198.罪人達
「な、何者だ!?無礼であるぞ!!」
唾を撒き散らかし、指を刺しながら教皇フロイズンは激昂していた。
「あ?無礼なのはどっちだ、俺の国に戦争しかけてんじゃねーよ」
アキラはスキル【覇気】を発動、威圧を混ぜながら教皇フロイズンを睨んだ。
「ぐぬぅぅぅぅ……」
これには教皇フロイズンもたじろぐ。
アキラの覇気によるものなのか、それとも余りにもアキラの態度が目に余りすぎて混乱しているのか、自分でも最早わからなくなっていた。
「おまえ……もしかして、アキラだろ?」
ここでセイヤが口を挟む。
アキラの顔立ちがどう見ても日本人であり、ここまで来れる強さにも納得がいく。
そして合点がいったのか教皇フロイズンは目を丸くして、アキラを凝視していた。
「おまえがセイヤか」
「あ?だから何だよ?」
「勇者とか言われてはいるが、見た感じただのクズじゃん」
「殺されてぇのかてめぇ……」
セイヤは奥歯をギリギリと噛み合わせ怒りを露わにした。
一触即発な雰囲気に、教皇フロイズンと隅っこにいる女達は巻き込まれるのかと思い、顔を青ざめさせていった。
「せ、セイヤよ!!ここで始める気か!?」
死ぬのは御免だ、教皇フロイズンは早口で捲し立てた。
「旦那、ゼルヴィン殿と合流しやしたぜ」
「お待たせしました」
するとルージュがゼルヴィンを連れやって来た。
「な、何故ゼルヴィンがここにいる!?戦争はどうした!?」
状況の変動が早すぎて、教皇フロイズンは半ばパニック状態だ。
そんな事はそっちの気で、ゼルヴィンは淡々と報告を始める。
「戦争はミスラウェル聖皇国の完敗に終わりました」
「へ?」
「並びに神の使徒の四人、レオン様は重症で意識不明、リルーシェ様は軽傷ではありますが捕虜となり降参しています、そしてバグマン様は死亡、アーヴァイン様は生死不明、聖女アストリカ様は行方不明、その為勝利は困難と見据え全軍撤退しました、我が軍の死者、重症者は計り知れません」
「……ば、バカな」
教皇フロイズンはペタリとその場に膝から崩れ落ちた。
一気に老けた様に見える、現実逃避か何かぶつぶつと独り言が聞こえる。
セイヤに至っては信じられないのか、呆けた顔をして心が上の空だ。
「お、あっちは勝ったか」
「へい、負けるわけがございやせん」
ルージュはそう言うとニヤリと笑った。
「教皇フロイズン様、貴方の身柄は私が確保します」
「な、何をする!?」
「構うな、捕えろ」
ーは!!ー
ゼルヴィンの指示に従い三人の部下が、教皇フロイズンに手枷をはめ部屋を出た。
「……殺す」
先程まで静かだったセイヤが、震えながら怒声を挙げる。
「アストリカを、里奈をどうした!?」
セイヤはアキラに掴みかかろうとするが……。
「おまえさん、無礼ですぜい」
ルージュは殺気を撒き散らしながら、背後からセイヤの背中にナイフを当てる。
服の上からナイフの感触が伝わる感覚にセイヤはゴクリと唾を飲み込んだ。
「あとは……おまえだけだな」
「俺と勝負しろ!!」
「はあ、バカは死んでも治らないか、いいだろう俺が引導を渡してやるよ」
「ぜってぇ殺してやる!!」
アキラとセイヤはお互い睨み合う。
セイヤを降す事により、教皇フロイズンは完全に心が折れるだろう。
何せ部屋を出る時に、最後の希望に縋る様な眼差しでセイヤを見ていたからだ。
「アキラ王、ここでは城が灰塵と化してしまいますので場所の移動をお願いできますか?」
「そうだな、この後の聖皇国が無駄な復興支援金を作る羽目になるか」
「そうしていただくと助かります」
そう言うとゼルヴィンは丁寧にお辞儀をした。
二人のやり取りを見たセイヤはある事に気づく。
「ゼルヴィン!!てめぇ最初から裏切ってたな!?」
「裏切る?そもそも今のこの国に、私は忠誠心など持っていない」
「何だと!?」
セイヤは驚きを隠せないでいた。
「貴方は民の声に耳を傾けましたか?飢えに苦しみ道端で蹲っている子供を見ましたか?老人が泣きながら土下座をして、物乞いしている姿を見ましたか?若い娘が家族を養う為、自らの体を売る事を知っていますか?」
「そんなのどうでもいい!!」
「……どうでも良いですか」
ゼルヴィンは怒りで握り拳を作り、その拳が震えている。
「貴方は若い娘を何人葬ったか覚えていますか?」
「あ?知るかよ?」
開きなおったセイヤはそう答える、その姿には罪悪感など一切無い、むしろ清々しいくらいだ。
「……そうですか、どうやらもう貴方に話す事は無さそうです」
その姿を見たゼルヴィンの目は冷酷になる。
己の過ちを認識し、少しでも罪悪感が感じられればと思っていたが、最早セイヤという存在はゼルヴィンの中で消え失せた。
「アキラ王、行きましょう」
「わかった」
二人は部屋を出る。
その最後までセイヤは二人に罵声を浴びせ続けた。
「ほら、さっさと動きやせぇ、逃げたらあっしが殺しますぜぇ」
「……くっ」
ナイフを当てたままルージュは移動を促す。
セイヤはなすがままに従うしかなかった。
「アキラ王、絶対に勝ってください」
「……あぁ、負けるわけにはいかねえ」
移動しながら二人はそんな会話をする。
(……これで全て終わらす)
アキラは闘志を沸々と燃やす。
空間が張り詰める雰囲気がひしひしと伝わる、それを感じ取ったゼルヴィンは、アキラへの畏怖と期待にゴクリと生唾を飲み込んだ。




