第3話:散らかし魔と暴れん坊と気が弱いやつと真面目(自称)でできた部屋
とりあえずルオは、ラザを引きずって登校した。
しかしダルク市場でのりんご窃盗犯の逮捕はまだ広まっていないと思うが、ルオはなかなか目立つ容姿であり、周囲がざわめく。居た堪れない……。
ノルジェータ王国には、色々な色の髪の人がいるが、例えば、二色の髪の人はなかなかいない。
そんな中、二色の髪を持つのがルオだった。血のような赤と、漆黒。黒が大部分を占めているが、所々に赤が見える。寝癖で飛び跳ねた髪がたまたま赤色だと、まるで二色の髪であると主張するようだ。
周囲の目線が自分に向くことはあまり好みではいルオは、なんとか隠そうとしている。
…………ラザが騒ぐのでよく視線が向いたが。
さらに、目の色が変わる。時間や光の当たり方、などによって。あらゆる色に変わる(ラザに「魔法の眼だ!邪眼だ!」と言われ、羽ペンで目をほじくられそうになった時は焦った)。
そんなわけで否が応でも視線が注がれる。
「新入生ルオ・クルドレアとラザ・ガレストルです。部屋の番号を教えていただけますか?」
受付で言うルオは、
(どこかに宿泊する時みたいだ)
と思った。それもそうかもしれない。ここで生活するのだから。
「は〜い、二人とも403号室ね〜」
チャリチャリと、二人分の鍵を渡された。
ちなみに、四人部屋らしい。
「あーざいまーす」
馬鹿でかい声でラザが言った。
部屋に入るともうすでに人がいて、部屋を散らかし____もとい、荷物を広げていた。ルオには散らかしているようにしか見えない。
「我が名はセテン!神々も畏れし最強の力を授かりし、最強の男!______おはよう。セテン・フェクストだよ。これからよろしくね。あ、お近づきの印に飴どうぞ」
ルオはあんぐりと口を開けた。その口にセテンが飴を放り込む。
「ごふっ!?」
飴が喉に詰まりルオは咽せた。ラザはニコニコとセテンから飴を貰う。
(こいつも中二病か……ラザが影響されないといいけど…。セテンが周りに迷惑をかけるかわからないけれど、ラザは迷惑かけまくるからなぁ……やっと最近マシになってきたのに…。あ、まって、寮生活だったらラザの寝言が…)
ルオは嫌になって考えるのをやめた。
「そーいえば、君、髪が二色だよね〜。もしかして今日の朝、ダルク市場のりんご窃盗犯捕まえた?」
いつか広まるだろうとは思っていたが、こんなにも早く広まるとは思わなかった。
「そーだよ!ルオが捕まえたんだよ!すごいんだよ!」
(頼むから黙ってくれ…)
そんなルオの思考とは裏腹に、ラザはベラベラと喋っていく。
「なんかね、すっごくね、かっこよかった!」
(語彙力!!!!)
「へ〜そういえばうちのばあちゃんが伝書鳩で『りんごが盗まれた』って送ってきてさー。うち、親戚がりんご農家だから〜。いやぁ、助かったよ〜。ありがとう」
「へ」
ルオは間の抜けた声をもらした。
「うん、そうそう。うちダルク市場でりんご売ってるから」
「あ〜……そう。よかった…?」
「というわけでお前は俺の家族の恩人な!だから友達な!」
恩人と友達は違うのでは、とは思ったがここでそっけなくするほどルオは馬鹿ではない。ラザにも、初対面からしばらく(ぶん回されるまで)はきちんと接していたのだ。
「えーと、どこいったっけ、あ〜、う〜…」
セテンはポイポイと荷物を放り出し、何かを探した。部屋の中を衣服やら菓子やらカードゲームが飛んだ。
ルオは運動神経が悪く、何個か直撃した(一番痛かったのはプチボードゲームだった)。慌てて自分のベッドの中に避難してカーテンを閉める。そのカーテンにも色々なものが当たるボフッという音がする。
「あ、あった〜!」
安全を確認しようとルオが首を出すと、セテンが剣を掲げていた。
「我こそは……」
「危ねえよ!何してんだよ!室内だぞ!」
ルオは止めようとしたのだが、セテンは
「だいじょーぶだいじょーぶ、木に染料つけただけだから〜」
と言って聞かない。
「知ってるか?室内で尖ったもの____たとえそれが本物の刃でなくとも、振り回したら危ないんだぞ?『室内で暴れるな』なんて何回大人から言われたか数え切れないだろ?」
ルオはなるべく穏やかな口調で諭そうとした。
「数え切れるよ?俺237回!」
「俺256回!」
前者がセテンで、後者がラザだ。
「……なんで覚えてるの?」
「いや〜なんか一回言われた時からこれから言われ続けるだろうと思って〜。数えたら面白いかな、って」
「うんうん」
(よくわからないところで記憶力発揮すんな!!!)
人間はどうでもいいことばかり覚えたりするが、注意された回数なんてほんっっっとうにどうでもいい。いらない情報にも程がある。
「ところで、君たちはだぁれ?そっちの子がルオなのはわかるんだけど」
確かに、ルオとラザは名乗っていない。ルオの名前はラザが言っていたけれど……。
それよりセテンの存在が衝撃的過ぎたのだ。
「ルオ・クルドレア。よろしく」
「ラザ・ガレストルだよ〜。その剣、俺のもある?チャンバラしようぜ!」
「やめろ!」
「あるよ〜。はい、どーぞ」
「ありがと〜!」
(最悪だ…)
ルオは再びベッドの中に逃げた。この部屋でのルオの定位置になりそうだ。
「よ〜い、はじめ!」
何かと何かがぶつかる音がした。それは確かに乾いた木に似た音だったから、染めた木というのは間違いないのだろう。
「あの〜、すみません……」
ルオでもなく、セテンでもなく、ラザでもない声がした。ルオもラザもセテンもこんな丁寧な喋り方はしないし、気弱そうな声だったから。
そんなか弱い声は、チャンバラに夢中になっている男達の声には聞こえなかったらしい。
「どりゃあああ!」
「せぇいやぁぁぁぁぁ!」
「るっせぇ!」
大声と、大声と、大声が響く。
「人が来てんだよ、静かにしやがれぇぇぇ……」
ルオは地獄の底を這ったような声を出した。
「…、……グル……ネ……で……………く……す……なので」
「ん?くず?」
「違うだろ!」
「ヴァグル・クレオネス、です……よろしく、お願い、します」
「あ、はーいよろー」
軽すぎるセテン。
「うん。よろしく」
「ところで……その、えっと…ここの部屋、……ってどこですかね…?」
「ん、なんて?」
「足の踏み場、どこですか…?」
全く悪意がなく、単純に疑問を持った様子のヴァグルだが、なかなか辛辣である(本人無自覚)。
「あーごめん。すぐ片付けるわ」
「あっあの!もしよかったら手伝うんで…!!」
「え〜まじ〜?助かる〜」
セテンとヴァグルがせっせと片付け始めたのでルオも仕方がなく片付け始める。ルオのものは何一つ転がってないが。
ラザに至っては、もうベッドで昼寝をしている。これから制服着て、入学式に向かわなければいけないのにもかかわらず。
セテンは荷物から色々なものが出てきて一向に片付けが進まないし。
ヴァグルは気が弱そうでもじもじしてるし。
この部屋はやっていけるのだろうか。
そもそも入学式は無事に終わるのだろうか。




