173.モンスター部屋
右方向の道へと進むシルヴィア達はフォーメーションを守りながら歩き続ける、前衛はシルヴィア、ロイズ、中衛にムゲン、カム、アレイ、後衛はファルスだ。
「前方から何か来るぞ!!」
少し歩くとロイズの掛け声と共に早速敵とエンカウントする。
やって来たのはミイラの魔物、マミーだった。
その数5人、接近に連れ各々が構える。
初手シルヴィアとロイズが駆ける。
蹴りと暗黒剣で1撃を与え、マミー達のヘイトを自分達へ向かわせた。
「行くぞ、カム、アレイ」
「「はい、ムゲンさん!!」」
カムとアレイはヒット&アウェイでマミー達に体術をぶつける。
冷やっとする場面も何回かあったが、シルヴィアとロイズのヘイト管理が完璧であり、ムゲンは余裕を待ってカムとアレイのフォローができた。
「皆さん、流石です」
ファルスは後方でニコニコしながら佇んでいる。
一見ファルスだけサボっている様だが、ファルスは時空魔法【ストップ】をその都度発動させていた。
【ストップ】の効果は相手の動きを3秒間止められる魔法だ。
戦闘の最中の3秒時間停止は、敵の動きを狂わせるのに充分な時間だ。
マミーの特徴は細い体には似合わない怪力と、体から包帯を飛ばしそれを相手に絡ませる、体中の水分を奪われ干からびさせる攻撃だ。
ーガァァァァァー
マミー達は殆ど何も攻撃できていない状況に、苛立ちを覚えている様だ。
それなりの相手でなければ、シルヴィア達に苦戦を味わせる事などできないだろう、と言うてもマミー自体のランクはBの上位でそれなりの強さを持っているが。
マミー達はみるみるダメージを蓄積しやがて消滅した。
「さて行きましょうか」
シルヴィアは身だしなみを整えながらそう言う。
((……めちゃくちゃ簡単だった))
まるで散歩の途中で花を摘んだだけの様な感覚だ。
カムとアレイは改めて自分達の周りは、すごい人だらけだと実感していた。
再び歩き始める、すると広い部屋へと出る。
壁から天井まで見た事もない造形文字がびっしりと書かれている光景は異様だった。
「何かあるな」
「そうだな」
ムゲンとロイズは直感で何かの危険を感じ取る。
それに呼応する様に、部屋の入り口を塞ぐ壁が出て来た。
「退路を絶たれましたね」
全く問題無い様な口調で、ファルスはニコニコと笑っていた。
「「ど、どうしますか!?」」
カムとアレイは右往左往している、この温度差を側から見たら笑えて来るだろう。
「カム、アレイ、落ち着きなさい」
シルヴィアの喝により、カムとアレイは深呼吸をし心を落ち着かせた。
「……ふむ、来るぞ」
ムゲンは2本の刀を抜く。
そして前方に現れたのは大量の魔物、魔物、魔物。
人型、獣型、アンデット、よりどりみどりだ。
その部屋はモンスター部屋だった。
モンスター部屋とは魔物が湧き続ける部屋だ、低ランクのダンジョンでは滅多に見られない。
「都合が良いではないか、我が君からはレベル上げを任せられているのだから」
そう言うとロイズもムゲンに倣う様に暗黒剣を抜く。
2人は嬉々として大量の魔物達に突っ込んで行く。
もはやこの状況はフォーメーションを組んでも意味は無い、そんなお行儀の良い事をしてれば囲まれて物量で押されるだけ。
「弐天無幻流、【天衣無縫】」
ムゲンの黒いオーラが阿修羅の形へと変わる。
その阿修羅を使い縦横無尽に敵を切り伏せて行く。
「シェリー頼めるかい?」
「わかったわ、ロイズ」
ロイズが背負う棺桶からシェリーが浮かび上がる、シェリーは【落城の独奏曲】を歌う。
部屋に居る全ての敵の防御力が下がる、これで戦闘を少しでも楽に運べるだろう。
「アンヴァル」
ーヒヒィィンー
ロイズはアンヴァルに乗りながら敵を薙ぎ倒していく。
【人馬一体】の効果でダメージ量がアップしていた。
「カム、アレイ、無理だと思ったら下がっていなさい」
「「はい!シルヴィアさん!!」」
シルヴィアに続く様に2人も駆け出す。
シルヴィアはスキル【メタモルフォーゼ】で左腕をガトリングに変えた、広範囲に周りの魔物を蜂の巣にし、その後舞う様に蹴り技を繰り出すと敵は吹き飛んで行く。
それに合わせる様に、カムとアレイもシルヴィア直伝の体術で敵を削って行く。
2人は支え合うようにカバーしている、スキル【以心伝心】でお互いの思考が手に取る様にわかっていた。
「いやはや、皆さん本当に優秀ですね」
笑顔のファルスは皆が戦う光景を眺めていた。
(……魔王国と良い勝負をしそうですな、、、おっと危ない)
ファルスに向かって来る人型魔物の上半身が消える。
空間魔法で上半身だけ転移させていた。
「……まだ増えますか」
シルヴィアは唸る、倒しても倒しても魔物は湧いて来た。
そしてカムとアレイを気にする。
疲れたら後方に下がり体力が戻ったら戦闘に参加するを繰り返していた。
やはり訓練の時の様な感覚で戦えず、いつもよりスタミナ管理ができていない、すぐ隣には死が寄り添って居る事はそれだけ精神に不安を残すのだろう。
数時間後……。
敵のドロップが止まった。
最後にモンスター部屋の主だろう敵が現れた。
「グラハハハ」
麻袋を頭から被り巨大なハサミを持つ筋骨隆々な魔物が現れた。
その魔物は"絶対切断"の異名を持つグロヴズ・ザ・シザーだ。
両手で持つ大きなハサミは、竜の鱗も易々と切断するだろう。
「カム、アレイは下がっていなさい」
「「……はい」」
あれは2人に荷が重すぎる。
シルヴィアの言葉に2人は悔しそうにしながらも安全な所まで下がった。
すでにムゲンとロイズはグロヴズ・ザ・シザーと戦闘を開始していた。
グロヴズ・ザ・シザーは2人の剣戟を捌く、斬撃をくらう事もあるが防御力が高く押し切れてない。
しかもロイズのデバフ効果が効かない、グロヴズ・ザ・シザーは状態異常無効だった。
「ロイズ、あの鋏の側面を狙うぞ」
「あぁ、あれに挟まれたらたまったものでは無いからな」
2人はなるべく鋏の前に立たない様にしていた。
ライムがいない今、鋏の餌食になったら一発で戦闘不能に陥るだろう。
そこにシルヴィアも加わる。
「……行きます」
3人の連携が重なり始める。
グロヴズ・ザ・シザーは四苦八苦しながら攻撃を対処して行くが徐々に生傷が増えていった。
「……ガガハム」
グロヴズ・ザ・シザーの声の後、何も無い空間から突如もう一つの鋏が現れた。
それは意思を持っている様に3人を攻撃し始めた。
「……やっかいな」
ムゲンはもう一つの鋏を相手取る。
これでグロヴズ・ザ・シザーを相手にするのはシルヴィアとロイズの2人になってしまった。
「いけるかシルヴィア?」
「……時間はかかると思います」
時間をかければグロヴズ・ザ・シザーを削り切れるだろうとシルヴィアは憶測した、だがここで最悪な事が起こった。
「な!?」
それは先程まで大量の魔物のドロップが止まっていたのだが、新たに再開したのだ。
大量の魔物達はカムとアレイ、ファルスに向かって行った。
「アレイ、気合い入れるぞ!!」
「わかってる!!」
2人はせめて自分の身は自分で守ると決意を見せ戦い始めた。
シェリーの歌声により何とか2人は戦えていたが、もはや力尽きるのは時間の問題だ。
「……私も少々本気を見せますか」
ここでファルスが動いた。
グロヴズ・ザ・シザーを倒さなければ永遠とも思える戦闘に終わりが来ないだろうと読んだからだ。
ファルスはゆっくりと詠唱しながらグロヴズ・ザ・シザーへと歩き出す。
するとそれを阻むかの様に魔物達が囲む。
「やれやれ、身の程を知りなさい」
スキル【並列詠唱】でいくつもの魔法がノータイムで発動する。
そして空間が歪んだ。
魔物達が肉塊も残さず血だけを残して消えたのだ。
再びファルスはグロヴズ・ザ・シザーの元へ歩き出す。
グロヴズ・ザ・シザーの背後へ辿り着くと腰を落とし、腕を引き拳を繰り出す、それは空手で言う正拳突きの様だ。
ードガァァァァァァンー
背中がファルスの拳の形に陥没していた。
グロヴズ・ザ・シザーは体をのけ反らせながら吹き飛んだ後、ピクピクと痙攣しながら壁に減り込んでいた。
「……レベル上げですからね、まだ生きてはいるでしょう、とどめを刺してください」
ファルスはニッコリと笑った。
「「「………」」」
3人はファルスを見る。
ただの変態執事だと思っていたがここまでの強さを持っていたとは驚きだった、そして世界は広いとも思っていた。
シルヴィアが代表してグロヴズ・ザ・シザーにとどめを指す。
頭をゼロ距離で銃弾で撃ち抜かれグロヴズ・ザ・シザーは絶命し光となって消えたのだった。
それに合わせ大量の魔物達も消えて行く。
「なんとかなりましたな」
ファルスは好々爺の様に笑う。
それを見た皆の緊張が一気に解けた。
そして一息ついていると壁が消え新たな道が開かれた。




