第2話:強い女性
ヴァグルの様子がおかしいまま、何日もすぎる。砂を噛むように味気ない日々だった。
「ヴァグル・クレオネスは不良だ」という噂を聞いた時は、まさかヴァグルが、と思ったけれど、その後にヴァグルがヴィアスと行動しているのを見てしまった。おかしいと思って、痺れを切らしたルオは、深く息を吸って話しかける。
「なあヴァグル、本当にヴィアスたちと友達なのか?」
その場にヴィアスがいる時に言うことでもないが、心配のあまり判断が鈍っていたのである。
ヴァグルは一瞬顔を曇らせた後、明らかにルオの目を避けながらボソボソと言った。
「なんだよ、ヴィアスたちとは友達だ。僕が誰と仲良くしようがどうでもいいだろ?」
そんなヴァグルを見てヴィアスは、ヴァグルの背中を叩いて、笑いながら去っていった。
「お前はほんとにいいやつだなあー?」
そんな声が聞こえる。
やっぱり、関わらないほうがいいのかもしれない。そのほうが、ヴァグルは幸せなのかもしれない。
「俺さ、やっぱヴァグルの様子おかしい気がするんだよね」
「魔力反応が日に日に薄れていっているような……」
いつの間にかルオの隣にラザとセテンが立っていた。
セテンの魔力反応がどうこうはわからないが、それがヴァグルが憔悴していることを指しているとすれば、納得できる話だ。
ラザもセテンも、ヴァグルとの接し方に悩んでいる。
無理もない話だった。
「馬鹿ね、あなたたち」
メルジュが言う。いつからいたのやら。そんなルオの思考を汲み取ったように、メルジュは飄々と言ってのける。
「あんたがヴァグルにそっけなくされてから」
ルオは、一瞬冷や汗をかいた。ヴァグルにそっけなくされたことなんて、ここ数日で何回かある。一番最初にそっけなくされたのは…………。
「え、ちょっ、メルジュ、男子寮入ってんの!?」
ルオらしからぬ突飛な発言にメルジュが深いため息をついた。
「んなわけないでしょ。変態扱いしないでもらえる?常識的に、さっき突き放されていたところを見ていたと言っているでしょう?」
「うんうん」
「ルオって面白いなー」
常識人ではないラザとセテンにに「常識人ではない」と認められ、ルオはポッキリと心が折れてしまった。
「ほら、ヴァグルが心配すぎて壊れちゃってるでしょ。早く治しなさいよ」
メルジュは、早く行動を起こせと遠回しに言っているのだ。
それすなわち、ヴァグルが今辛い状況であるということ。
何度も、ヴァグルのために動こうとしたが、その作戦のどれもが失敗に終わるような気がして、結局具体的な作戦は立てられていない。今もどうすればいいのかわからない。真剣に頭を悩ますルオの横で、馬鹿二人もまた、首を捻っていた。
「治すっつってもなー。俺工具とか持ってないんだよなー」
「あれじゃね?叩けば治るんじゃね?」
聞いているだけで頭の痛くなる会話。腹が立つ。
「あなたたち、そんな会話をする暇があったらやることがあるのではなくて?」
規定の靴よりも、少しヒールが高めの靴をかつかつと鳴らして歩み寄ったサオールも、辛辣に告げる。
「やること………って」
どうすればいいかわからない、と正直に言うルオにサオールはバシリと扇子を閉じて言う。
「わからないは諦める理由になりませんことよ?」
俯くルオにサオールはスラスラと言う。
「社交界において、交渉の鍵になるのは相手が何を欲しているかを正確に汲み取ること。場合によっては相手の弱みを握るのも大事ですわね」
そこへメルジュが敵陣の情報をスラスラと述べる。
「ヴィアス・カストル………性別は男。野菜と裏切り者が嫌い。とにかく誰かをいじめたい乱暴者で、先生も手を焼いてきている。このルシィル町でも屈指の不良。母親がいなく、あまり幸せな生活を送ってきたとは言い難いわね。今まで女に振られた回数は両手の指を足しても足りないというわ。もっと裏があるなら、探るに越したことはないわね。ルーカス・グレーテ………性別は男。犬と、女性が苦手。何故貴族の出なのに庶民のヴィアスの取り巻きなのかしらね………?」
「では、情報収集は任せます。私は、復讐のタイミングや、行動についてのシナリオを」
「ええ」
二人の女性の間でとんとん拍子に話が進んでいく。
男性陣はポツンと取り残されている気分を味わう。
「そこ。表立って動くのはあなた方の方が都合がいいのです。行動に自信を持ち、かつ、馬鹿な言動はおよしなさい」
閉じた扇子でビシリとさされ、ルオは唾を飲む。
「俺ら、馬鹿な言動ってしたっけ」
「そもそもゲンドーってなんだ?」
この会話こそが馬鹿な言動の最たる例だ。
「こちらからは、あからさまな嫌がらせはしません」
「なんで?」
「やられたらやり返すんでいいだろ?」
「いいえ。復讐はします。でも………陰湿な嫌がらせは見苦しいので」
ニコニコと楽しげに微笑み、サオールは華麗(?)な復讐法をレクチャーしていく。
「まずは、いじめの証拠を掴みます。メルジュ様の情報によると、あの集団はかなり暴力的なようです。いじめの対象に暴力を振るわないということはあまりないかと。それなのにヴァグル様には目立った傷がないのですね?でしたら、この学園の制服は長袖ですから、袖を捲ってみるのも手かもしれませんわ。そうですわね………何か洗い物を手伝ってもらうということで呼び出してはいかがでしょう?」
「でも、ヴァグルが一緒に洗ってくれるかなぁ」
断られる気がしてならない。
「無理やり連行してくださいまし」
このご令嬢はお淑やかな性格というわけではなさそうだ。
ヴァグルは嫌な思いをするかもしれないけれど、状況がよくならば仕方のないことだ。
「それから、ヴィアス・カストルとも復讐の前に対面していただきたいの。顔は覚えてもらったほうがやりやすいので」
どこがどうやりやすいのかはわからないが、とりあえずヴィアスと話せばいいという。その時に殴られたら、それも復讐の糧にすればいい。
タイミング、行動、セリフ。
社交界で生きてきた人にしか気にしないような細かいところまで、丁寧に教え込まれた。
「…………ということですの。よろしくて?」
「ああ」
できる自信はないが、成功するかもわからないが、「わからない」も「できない」も諦める理由にならないのだ。




