199.勇者の最後
決戦場所は兵の訓練所だった。
かなりの広さがあり、多少手荒な事をしても問題は無いだろう。
外野にはゼルヴィン、宰相ロヴオン、城内に居た貴族、そして手枷を嵌められた教皇フロイズンの姿もある。
逃げられない様、屈強な兵士が教皇フロイズンの両隣をしっかりガードしていた。
「準備はいいか?クズやろう」
「その減らず口を命乞いに変えてやるよ!」
アキラはラグナロクをアイテムボックスから出す、そしてセイヤは【勇者】のジョブスキルを解放する。
【聖剣召喚】【英雄の白銀鎧】
勇者の装備を装着したセイヤは、自信満々で剣を構えた。
強力な聖なるオーラを発するが、アキラはどこ吹く風だった。
「何だ?ビビったか?」
構えすらしないアキラにセイヤは問う。
ダンジョンでの訓練ではこのスキルで、どんな敵も倒してきた、アキラがビビるのは当然だと思っていた。
「はぁ……おまえよりジェイドの方が強いわ」
「は?」
「神樹国アクティースの将軍ジェイドの方が、おまえより強いって言ってんの、頭が弱くて理解できないのかな?」
「……んなわけあるかッ!!」
ビビるどころか舐められている事に、セイヤは憤慨した。
「はいはい、とっとと始めよう」
アキラは気怠そうに剣を構えた。
セイヤの額には青筋が浮かぶ、速攻で殺そうと心に決めアキラの元へ駆け出した。
「死ね!!」
大きく振りかぶって剣を振り下ろす。
「馬鹿なの?初手でそんな隙晒すとか?」
そう言うとアキラはヒョイっと真横にずれて攻撃を回避する、すれ違い様に足を掛けセイヤを漫画みたいに転がす。
「……クソがっ!!」
セイヤとアキラの違い、それはジョブスキルに頼りすぎない事だ。
セイヤの攻撃はなまじ火力がある為、特に剣捌きの練習に身を入れなかった。
魔物と戦った事しかなく対人は初めてだ、魔物は本能的に動く為攻撃が当たりやすかったのが仇になり、本当の強さには気づかなかったのだろうと予想がつく
対しアキラのジョブスキルは仲間あってのものなので、己自身を鍛える事で自己防衛を図っていた。
「マヌケな勇者だ」
「殺す殺す殺す殺す殺す!!」
立ち上がったセイヤは、顔を真っ赤にして剣を振り回す。
外野にも見られている羞恥心、アキラに攻撃が当たらない苛立ち、それにアキラの煽りが加わりヒートアップしていく。
(あーあ、完全に周り見えてないじゃん、少しは冷静になれよ)
勝負の時は己の心を律する事が何よりも重要である、アキラは今までの戦いで感じとり、そしてダンジョンでのレベル上げで歴戦の猛者ジェイドも同じ心得と知り、それが確信へと繋がっていた。
「まだだ!!」
セイヤはアナザースキル【俊足】を発動させる。
「俺の動きについて来れるかな!?」
セイヤはそういうと再びアキラの元へ肉迫する、だが。
「へ?」
「遅ぇよ」
並走しながら、セイヤの左頬へ拳をぶちかます。
「ぐへぇ」
セイヤは再び転がる、歯が何本か欠け吹き飛んでいた。
「……ひくひょう」
頬が赤くパンパンに腫れながら、それでもセイヤは立ち上がる。
「おまえ今まで何してたの?」
「…………」
最近では己の強さにかまけて練習を何かと理由をつけてはサボっていた、そしてそれを咎めるものはいない。
「あぁ、女性をゴミの様に扱っては捨ててたのか、あとは無駄金使って道楽三昧もあるか、さすが勇者セイヤだ」
「…………」
「おい?なんか言えよ?」
「……何が悪い」
「ん?聞こえない?」
「何が悪いって言ってんだよ!!」
「こんなクズが存在している事が驚きだよ」
アキラは一瞬でセイヤの背後に周ると、回し蹴りをくらわせた。
「ちくしょう……何でた、痛ぇ」
エクスカリバーとアキレウスは崇拝される事に強くなる、今のセイヤは確かに強者の部類だが、ただ単純にそれを踏まえてもアキラの方が圧倒的に強いだけだった。
「もういいや、死ね」
アキラは冷酷な目でセイヤを見据える。
「ま、待ってくれ!!」
「何だ?命乞いか?」
「ごめんなさい、許してください」
セイヤはその場で土下座する。
その光景を見ていた教皇フロイズン並びに、悪事に手を染めていた貴族達は脂汗を掻きながら項垂れていた。
「…………」
「許してください、助けてください」
涙と鼻水を垂れ流しながら、額を土につける。
アキラはその姿があまりにも情けなくどうでも良くなる、そして構えをやめその場を去ろうと後ろを向く。
(……かかったな!!)
セイヤは土下座しながらも、上眼でそれを確認した。
すぐさま立ち上がり剣を突き刺す様に前へ向けアキラに迫った。
「ばーか」
「あっ」
その瞬間セイヤは氷漬けになる。
アキラのスキル【遅延魔法】により、天氷魔法を設置した地面を踏み抜くと氷漬けになる様仕向けていた。
命乞いの返事を無言で返していたのでは無く、ボソボソと聞こえ無い様に【遅延魔法】を詠唱していたのだ。
「じゃあな」
アキラは氷漬けになったセイヤに向け一閃。
ーパリンー
横に斬られたセイヤは、上半身と下半身がさよならする。
「しょうもない男にはお似合いの最後だったな」
再びアキラは歩き始める。
それを何が起こったのかわからないという感じなのか、横たわったセイヤの阿呆面が見送っていた。




