第六話それでも、立つ
振り下ろされる剣。
避けられない。
防げない。
終わる――
その瞬間。
レオンは、目を逸らさなかった。
(……にげない)
ただ、それだけを握りしめる。
ギィンッ!!
衝撃が、全身を貫いた。
次の瞬間、体が宙に浮く。
地面に叩きつけられる。
「がっ……!」
息が抜ける。
肺が空っぽになる。
何も吸えない。
視界が揺れる。
音が遠のく。
「……まだ立つか?」
上から声。
カイルだった。
ゆっくりと近づいてくる。
その足音が、やけに重く響く。
レオンは、震える腕で体を起こそうとする。
だが――
力が入らない。
(……うごけ)
命令する。
それでも、体は応えない。
「無理すんな」
カイルは、目の前で止まる。
「もう終わりだ」
剣先が、レオンに向けられる。
あと少しで届く距離。
(……おわる)
頭の中が、妙に静かになる。
その時。
――強く、揺れた。
剣の奥で、何かが弾ける。
今までで一番、はっきりと。
――炎。
――崩れる街。
――叫ぶ声。
(……やめろ)
止めたいのに、止まらない。
――伸ばした手。
――届かない距離。
――消えていく背中。
(……まて)
言葉にならない叫び。
強烈な後悔。
胸が裂けるような痛み。
(……まもれなかった)
はっきりとした認識。
その瞬間。
レオンの感情と、完全に重なった。
「……まだ、だ」
かすれた声。
レオンが、絞り出す。
自分でも驚くほど小さい声。
それでも――
確かに言った。
カイルの眉が、わずかに動く。
「……何がだ」
「……終わって、ない」
息が途切れそうになりながらも、続ける。
「……俺は……まだ……」
言葉が出ない。
それでも。
諦めていない。
その意思だけが、残っている。
剣は、それを感じていた。
(……ちがう)
あの時と。
過去の記憶と。
“まだ終わっていない”。
それが、決定的に違う。
「……はぁ」
カイルが、小さく息を吐く。
しばらく、レオンを見下ろしていた。
その目は――
さっきまでとは、少し違っていた。
「……ほんと、面倒くせぇな」
ぽつりと呟く。
そして。
ゆっくりと――剣を引いた。
「……興が冷めた」
あっさりとした声。
まるで、本当にどうでもいいことのように。
「荷はもういい」
背を向ける。
「今日はここまでだ」
その一言で。
盗賊たちが、動きを止める。
「引くぞ」
短い命令。
誰も逆らわない。
一斉に退いていく。
あっという間に、気配が遠ざかる。
戦いは――終わった。
「……なんで……」
誰かが呟く。
勝ったわけじゃない。
完全に負けていた。
それなのに――
生かされた。
レオンは、倒れたまま空を見る。
曇った空。
何も変わらない景色。
(……とどかなかった)
何一つ。
守ることも。
勝つことも。
全部、届かなかった。
拳を握る。
震える。
悔しさが、込み上げる。
「……くそ……」
小さく、吐き出す。
その時。
剣の奥に、まだ残っていた。
あの記憶。
(……まもれなかった)
だが、今は違う。
レオンは、生きている。
まだ終わっていない。
「……強くなる」
はっきりと、言った。
誰にでもなく。
自分に。
そして――
剣に。
「……次は、守る」
その言葉は、小さい。
でも。
確かに、変わった。
剣は、それを感じていた。
過去の後悔と。
今の決意が――
少しだけ、繋がったことを。
(……このひと)
まだ弱い。
でも。
もう、折れない。
その確信が、静かに刻まれる。
風が吹く。
戦いの痕だけを残して。
すべてが終わる。
だが――
ここからが、本当の始まりだった。




