表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
語られぬ剣の記憶  作者: ナイトさん
第一章無垢な剣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/7

第五話届かぬ領域

戦場の空気が、変わった。


ざわめきが、一瞬で止まる。


「……どけ」


低い声。


それだけで、盗賊たちが道を開ける。


その中央を――一人の男が歩いてくる。


カイル。


若い。


だが、その歩みには一切の迷いがない。


(……このひと)


剣が、強く反応する。


今までとは違う。


もっと深いところが、ざわつく。


(……しってる?)


そんなはずはない。


記憶はないはずなのに。


それでも――


何かが引っかかる。


「思ったよりやるな、騎士様」


軽い口調。


だが、その目は笑っていない。


「……だが、ここまでだ」


次の瞬間。


消えた。


「――ッ!?」


視界から、完全に消える。


気づいた時には――


一人の騎士の背後にいた。


「遅ぇよ」


振るわれる剣。


速すぎて見えない。


騎士が、その場で崩れ落ちる。


「なっ……!」


誰も反応できない。


圧倒的。


ただそれだけが、現実として突きつけられる。


(……ちがう)


レオンは息を呑む。


さっきまでの戦いとは、別物だ。


次元が違う。


カイルは、ゆっくりと視線を巡らせる。


誰を狙うか、選ぶように。


その目が――


レオンで止まる。


「……お前」


一歩、近づく。


その瞬間、空気が重くなる。


体が、勝手に強張る。


(……こわい)


本能が叫ぶ。


逃げろ、と。


だが。


(……にげない)


レオンは、剣を握る。


震える手で、それでも構える。


その時。


剣の奥で――強く、何かが揺れた。


――炎。


――崩れる影。


――届かない距離。


(……また)


強い感情が、溢れる。


後悔。


怒り。


そして――


(……とどかなかった)


その感覚が、カイルと重なる。


「……いい目してるな」


カイルが、わずかに笑う。


「さっきのも見てたぞ」


レオンが息を呑む。


「初めてだろ。人、斬ったの」


図星だった。


言葉が出ない。


「迷って、それでも振った」


一歩、さらに近づく。


「嫌いじゃねぇ」


その言葉に、違和感。


敵のはずなのに。


どこか、冷たくない。


だが――


次の瞬間、それは消える。


「でもな」


目が鋭くなる。


「甘い」


踏み込み。


速い。


見えない。


ギィンッ!!


衝撃。


腕が痺れる。


体が弾かれる。


(速い……!)


なんとか防いだ。


だが、それだけ。


次が来る。


連続。


重い一撃。


受けるたびに、体が削られていく。


「ほら、どうした」


余裕の声。


呼吸一つ乱れていない。


「それで守れるのか?」


その言葉が、深く刺さる。


守る。


そのために振った剣。


それなのに――


何も届かない。


「弱いな」


あっさりと、言われる。


事実だった。


何も言い返せない。


その時。


剣の奥で、さらに強く記憶が揺れる。


――届かなかった手。


――守れなかった誰か。


(……いやだ)


同じになる。


また、守れない。


その恐怖が、レオンの中と重なる。


「……っ!」


レオンは歯を食いしばる。


踏み込む。


無理やり、前に出る。


「……まだだ!」


叫ぶ。


震える声。


それでも、前に出る。


その瞬間。


剣が、強く応えた。


ほんのわずかに。


動きが噛み合う。


タイミングが合う。


「……ほう」


カイルの目が、わずかに変わる。


興味。


初めての反応だった。


レオンは剣を振る。


今までで一番、良い動き。


だが――


「遅ぇ」


一言。


軽く弾かれる。


体勢が崩れる。


そのまま、距離を詰められる。


「終わりだ」


振り上げられる剣。


防げない。


避けられない。


(……とどかない)


その瞬間。


剣の奥で、記憶が重なる。


同じ光景。


同じ距離。


同じ絶望。


(……また、か)


だが――


今回は、違う。


レオンは、まだ立っている。


剣を、握っている。


諦めていない。


(……このひと)


弱い。


それでも。


(……にげない)


その在り方が――


どこか、救いのように感じられた。


振り下ろされる一撃。


それは――


決定的だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ