第4話:お母さん
無事に終わるかルオが懸念していた入学式。今の状況は、ラザが二人に増えたようなものだ。
「ねーねールオー、これどうやって着るの?」
「それぐらい自分で着てくれない?ボタン止めるだけだし」
「おーいルオー、これどうすんの?」
「まず腕のところに頭通そうとしてジタバタするのやめてくれる?」
「ルーオー!このネクタイどうやってやるのーーー!?」
一番最初がラザ、次にセテン、最後がラザとセテンのダブル攻撃。
「るっさい!ネクタイはやってあげるから他は自力で頑張れよ!」
「ありがとールオ!」
「今日が入学式____式典だからやってあげるのであって、日常生活でやるわけじゃないからな!」
「はぁい」
短時間ですっかり世話役が定着したルオは、ラザやセテンの世話をしながら、一人で黙々とやっているヴァグルにありがたみさえ覚えた。
ラザもセテンもネクタイを我先にとルオに突き出してくる。その勢いに押されたルオは尻餅をついた。
「順番!並べ!押しのけるなぁ!」
「ルオ、師匠みたい!」
ラザのいう「師匠」とは十中八九ヤンキー先生だろう。言われてみれば口調がうつっていた。
「ラザー、ルオー、『シショー』って何ー?」
「元担任」
「へー」
面倒くさいから簡潔に答えたルオに、セテンも適当に頷く。
(こいつら暑苦しいしめんどくさいし騒がしいけど素直なんだよなぁ……誰かに誑かされるようなことにならなければいいけれど。心配だなぁ…さっきの魔術でも練習すればこいつらみたいなポヤポヤしたあほを守れるんじゃないか???)
ポヤポヤしたあほ達は元気に室内を走る、走る。
「待て〜」
「はっはっは、捕まえてみな〜!」
幼児だ。幼児すぎる。
___ズルッ。
___ズデッ。
___ドシャ。
ちなみに、室内で走る馬鹿はいつか転ぶ、というのはヤンキー先生の言である。
「いってえぇぇぇぇぇ〜〜〜〜」
脱ぎ散らかした服に足をとられ、セテンは派手に転んだ。
「わ、わわわっ、だい、じょうぶですかっ!?」
心優しいヴァグルがセテンに駆け寄る。
「え、えへへ…部屋が広いとついつい走りたくなるからさ〜」
「広くても調子に乗って走るな。お前は犬か」
「え、犬可愛いじゃん。大歓迎!」
「喜ばないで……やめて欲しくて言ってんのよ、こっちは。はい、ラザ、ネクタイかして」
失念していたが、ルオも不器用だった。ネクタイの結び方は知っているものの、どうも不格好になってしまう。
「……もしかしてルオもネクタイできない?」
「うるさい」
時間が経てば経つほど焦ってぐちゃぐちゃになるネクタイ。この壊滅的な状況をなんとかせねばと考えたルオは、魔術を使うことを思いついた。
(ネクタイを結んでくれ…!)
ほぼ懇願に近い。するとルオの手がくるくると動き、ネクタイは綺麗な______蝶結びにされた。
「だぁーーっっっ!なんでこうなるんだよ!」
「え、これ無意識でやるほうがすごいと思うんだけど」
事態をよりややこしくしただけだった。
「あの、僕、やりましょうか」
「頼んだ」
なお、このとき、ルオはヴァグルが救世主に見えていた。
「え、どんだけ固く結んでんですか」
ルオは魔術を使わなければ良かったと、深く後悔した。
「えーっと、あ、ほどけた。よし」
なお、このとき、ルオはヴァグルが神に見えている。
ヴァグルは三人分(結局ルオもやってもらった)のネクタイを手際よく結ぶと、自分の服装をチェックし始めた。
「……ヴァグル、ありがとう」
ラザとセテンに対し「仕方ないなぁ」というような態度をとっておきながら、自分までやってもらうとは情けない、不甲斐ない。
「えっと、今日は式典だから……日常生活では、やりませんからねっ!」
はにかんだように微笑むヴァグル。多分これからこの部屋の癒しになるだろう。
「ほのぼのしてるとこ悪いんだけどさ……」
「ん?」
「入学式、あと数分で始まるくね?」
セテンが懐中時計を見ながらのんびりと言った。まるで入学式なんてどうでもいいと言わんばかりに。
「おい!急げ急げ急げ!」
急ぐもなにも、ルオの運動神経は悪い。どうやったってラザやセテンと同じ速度では走れない。
なので、ちょっとズルをすることにした。
体を浮かせるのである。もちろん、バレない程度に。
「お、ルオ運動できるようになった?」
「う、うん、まぁね」
冷や汗が流れる。
「おーいヴァグルー、だいじょーぶかー?」
おそらくルオと互角の運動神経のヴァグルはだいぶ後ろでゼハゼハと息を切らしていた。
ラザはヴァグルのところまで猛スピードで走り、小脇に抱えて戻ってきた。
ヴァグルは青い顔をして口を押さえていた。
***
「ぜぇ」
「はひゅう」
「はぁ……」
「……」
入学式は着いた順に座っていくらしい。おそらく一番最後の四席に四人が収まると、ちょうど鐘の音が聞こえた。
「っしゃ、セーフだな、ルオ!」
セーフと言えばセーフだが、ラザみたいに底抜けの明るさで喜べない。なにせ、魔術操作にはかなり意識を集中しなければならないし、バレないかの心配もあってルオの神経は張り詰めていた。背中を伝う冷や汗が服に張り付いて気持ち悪い。
ルオは入学式を利用して休もうと考えたがそうもいかない。
右手にラザ、左手にセテンなのだ。ヴァグルはラザに抱えられていたため、ラザの隣だ。ルオの目にはヴァグルがほぼ意識を失っているように見えた。
「ねーえー、いつになったらこれ終わるの?」
ルオの制服の右袖をちょいちょいと摘むラザ。
「あとちょっと。あとちょっとだから我慢しよ?ね?」
「はぁい」
今度は、左袖をくいくいと引っ張られる感触があった。
「俺眠い〜、寝ていい〜?」
セテンだ。
「だめ。もうちょっとだから。頼むから我慢してよ〜」
「はぁい……」
卒業式の時、ルオの隣で眠りこけたアホが起こした惨状は、決して、決して繰り返してはならない。繰り返してなるものか。
今度はラザがヴァグルにちょっかいを出すのが見えた。
「ヴァグル〜、ヴァグルもつまらないでしょ?俺と手遊びしない?」
「ん〜っと、僕は、えっと……」
眉を下げ、困った顔をするヴァグル。
「こら、ラザ。あとちょっとだから我慢しようって言ったじゃん」
「でも〜」
「でもじゃありませんっ!」
「はぁい」
育児だ。これはもう育児だ。
後にルオは、「母さん」とラザに呼ばれ、ヴァグルからは「育児疲れの母親の顔してる……」と言われる。
ラザ「母さーん、朝ごはんはー?」
ルオ「お前にお母さんと呼ばれる筋合いはない!あと朝食は食堂!」
ヴァグル「育児疲れの母親の顔してる……大丈夫?」
ルオ「大丈夫大丈夫……」
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重大(?)なお知らせがあります。この作品って、タイトルが「透明な毒を抱く手は、赤に染まる」と、長いですよね。そこで作者は大変なことに気が付きます。滑舌の悪い作者は噛んでしまって作品名を言えないのです。「魔術師」と言おうとすると「まじゅちゅし」になるような作者です。
なので2週間後にタイトルを変更させていただきます。
新タイトルは「湖畔のマリス」になります。
作者にネーミングセンスがないのは相変わらずです。
大体マリスの意味が合ってるのかも………自信ないです。
今後ともこの作品をよろしくお願いいたします。




