにいるから。万が一失敗してもわたしがサポートする。落ち着いて」


そう言いながら場所を入れ替わると、マイが真剣な顔になって頷く。アイと似たような鉄パイプを握りしめて、足音を立てないように感染者に近付く。そして鉄パイプを振りかぶると声をかけた。


「あ、あの!」


その声を聞いた人影がさっと振り返る。その顔には生きている兆しは感じられなかった。落ちくぼんだ目、弛緩した頬のせいかだらしなく開いたままの口。その下の首には引きちぎられたような傷があり、血はほとんど固まっていた。

声をかけたのは念のためだ。万が一生きている人だったら目も当てられない。


ゼンさんや庄司はそんなことは気にしないでいいと言う。万が一生きてる人だったとしても、自分の身の安全を優先してほしいと。そう言ってくれるのは嬉しかったが、これは自分のためにも必要なことだ。だからアイもマイもそうしている。


振り返った感染者はマイを認識するとすぐに両手を上げて、唸り声をあげて近づいてくる。


「いやっ!」


拒絶なのか、気合の声なのか分からないかわいらしい声を出して鉄パイプを振り下ろしたマイは、悪い癖が出ていた。どうしても目をつぶってしまうのだ。

慣れていないことが大きいのだろうが、そんな事を考えて手を抜いてくれる相手ではない。思い切り地面を叩いてしまったマイが慌てて目を開けると、感染者の両手が今にも自分に届くところだった。開いたままの口の中まではっきり見えて、マイは思わず鉄パイプを自分の前に持ってきて防御しようとした。


「あ」


しかしその感染者がマイを掴むことはなかった。ぐらりとよろめいて、そのまま前に倒れた感染者の後ろには鉄パイプを振り抜いた姿勢でアイが立っていた。


「サポートするって言ったでしょ?」


そう言うアイにマイは思わず抱き着いていた。

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