第11話:good bye
遅れてすみません。言い訳すると、中間試験だったんですよ。
今回流血描写あります!
くんくんと空気中の匂いを嗅ぎ、時々首を傾げながらラザとセテンは進んでいった。
「………あのさ、本当にこっちであってるの?」
「あってると思うけどな。ティノルドだったらすぐとっちめるよ!」
「肉の匂いする人なんてどこにでもいるよな?」
「まあ、人違いだったらごめんなさいってことで」
どこまでも軽いラザと、セテン。その軽さはもはや、綿菓子のレベルだ(脳みその軽さではないと願いたい)。
「人違いでもとっちめて、挙げ句の果てに怪我でもさせたら、ごめんなさいじゃ済まないんだからな。よく考えろよ」
二人を嗜めつつ、その二人についてルオは歩く。
「あー、ここ!まじでここから!」
「ちょ、おい、声でかい」
ラザとセテンが立ち止まったのは、ちょっとした森のようなところだった。学校の敷地内にあるにしては広く、薄暗い。モサモサと葉をつけた木が、日光を遮っているのだ。
「うわー、魔界の森っぽいな!」
「学校の森だよ」
ルオがイメージする「魔界の森」はいわゆる針葉樹林である。偏見だが。そしてこの森は広葉樹林だ。まぁ、そんなことに関係なく魔界の森なんて存在しないのだ………と言い切れなくなっているのが現状。だって魔術が存在するのだから。すかさず突っ込んだのも、魔界の森なんて恐ろしいものを認めたくないからかもしれない。
————ヒシュン!
「おわぁ!?」
話題になっていた森からぶっ飛んできたのは、重そうな斧だった。
(ほらー、でかい声出すからばれたのでは……)
幸い、ルオの横をギリギリ飛んでいって、全員無傷。
この状況で教師を呼びに戻っても逃げられてしまう可能性が高い。すると誰かがここで足止めをするに越したことはないのだが………。
ルオ、セテン、ラザの中で一番この場に残るべきなのは誰だ?セテンもラザも運動神経がいい。反対に、ルオは運動神経が悪いが、魔術が使える。この場にいる中だったら最強と言ってもいいのではなかろうか。
やはり自分が残るべきだと結論を出したルオは、セテンとラザをどうやって追いやるか————逃すか考える。そして、都合よく、教師がいないことに気づいた。
「お前ら教師呼んで来い!」
「えー、ルオは?」
「お前運動神経悪かったよな?」
「うるさい!はよ行け!よーい、どん!」
所詮この程度の脳みその男子は、競争となれば全速力で走ってくれる。それを利用したルオはラザとセテンを追い立てて一人で森に入る。
「魔界の森」という考えたくもないワードが頭の片隅でチラつく。
しばらく歩くと、学校にある池………にしては大きい、つまりは湖に辿り着く。
確かルシィル町で一番大きい湖だったはずだ。実物を見て感動に目を輝かせるルオの気持ちを冷やすが如く、
「お前、こんなヒョロガリで勝てるのかぁ?」
木立からひょいと現れたのは、やはりティノルドだった。先ほどの会話よりも少し砕けた————侮蔑の混じった口調だ。
なんとなく腹立たしくなって、ルオは口を開く。
挑発に乗ってはいけないと、知っていたのに。
「あなたですよね。犯人。なんでそんなことしたんですか?」
「まあそうだな。お前はどうせ死ぬんだし、言ってやってもいいかぁ。ただ俺はあんまし長話は好きじゃないんだ」
余裕のある態度で腕組みをし、ティノルドは話し始めた。ただ、それは何かを報告するときのように、本当に短く、余計なことは言わなかった。
「俺はもう離婚しているから他の女と付き合っていい。だが、アネットは既婚者。それを隠して俺と付き合ったんだよ、あの尻軽。で、入学式にお互いの子を祝いに来て鉢合わせ。あんまりにも憎かったからね」
なんの後悔も、反省もない、さっぱりとした話し方。それでも、レクドゥアルのような悪意のないさっぱりではない。
「以上。というわけで、死んで」
徹頭徹尾軽い口調のティノルドは、もう一人、人を殺すことをなんとも思っていなかった。
ベルトから数本のナイフを取り出す。一体いつから持っていたのやら。そばにはヴァイオリンケースも転がっていた。「剣」同様、隠して運んだのか。
一気に距離を詰めると、ティノルドはまっすぐにルオの喉を狙ってナイフを突き出す。
ここでルオはある問題に気づく。魔術を使ったら確実にティノルドに気づかれてしまうだろう。つまり、そう簡単に使えないのだ。本当にピンチな時にだけ魔術を使おうと、我慢する。
かくして運動神経の悪いルオは、事前にそこまで考えていなかった自分を恨みつつ、地面を転がる。
だが、ルオの運動神経では完全回避するのは不可能と言っても過言ではない。なんとか喉は避けられても、頬から血が迸る。湖の中にも血が飛び散り、赤い花をつくった。
「うわ〜、よく避けられたねぇ。でも怪我しちゃったねー。その状態で逃げられる?ましてや反撃なんてね、ふははっっ」
(痛〜……普通に怪我して痛いけど言動もイタいな、こいつ)
ルオは真剣にティノルドも中二病説を考えた。
不気味に笑いながらティノルドは一歩、また一歩と詰め寄ってくる。頭を切り替えてルオが攻撃の手段を考えているうちに急にまた距離を詰めると、今度はルオの腹を蹴り上げる。
がふぅ、と息を漏らしてルオは顔を歪めた。
もう我慢しきれなくなったルオは周りの空気を動かし、つまりはティノルドの周囲だけに強風を起こし、動けなくした後、空気を押し固めてそのままティノルドの頭にお見舞いしてやる。
これが、ルオの考えた「一番ばれなさそうな魔術」だ。
もしこれで気絶してくれたら、後から来た人には「自分で木に頭をぶつけていた」とでも言っておけば問題ないだろう。
「ぎゃんっ!?」
ルオが力を込めて空気を固めただけあって、ティノルドは情けない声を漏らして地面に倒れた。体力的には非力なのに、よくここまで力を込められたものだとルオはうっすら思った。
ルオはぜぇはぁと息をしながらティノルドに近寄る。見事に気絶していてくれた。額が真っ赤になっていて、これなら誰もルオの嘘を疑わないだろうと安心したところで膝をつく。
(早くラザ達来ないかなぁ)
ルオは目を閉じた。
***
先生を引き連れて戻ってきたラザとセテンは、呆然とした。後ろから、大勢の大人がやってくる。
自信満々とも言える様子だったルオがここまでやられるとは思っていなかったのだ。
(こんなことになるなら、残っていればよかった………)
自分がなんの助けになるとかはあまりわからないけれど、対象が増えれば増えるだけルオが狙われる確率は低くなるだろうに。
ラザは俯いたままちらりとセテンを見た。セテンの明るい茶髪に木の影が落ち、暗く見えた。セテンも拳を握りしめている。
「なぁセテン。友達の血を見るって最悪じゃないか?」
「わかる。特に誰かに傷つけられたとかだと、マジで犯人ぶっ飛ばしたい」
こうして意気投合した脳筋馬鹿男子はティノルドに近づ………きはせず、一度距離を取って助走をつけ蹴った。結構な痛みのはずだ。
流石に先生達がラザとセテンを引き剥がしたが、先生達も目をギラギラさせる。
「ぶっ飛ばすだけでいいん?私だったらぶっ殺すけど」
ラザもセテンも、あえて言わなかったことを………物騒な発言をしたのは遅れてやってきたメルジュだった。
「なんだこの学年、物騒なやつ多いな」
独りごちたのはゲルト。ちなみに、ゲルトは目つきがかなりが悪いので黙っていれば目が怖い大きな男性である。
「あのぅ、あのぅ……その、皆さんティノルドに敵意を向けるばかりルオ……さん…を、ほったらかしにしてませんか……?」
後から息を切らしてやってきてヴァグルは小さく挙手をする。
「ルオでいいぜ!」
「なんでお前が言ってんだよ。あ、ルオでいいからね」
ラザが凶悪な顔を引っ込めて優しい笑みを向ける。
そこへむくりと起き上がったルオがいつもの調子でラザに突っ込む。
「ところで、この傷跡って残りそうですか?」
セテンが心配そうに周りの先生に訊く。
「まあ、ここまで深かったら残るだろうな」
残る、ときいてルオはこっそり魔術で治してしまおうと思った。どうせこの世に(まともな人で)魔術を信じる人なんかいないのだから。




