第4話ためらいの先に
金属音が、響く。
剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。
怒号と足音が交錯し、戦場は一瞬で混沌に変わっていた。
「くそっ、囲まれてるぞ!」
「崩れるな、持ちこたえろ!!」
騎士たちの声が飛び交う。
だが、戦いはすでに乱れていた。
レオンは、目の前の敵と向き合う。
短剣を持った男。
鋭い目。
迷いのない動き。
(……ひと)
その事実が、体をわずかに鈍らせる。
「どうした、騎士様」
男が笑う。
「震えてるぞ?」
「……っ」
図星だった。
手が震えている。
息も乱れている。
(斬らないと……)
分かっている。
でも。
(……できるのか?)
その瞬間。
胸の奥が、ざわついた。
剣が、強く反応する。
(……いやだ)
はっきりとした拒絶。
理由は分からない。
でも――
斬ることに、何かが引っかかる。
「隙だらけだ!」
男が踏み込んでくる。
速い。
迷っている暇はない。
レオンは咄嗟に剣を振る。
――弾かれる。
「っ!」
衝撃が走る。
体勢が崩れる。
追撃。
喉元を狙う一撃。
(やばい――!)
避ける。
ギリギリでかわす。
だが、次が来る。
止まらない。
「ほら、どうした!」
男の動きは鋭い。
確実に、仕留めに来ている。
(……このままじゃ)
やられる。
分かっている。
それでも。
体が、動かない。
(……こわい)
その時――
“重なった”。
剣の奥で、何かが弾ける。
――叫び声。
――伸ばした手。
――血に染まる光。
(……まもれなかった)
言葉にならない感情が、流れ込んでくる。
強い後悔。
強い痛み。
そして――
(……もう、いやだ)
同じ感情。
レオンの中の恐怖と、剣の奥の記憶が重なる。
その瞬間。
レオンは、歯を食いしばった。
(……守る)
何を、とは言わない。
それでも、はっきりとした意思。
足が、動く。
半歩、踏み込む。
男の動きに合わせる。
「なっ――」
予想外の動きに、男の目が揺れる。
レオンは剣を振る。
今までより、わずかに自然に。
わずかに、正確に。
(……いける)
理由は分からない。
でも、そう思えた。
剣が、応えている。
無意識に。
導くように。
金属音。
短剣を弾く。
そのまま――
止まらない。
振り抜く。
「――っ!?」
男の目が見開かれる。
避けきれない。
刃が届く。
肉を裂く感触。
確かな手応え。
男の体が、崩れる。
「……あ」
音が遠のく。
時間が止まったように感じる。
(……斬った)
分かってしまう。
取り返しのつかないことを。
だが――
胸の奥に、別の感情が残る。
(……まもれた?)
何を守ったのかは分からない。
でも。
確かに、“何か”を守るために振った。
その実感だけが、残る。
「ぼさっとするな!!」
仲間の声で、現実に引き戻される。
次の敵が迫っている。
戦いは終わっていない。
「……っ!」
レオンは剣を握り直す。
震えは消えない。
感触も消えない。
それでも。
「……やる」
小さく呟く。
逃げない。
その意思だけは、消えなかった。
剣は、それを感じていた。
恐怖。
後悔。
そして――
変化。
(……このひと)
さっきとは違う。
何かを越えた。
それが、分かる。
同時に――
剣の奥で、静かに残るものがあった。
(……まもれなかった)
消えない記憶。
それでも。
今は――
違う。
ほんのわずかに。
その感覚が、変わり始めていた。
戦いは、続く。
そしてレオンは――
もう、ただの弱い騎士ではなかった。




