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BIO DEFENSE ~Mother phage~   作者: こばん
吸血鬼と仲間

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2-1 新しい場所で

大きな廃工場。

広い空間に大型の機械が置いてあり、かつて平和な頃は何かを生み出していたであろうラインはすべて沈黙している。動かなくなってそれなりの時間が経っていることは、機械に積もっている埃が物語っている。


庄司がこの廃工場をねぐらと定めてもう一か月が経とうとしている。習志野にある基地で、避難民の受け入れと感染者の対応に追われていた庄司が所属する空挺部隊に極秘の命令が下された。それは中国・四国近辺において、感染者の研究をしているという情報を入手したためだ。

いまだ確実な原因も対処法も何も分かっていない感染症に対する情報はどんな物資よりも重要と見た基地司令部は虎の子の空挺団の派遣を決めた。


通信が途絶し、習志野基地も独自の判断で行動している状況で、第一空挺団に下された指令は、この感染症の原因の調査、各地の基地との連携の復活、可能であれば現地に拠点を作成して陸上部隊が移動できるルートの作成などだった。


第一空挺団といえば聞こえはいいが、生き残っている隊員は少ない。その中から庄司以下十二名が選ばれて現地に降下することになった。もう次に飛ばせるか分からないヘリに乗って、岡山上空から降下した庄司たちは……三日ともたずに降下地点から逃げ出すことになった。

原因は感染者の情報の不足と現地の治安の悪化が想定をはるかに超えていたためだった。


全ての移動手段が使えなくなって、それなりの時間が経っている。そんな所にヘリが飛んできて部隊が降下したのだ。目立つどころの問題ではない。整備不足であまり高度を出せないヘリは上空200m地点で庄司たちを降ろした。

その音は感染者たちを引き寄せ、略奪者たちの目を引いた。


空挺団は「空の神兵」、または「一番狂っている部隊」などと異名をとるほどの精鋭だ。しかし、ろくな情報がないまま感染者の群れに襲われ、物資と武器を狙った略奪者に狙われてはさすがの精鋭も逃げ出すしかなかった。


感染者との戦闘の経験はあったが、大きな群れとの戦闘経験はなかった。習志野近辺は基地が存続しているのもあり、比較的避難民のモラルもよく、困窮した者が窃盗に走ることはあっても、躊躇なく襲って殺し、奪うほどにモラルが低下していることなど想像もしていなかった部隊は、襲ってくる生存者への攻撃を躊躇しているうちに大きな被害を出してしまった。


次々と命を落としていく部隊員。命からがら持てるだけの物資と共に、廃工場に逃げ込んだ庄司たちは、追ってくる暴徒と化した生存者を迎え撃った。そして襲ってくるものがいなくなる頃には、生き残った部隊員は庄司だけになり、弾薬も底をついていた。


その後も、時折噂を聞いた生存者が武器を求めて襲ってくるのを倒しているうちに、廃工場の幽霊と噂がたつようになっていた。

部隊は壊滅、武器や弾薬もなくなり、任務の遂行も不可能と思われた。そんな時にアイと会った。


「ここもダメだ。……引き返すよ」


運転席からそんな声が聞こえ、庄司は思考の海から戻って来た。


「感染者ですか?多いな……。統率は取れていなさそうですから、マザーとやらがいるわけではないんですね?」


確認するように庄司が言うと、ゼンさんは頷いた。謎の多い感染者の中でも一番理解できない存在、マザー。多くの感染者を率いて決まったルートを周回するマザーは、邪魔するものは人間だろうと感染者だろうと容赦なく攻撃してくる。マザーに狙われると例外なく率いる大量の感染者にも執拗に狙われるので、一番手を出してはいけない存在として認知されている。


目の間にいる感染者の集団は、マザーのコロニーとは違い統率がなく、勝手に動いているみたいなので、ゼンさんはそう判断した。しかしマザーでなくともぱっと見で100近い感染者の集団に近付こうとするのはただの自殺行為でしかない。


「やはり人口の多い土地では感染者も多くて厄介ですね」


そう言いながらゼンさんはマイキーをターンさせて別の道を探し始める。


庄司を加えた一行は、一般道を東に進んでいた。当初一番近い瀬戸大橋を目指していたが庄司が話した内容から危険と判断した。アイたちが避難していた自衛隊の駐屯地を支配していた怪しげな集団ネメシス。直接かかわることはほとんどなかったし、駐屯地の一番頑丈な施設にこもって出てこなかったからアイたちは知らなかったが、ネメシスも四国に勢力を広げようとしているらしく、岡山県近辺では、ネメシスが物資と兵力の確保のために生存者を無差別に攻撃している地域だった。


「それにしても、先に情報が入ってよかったよ。僕たちは瀬戸大橋をめざしていたからね」


ゼンさんがそう言うと、庄司は苦笑して言った。


「ちょうど瀬戸大橋の周辺はネメシスの勢力範囲にあるみたいですからね。それに奴らは物資を集めるのに生存者のグループを襲って回っている危険な集団です。近づかないに越したことはないかと……」


「まったくだよ。そしてそれだけ組織的に物資を集めているなら、僕たちが回収する分なんか残ってないだろうからね。道々集めながら進んでいる僕たちには死活問題だよ」


肩をすくめてゼンさんはそう言った。


「まあ、明石大橋の方も一筋縄ではいかなそうですが……」


そう言って庄司が見つめる先には、道をふさぐようにしている感染者の集団があった。東に進んで姫路に入った頃から、目に見えて感染者の数が増えている。これは元々の人口によるものだろう。


これから東進するにつれ、さらに増えることが予想されるのだ。


「いづれにしても補給が先ですね。私が増えた事で消費が多くなったのは申し訳ないんですが……」


「おっと、それは言っちゃだめだよ。マイちゃんも気にしちゃうからね?」


笑いながらたしなめるように言われ、庄司は口を閉じた。ゼンさんの言うように、庄司が増えたことを気にすれば、当然同じように同行することになったマイまでもが気にしてしまう。


感染者の多い道を避け、人口の少ないところを走っていたマイキーが静かに停まった。


運転席の窓からゼンさんと庄司が見つめるのは、郊外の住宅地だった。比較的裕福そうな家が立ち並び奥には立派な洋館がある。


「お金持ちの避暑地か何かかな?荒らされた様子はないし、物資の補給をさせてもらえるとありがたいな」


「私が偵察に行ってみましょう。守りを固めようとした形跡があります。もしかすると先住民がいるかもしれない」


そう言うと庄司は探索に行く準備を始めた。



「どうしたのゼンさん」


車を停めたことに様子を見に来たのか、アイとマイがリビングまで出てきた。二人とも眠そうな顔をしているから今まで眠っていたのだろう。


「うん、もしかしたら拠点にできそうな建物を見つけてね。物資まで集められればいいんだけどね」


そう言ってゼンさんが指した方には立派な家が立ち並び、突き当りにはまるで外国の建物のような洋館が建っている。


「うわぁ、素敵。あんなとこ住んでみたいな」


マイが無邪気な声を上げる横で、アイは無言でプロテクターを付け始めている。


「アイまで行く事はない。私が行って様子を見てくるだけだ」


アイが無言で探索の準備を始めたのを見て、庄司はそう言ったが、アイは違う方向を指差した。そっちの方はいかにも日本風の建物がある。昔からある商店街といった感じだ。


「ん?何か欲しいものがあるのか?言ってくれれば取って来るが……」


庄司がそう言うと、アイはちょっと恥ずかしそうに睨む。


「じゃあ、女の子特有の必要な物資とかお願いできる?服屋もありそうだったから下着なんかも補充したいんだけど?」


そう言うと庄司は慌てて目を逸らした。


「……すまない、配慮が足りなかった。そっちは頼む、手が必要な時は呼んでくれ」


照れくさそうに言う庄司をゼンさんが苦笑いを浮かべて見ていた。


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