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湖畔のマリス  作者: 夜風 紅葉
第1章:覚醒した…かも
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第6話:物騒な世の中

 いきなり現れていきなり自己紹介されても困る。さっきのサオールも、メルジュも、自己紹介されて戸惑う感覚を教えてくれた。


「それじゃ」


 相変わらず唖然とする四人組に背を向け、メルジュは去ろうとした。


「あれ、一体何だったんだ……?」


「急に現れてあのゴミゴリラの紹介して自分の紹介して去ってったよな」


 改めて声に出してみると変人である。


「クックック………。しかし敵の情報が得られたぞ……はっはっは!」


「人多いから一旦静かにしよう?」


 暴走し始めたセテンを宥めつつ、ルオは


(名前とどれくらい不良なのかがわかったところでそこまで喜ぶかなぁ?名前なんて同じクラスなんだからすぐにわかるだろうし、どれぐらいヤバいやつかとかも見てればわかるのでは)


 と思っていた。それよりもこう、取り巻きがグループでどのポジションなのかとか、弱点とかを知りたい。

 ルオがそう伝えると、


「まあいいや、俺ちょっとメルジュに聞いてみるわ」


 すぐさまラザが行動を起こす。

 ルオだったら変人に、ましてや異性に、さらに初対面の人に突撃できない。

 そもそもルオは人見知りであり、内弁慶なのだ。


「あいよ」


 相変わらず軽いセテンと、心配そうな顔で手を振るヴァグルに、ラザはウインクしてメルジュのところに行った。

 ルオ達のところにもギリギリ会話が聞こえる位置だ。


「なぁなぁ、お前なんでヴィアスの情報知ってんの?」


「…」


「もしかしてその取り巻きの情報とかも知ってたりする?」


「……」


「知ってんならさ、教えてよ」


「………」


「できれば弱点とかも知りたいなぁ」


「…………」


「なんで黙ってるの?ねぇねぇ」


 本を読んでいるメルジュの顔の前に手を出し、ふりふりするラザにルオは頭を抱えた。


(おい!お前空気読め!ずっと無視されてるじゃん!メルジュ本読んでるじゃん!明らかに話しかけられたくなさそうじゃん!!!)


「ねぇねぇねぇねぇ」


「……………………うるさいんだけど。本読んでるの。わかる?」


「わかるよー、でも無視は良くないと思うなぁ」


(無視は良くないけど!確かに良くないけど!お前しつこすぎるんだよ!嫌がってるじゃん!)


 ルオの魂の叫びはラザに届くことなく、胸の内で砕け散った。


「なんで無視するのー」


 しつこすぎるラザにメルジュはため息をつき、それから刺すような視線を向けた。


「一つ、本を読んでいる方が楽しいと判断したから。二つ、貴方があまりにもしつこいから余計に話す気が失せた。三つ……ヴィアス達が聞き耳を立てているから。以上。これでいい?………はい、もういいね」


 メルジュは息継ぎもせずにサラリと言ってのけた後、唖然としているラザには目もくれずに読書に戻った。


(うわぁ、うわぁ、うわぁぁぁぁぁぁ…………ヴィアス達が聞き耳を立ててるってことは僕らが探り入れてんのバレたってことだよね?標的(ターゲット)にされなきゃいいんだけど……。てかメルジュごめん、うちの馬鹿がすみません、申し訳ありませんでした……)


 ルオの脳内を凄まじいはやさで文が飛び交う。

 そんな中でも、冷静に考えている部分がメルジュという人間のイメージを固めていく。

 無駄なことは喋らず、自身の楽しみを一番に考える人だというイメージを。


「なんかメルジュ怒ってて話聞けなかったぁ」


 メルジュのとりつく島も無い態度に気落ちすることなく、ラザが戻ってきた。


(違うだろ、メルジュはもともとは怒ってなかったろ。お前が怒らせたんだろが)


 しかし、その手の情報は現状では特に急ぐ必要もない。

 今、ルオが考えたいことは一つ。

 この四人のうち、誰が標的にされるか。

 誰も標的にされないという選択肢は、ルオの中に残っていなかった。

 自分たちがヴィアスの情報を探ろうとしていたことに気づかれてしまったし、ヴァグルに対し当たりが強かったから。

 とすると、やはり標的はヴァグルだろうか。

 ラザ、セテンはともに大柄であり、あまり取っ組み合いをしたい相手とは言えない。

 小柄な人を狙いやすいという考えは、どこへ行っても存在するものだ。

 小柄で痩せっぽちであればヴァグルとルオになるが、ヴァグルの方が痩せているし、何より血色が悪いのもヴァグルだ。

 ヴァグルの手足は小枝のようで、食べているのか心配になる。

 それからルオは髪や目で不気味がられることもあるが、ヴァグルは茶色寄りの金髪に茶色い目と、言ってしまえば平凡な色である。

 なので、標的にされるのはヴァグルだという結論に落ち着いた。

 ———しかしそこで落ち着いていられる人がいたら見てみたい。

 誰かがいじめられそうになったら、無意識のうちに何かしなければと思ってしまう———それがルオ・クルドレアだ。


「ヴァグル、なんかあったら言うんだぞ」



「……?なんかよくわからないけど、わかりました。ありがとうございます?」


(ああああ、そうだよな、何もされていないうちから、脈略もなく言われたら戸惑うよな。何やってんだ僕………)


 いよいよ脳が混乱してきたルオを助けるかの如く、担任の先生が入室した。


「はい、皆さん着席してください」


 さすが貴族も混じった学校。「静かに」と言ってもすぐには静まらない前の学校とは違い、一瞬で水を打ったように静かになった。


「皆さん、ご入学おめでとうございます。このクラスの担任を務めます、ノワール・キャドリッジです。この一年、お願いします」


 ルオの前に座っているサオールが僅かに身じろぎをした。キャドリッジは、細身の先生だった。光の加減によっては黒にも見える藍色の目が教室をぐるりと見渡す。


「ところで皆さん、修学旅行があと一ヶ月後にあるのはご存知ですか?本校に相応しい気品と、節度ある振る舞いを心がけてください」


 ルオは、


(ああ、つまらない先生だな)


 と思った。話が長く、しかも一本調子で言い続ける退屈さ。

 視線を滑らすと、修学旅行と聞き、ワクワクしていることがわかるセテンが見えた。そわそわしているラザが見えた。心配そうなヴァグルをが見えた。

 ———ニタニタと底意地の悪そうな笑みでヴァグルを見るヴィアスを見た。

 ルオは咄嗟に視線を逸らし、手汗の浮いた手を握りしめる。


(僕の予想は、あっていたのかもしれない)


 こればかりは、あっていて欲しくなかった。

 かといって、まだぶつかって暴言を吐いた一度っきりでは何も行動できない。せめて警戒ができるぐらいだ。


「よって、本校一年生の生徒は——」


 そこへ、退屈なキャドリッジの話を遮る声が響く。


「きゃあああああ!!!誰か、誰か来て!」


 絹を裂いたような悲鳴だった。

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