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語られぬ剣の記憶  作者: ナイトさん
第一章無垢な剣

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第三話初任務

空は曇っていた。


重たい雲が広がり、陽の光を遮っている。


街道を、レオンたちは進んでいた。


今回の任務は、商隊の護衛。


王都から地方へ荷を運ぶ、ありふれた任務。


そのはずだった。


「この辺り、最近は物騒らしいぞ」


前を歩く騎士が言う。


「盗賊が出るって話だ」


その一言で、空気が少しだけ変わる。


軽かった雰囲気が、わずかに張り詰める。


(……ぞく)


その変化を、剣は敏感に感じ取っていた。


理由は分からない。


でも――


(……いやだ)


胸の奥が、ざわつく。


まだ何も起きていないのに。


「容赦するなよ」


隣の騎士が、低く言う。


「相手は人間だが、躊躇すれば死ぬ」


レオンの手が、わずかに強張る。


(……ひと)


その言葉に、意識が引っかかる。


魔物とは違う。


言葉を話し、考える存在。


それを――斬る。


「……はい」


小さく答える。


声は少し硬い。


それでも、逃げなかった。


(……にげない)


その意思を、剣は感じる。


怖がっている。


それでも、立っている。


その在り方に、わずかな既視感がある。


(……しってる?)


思い出そうとする。


だが――


ズキッ、と痛む。


(……っ)


それ以上は進めない。


ただ、嫌な予感だけが残る。


やがて。


「止まれ」


隊長の声で、全員が足を止めた。


前方の道。


壊れた荷車が、横たわっている。


「……罠か」


誰かが呟く。


その瞬間。


――ヒュンッ!


矢が飛ぶ。


空気を裂く音。


次々と突き刺さる。


「伏せろ!!」


一斉に動く騎士たち。


盾を構え、周囲を警戒する。


森の中。


木々の奥に、複数の気配。


(……いる)


剣が、はっきりと感じる。


人の気配。


だが――


どこか、嫌な感覚。


魔物とは違う。


それでも、安心できない。


ゆっくりと。


影が現れる。


フードを被った男たち。


武器を持ち、こちらを囲む。


その中で。


一人だけ、前に出る男がいた。


若い。


だが――


空気が違う。


「……へぇ」


軽く首を傾ける。


余裕のある目。


遊んでいるような態度。


(……このひと)


剣の感覚が、わずかに揺れる。


他と違う。


何かが、引っかかる。


男は剣を抜く。


無駄のない動き。


迷いがない。


「荷、置いていけ」


淡々とした声。


「そしたら命までは取らねぇ」


その言葉に、隊長が前に出る。


「断る」


即答だった。


一瞬で、空気が張り詰める。


男は、わずかに笑った。


「……だよな」


楽しそうですらある。


その表情に――


剣は、わずかな違和感を覚える。


(……へんだ)


冷たいはずなのに。


それだけじゃない。


何かが混じっている。


だが、分からない。


「じゃあ、しょうがねぇ」


男は剣を構える。


その一動作で、空気が変わる。


「やれ」


短い一言。


その瞬間。


すべてが動いた。


盗賊たちが一斉に飛び出す。


騎士たちも迎え撃つ。


剣と剣がぶつかる音。


怒号。


足音。


戦場が、一気に広がる。


レオンの呼吸が乱れる。


手が震える。


(……ひと)


目の前に迫る現実。


逃げたい。


でも――


(……やる)


その意思を、剣は感じる。


恐怖と、決意。


相反するものが、同時に存在している。


その感覚に――


何かが、重なる。


(……おなじ)


誰かも、同じだった。


怖がりながら。


それでも、前に出た。


(……だれ?)


思い出せない。


でも。


確かに、あった。


その記憶が――


ほんのわずかに、剣の奥で揺れた。


「……行くぞ」


レオンが、小さく呟く。


自分に言い聞かせるように。


そして、一歩踏み出す。


その動きに合わせて――


ほんのわずかに、剣が応えた。


戦いが、始まる。


それは、ただの任務ではない。


レオンにとっても。


剣にとっても。


“何か”が変わる、最初の戦いだった。

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