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湖畔のマリス  作者: 夜風 紅葉
第2章:不良の憎しみ
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第1話:ヴァグル・クレオネスは不良だ

 ルオは、医務室に数日泊まって、今はどうしたものかと頭を抱えながら廊下を歩いていた。

 結局、ルオが医務室にいる間、一度もヴァグルは来なかった。

 忙しかったのか、はたまた会って一日目の人なんてどうでも良かったのか。

 ヴァグルに限って後者はないと思う。しかしラザとセテン曰く


「なんかヴァグル冷たくなったよな」


「話しかけても黙り込むし」


「俺らのこと嫌いになったんじゃね?」


 とのこと。

 ルオはまさか、とは思ったが人の気持ちなんて変わるものだ。ヴァグルが誰を好きになろうと、誰を嫌おうと、それに干渉するような真似はしたくない。

 嫌われるのは、辛い。

 だから、誰が何を好きになろうと嫌いになろうと、知ったこっちゃないと自分にいい聞かせていたのだ。

 ひとまず、寮に戻ればみんないるだろうと思い、寮に向かって歩いていたのだが、これが遠い。

 特にルオはまだコリフレア学園の生活に慣れていないので、学園の構図など覚えていない。そのため、同じところをぐるぐる回ってしまったり、回り道をしてしまったりと、余計なことに体力を使うのだ。

 今やゼヒィゼヒィと、医務室に戻った方がいいのではないのかというぐらいの危うい息をしている。


(あれ。待って、この絵、さっきも見た………ってことは、また同じとこ回ってる!?)


 先ほど見た絵を、また見てしまったルオは肩を落とす。

 その絵は、ノルジェータ王国の神話を描いたものだった。神話には、九神(エンネア)が出てくる。闇、光、炎、水、氷、雷、風、土、そして生命。それぞれの神に名前がついていて、ルオは小さい頃、それを必死に覚えたものだ。一番覚えにくかったのは<生命の神ルードファルンケフッツェ>で、何度も繰り返し言った記憶がある。

 王国の様々な場所に、九神をモチーフにした石像などがあり、特に深く信仰している人などは国中をまわって拝むそうだ。

 ノルジェータ王国は、自然豊かで、それでいて発展した都市もある国である。

 自然に感謝し、畏怖の念を抱くべきだという思いがこの神話が作られた理由だろう。


(そういえば<闇の神スードゥレフェクスト>と<清水の神セテン>ってあったよなぁ…………で、セテンの本名がセテン・フェクスト……何か関係があるのかな)


 自分の子供の名前に、神の名の一部をつけることは珍しくない。だが、あまりにもセテンの名前は九神と密接に関わっているような気がしてならないのだ。

 考えながら歩いていたせいで、ルオはまた、九神のところへ戻ってしまっていた。


 ***


「ただ………いま……あ、れ…ヴァ、ヴァグルは?」


 寮にやっとのことで辿り着くなり、ルオはそう言った。


「ヴァグルー?なんか出かけてくるとか言ってたよなぁ」


「最近はほぼこの部屋にいないしな」


 うんうんと頷く二人に、なんとなくルオは腹が立った。ヴァグルが危険な目に遭っているのかもしれないのに、何故そんなにも悠長でいられるのか。

 ルオの腕組みした手が解かれないうちに、扉が開いてヴァグルが帰ってきた。


「ヴァグル!なんかあった?大丈夫なの?」


 矢継ぎ早に聞くルオにヴァグルは一瞬眉を下げたが、ツンとそっぽを向いてしまう。


「何もない……ですけど。なんなんですか、ほんとに!過保護すぎませんか、親じゃないんだから放っておいてくださいよ………!」


 早口でヴァグルはそう呟いたあと、部屋を出ていってしまった。

 呆然とするルオに、セテンとラザは同情的な眼差しを向ける。


「最近、ずっとああなんだよ」


 最初にヴァグルに会った時、あんなことを言う人ではないと思ったのだが。

 嘘をついていた、ということなのだろうか。


「『何かあったのか?』って聞いても『何もない』の一点張りだもんなあ」


「でも、ヴァグルに何かあったら………!!」


「俺らだってヴァグルが心配だよ!でも、関わってほしくないんだったら、無理やり詰め寄るのも違うんじゃないか」


 セテンの言うことにも一理ある。それでも、と食い下がろうとするルオにラザが言う。


「もうちょっと、待ってみたら?もし、本当にヴィアスってやつが悪いやつだったら、とっちめにいく作戦でも立ててさ」


 ラザの言うことも正しい。この場にいる彼らの言うことは、すべて正しいのだ。

 だから、ルオは、ラザとセテンの言う通り、ほんの少しだけ待つことにした。

 ヴィアスが敵だったとして、対策を考えなければいけないから、と、言い訳して。

 なるべく、魔術を使わない方法がいい。まだ制御に不慣れだし、どういう効果や、どのような副作用があるかがはっきりしていないから。

 危ないことはできないのだ。

 迂闊に動くことが、できない。


 ***


 その頃、ヴァグルは、ルオたちを突き放すような態度をとったことを後悔していた。


(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………突き放して、ごめんなさい。心配してくれて、ありがとう。ごめんなさい)


 ルオたちは優しい人なのに、ヴァグルはそれに応えることができない。

 許されない。

 優しいからこそ、仲良くしたい、関わりたい。

 大事にしたい人だからこそ、仲良くできない、関わりたくない。

 この矛盾を誰に説明できよう。ルオたちに説明すれば、助けてくれるのかもしれないが、それでは迷惑がかかってしまう。友人のためにも、ヴァグルは口を閉ざすしかないのだ。


 数日経って、ヴィアスからのいじめは酷くなった。

 ある時は、羊皮紙を破り捨てられた。羽ペンを折られた。

 ある時は、インクをぶちまけられた。教科書を破られた。

 ある時は、倉庫に閉じ込められ、二時間ほど出してもらえなかった。

 暴力なんて日常茶飯事。それも、服に隠れて目立たないところにつけるのだ。

 ヴィアスたちは、粗雑なようで、狡猾だ。

 どうすればヴァグルが辛いか、周囲にバレないか、考えてやる。

 だから、余計にタチが悪い。

 そんな生活が続くと、周囲には共通の認識が広まる。


 ヴァグル・クレオネスは無愛想で、よく物をなくす不良だ………という認識が。

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