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湖畔のマリス  作者: 夜風 紅葉
第1章:覚醒した…かも
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第12話:医務室ではお静かに

大変失礼いたしました。改めて読み直してみたら、この話が非常にバグっていることが判明しました。すみません。***今回いじめ描写あります。次から第二章に入りますが、第二章はもっといじめられてます。

「ルオ、起きろ!」


「ルオ、大丈夫か!」


「ルオ!」


「ルオ!」


 あれから特に気絶したわけでもなく、ただ医務室に搬送されただけなのに、ラザとセテンはしつこく「起きろ!起きろ!」と叫び続けている。医師に至っては耳を塞いでいる。

 口が動いているから、おそらく「医務室では静かに」と言っているのだろうが、その声すらかき消されている。可哀想なことこの上ない。


「やかましい!」


 ついに痺れを切らしたルオも大声を出す。大声を出した時に頬の傷が引き攣って痛い。


「ル……オ…」


「お前……」


 ハッとした様子のラザとセテン。二人は目を見開き、ルオのことを凝視する。嫌な予感しかしなかったが、ルオは、面倒なので黙って成り行きを見守ることにした。


「生きてたんだな………!!」


「よかった……!」


「なんで死んでると思ったの?」


 ルオは額を抑える。怪我とは別に頭が痛い。そこへ医師も呆れて口を挟む。


「ラザ君、セテン君……君たちねぇ、ルオ君を心配するのはいいけど、あれじゃあティノルド君のほうが可哀想だよ」


「………」


 沈黙する二人に、またまた嫌な予感がした。


「先生、ラザとセテンがどうかしましたか?」


 ルオの質問に医師は長いモサモサの白い髭をいじりながら、答えた。


「ラザ君はティノルド君の鳩尾蹴ったし、セテン君は……まあ、当たったらめっちゃ痛いであろうところを……」


「え、いつ?ラザとセテンってティノルドに攻撃する場面があったっけ?」


 医師はため息をつき、


「君が気絶したわずか数分のうちに、ティノルドの体にいくつもの青あざをつくった悪ガキはこいつらだよ」


 と言った。

 それはひょっとすると———ひょっとしなくても、ルオの魔術よりも痛そうだ。やっぱりラザとセテンに戦って貰えばよかったかな、と今更ながら思った。


「ところで、二人ともなんか肉の匂いとか言ってたよね。そんなのしたっけ」


 待ってましたと言わんばかりに顔を見合わせ、二人して珍妙なポーズをとる。左手を腰に当て、右手を天に———医務室の天井だが———突き出すというものだ。二人は語り始める。セテンが一度バランスを崩してコケたことは見なかったことにする。


「我らは神々に選らばれし者!」


「どんな罪の匂いも!」


「血の匂いも!」


「嗅ぎ分けることができるのだ!」


 二人で交互に言葉を紡ぐ。


「それは神々になんちゃらよりも嗅覚の鋭い犬じゃないか?あと、ごめん。それ聞き取りにくいから普通に喋ってくれる?」


「……わかった」


 心なしかしょんぼりしたラザとセテンは拗ねたように口を開く。


「だから、俺らは血の匂いがわかったってわけ」


「血の匂いだよね?なんで肉?てかやっぱり嗅覚良すぎ」


 ツッコミどころが多くて困った。


「うん。血の匂いって言ったら肉かなあって。捌く時とか血の匂いするし」


 普段から肉を捌いたことがないルオには納得できない思考回路だった。


「あー、あと血の匂いっていうのはそんなにしてなかったと思うけど……」


「血の匂いを嗅いだっていうのは、嘘!」


「かっこいいかなって思って!」


 脱力しそうな理由だが、それでは何故ティノルドを見つけられたのだろう。


「点々と残る血はかっこいい!」


「血の匂いかっこいい!」


 かっこいいかっこいいと叫ぶ珍妙な男どもを尻目に、ルオは自分の傷の具合を確かめた。


「顔に傷跡ある人とかかっこいいよな!」


「それ怪我した人がどう思うか考えて言ってる?」


 ため息混じりにルオがそう言うと、彼らは叱られた犬のようにしょんぼりとした。


「………ごめんな」


「………うん。ほんとごめん。ルオがどう考えてるかも知らないで………」


 これはこれでラザとセテンが可哀想に見えてきたルオであった。彼らに悪気はないのだから。

 それはそうと、何故ティノルドを見つけられたのだろう。

 ルオがそう問うと、ラザとセテンは揃って胸を張ってふんぞり返った。


「勘だよ!」


「なんでそれで威張れるの」


「勘も実力の内!」


 何故これほど堂々と嘘をつき、何故これほど堂々と開き直れるのか。落ち込んでからの回復も早い。彼らの脳細胞の構造を一度魔術で覗いてみたいとルオは本気で思った。いよいよため息しか出てこなくなったルオは、現実から目を背けるように今まであった出来事を振り返る。


「………ヴァグルは?」


 思考に深く沈んだルオは、ようやくヴァグルのいないことに気がついた。

 ラザとセテンがいるなら、いてもおかしくないと思ったのだが。


「あー、ヴァグルな。どこ行ったっけ」


「俺も知らね」


 先生に担がれて移動させられたルオはともかく、ラザとセテンがヴァグルの居場所を知らないのはなんとなく不安になった。

 ティノルドはルーカス・グレーテの父親で、ルーカスはヴィアスの取り巻きなのだから。


 ***


「離せ、離せってんだ!お前ら如きが俺に触んじゃねえ!」


 駆けつけた憲兵に取り押さえられたティノルドは、錯乱状態に陥っている。

 だが、セテンとラザにボコボコにされてズタボロなため、暴れても大した威力が出なかった。


 ***


「なぁヴァグルー?」


 コリフレア学園は敷地がかなり広い。故に、目立たないところも多い。


「お前のせいでルーカスくんのお父様がどうなったかわかるかなーぁ?」


 ヴァグルは、薄暗いところでジリジリとヴィアスの軍団に迫られていた。


「ちが、僕は……」


「口答えすんなや。お前じゃないなら誰だぁ?」


 ヴァグルにとって、ラザもルオもセテンも、今日会ったばかりでも大事な友達だ。暖かい笑顔を浮かべる彼らを売るわけにはいかない。これは、ヴァグルの小さな意地だ。


「………」


「黙ってちゃなーんもわかんないぞ?」


 襟元を掴まれて引き寄せられる。怯えて息が荒くなるヴァグルを、彼らは楽しんでいるように見えた。

 ケタケタ、クスクスと笑いが輪のように広がる。


「ルオ・クルドレア、ラザ・ガレストル、セテン・フェクスト……」


 ヴァグルの目が見開かれる。


「お前の大事なだーいじなお友達だなぁ」


「俺らとの関係を喋ったら次はそいつらだよなぁ」


 それからヴィアスはヴァグルを突き飛ばして、ケタケタと笑いながら取り巻きを連れて去っていった。

 ヴァグルは、言い返せなかったのだ。

セテンがどこを蹴ったのかはご想像にお任せします

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