170.暗殺者の企み
「ったく、運が良かっただけだな」
ヒューリーの説教が終わる。
ライム、デスト、ルージュはしゅんとしながら各々の仕事に戻って行った。
だがアキラは言いたい事がありまだ執務室に残る、ヴィクセンとジェイドも一緒だ。
「すまん、だが戦争が近いからレベル上げは辞められないんだ」
アキラは苦虫を噛み潰した様な顔をした。
ダンジョンが危険な事はわかったが、一から探索を学ぶ時間も無い。
「ヒューリーさんがダンジョン探索に加わるのはどうですか?」
「それが1番の早道だな」
ヴィクセンの提案にジェイドも乗っかった。
「そうしてやりたいのは山々なんだが私も忙しくてな」
多くの冒険者がアクティースに来訪して来ている、いろいろな調整を掛けるのにヒューリーは四苦八苦していた、現にデスクの上には書類がいっぱいだ。
「じゃあ月影に依頼するのは?」
「月影は護衛依頼でアクティースから離れている」
「弱りましたね」
「俺は傭兵だからな、ダンジョン探索は素人だから当てにしないでくれ」
皆頭を悩ませていた。
その時コンコンと扉をノックする音が部屋の中に響いた。
ヒューリーは「入れ」と声を返す。
「失礼します」
入室して来たのは副ギルドマスターのベルギムだった。
「ギルドマスター、ギルド運営計画書の確認を……あれ?どうやらタイミングを間違えた様だ」
ヒューリーの顔を見ると、そう言いながらベルギムは困った顔をする。
「……これは失礼しましたアキラ様も居らしていましたか」
「あぁ、ベルギムか、俺の事は気にしないでくれ」
深々と頭を下げるベルギムにアキラは軽く応えた。
「何やらお困りの様ですね」
ベルギムは頭を上げると4人を見渡し首を傾げた。
「あぁ……実はな……」
アキラは先程の会話の内容をベルギムに説明した。
「……なるほど、S級ダンジョンとなると生半可な冒険者じゃ務まりませんね」
「強さは別にそこまで重要視してません、欲しいのはダンジョン探索の豊富な知識です」
ヴィクセンの補足が入る。
「誰か適任なパーティは居ないか?」
「いますね」
半ば投げやりのヒューリーの質問に、ベルギムはまさかの解答を示した。
「本当か!?」とベルギムに皆の注目が集まる。
「私が行きましょう」
「おまえも仕事があるだろう」
ヒューリーは困り顔だ。
「いえ、部下も育っていますし経験させる為にもここは任せようと思います、それにアクティースの危機ですからね、冒険者ギルドは戦争には関与しない約定ですが、これくらいなら問題ないでしょう」
ベルギムはにっこりと笑う。
冒険者ギルドは中立の存在を貫く。
片方の国に肩入れしない代わりに世界各地でギルド運営ができるのだった。
「おまえ程の経験なら任せられるか……頼めるか?」
「お安い御用です」
ベルギムは頭を下げる、俯いた顔には暗く濁った笑顔が張り付いていた。
(これでアキラへの私の信頼が増し暗殺に一歩近づく……いや、いっそ隙を見てダンジョン内で殺そうか?)
ベルギムは殺しの算段を立て始めた。
アキラ達はベルギムの本当の姿は璽金の鶏冠の暗殺部門長ライガの、ジョブスキル【生き写す他人の運命】で化けた姿だと知る由も無い。
「俺からも頼む、カムとアレイも連れて行く予定だから助かるよ」
「あぁ、あの狐獣人の双子ですね」
(これは都合が良い、隙を見つけやすくなるか)
「俺も着いていきたいところだがいろいろ仕事がある」
「私もです」
「交代でダンジョン探索って条件だしな」
ジェイドとヴィクセンはララガイアを倒した事で大幅に経験値が増えレベルが上がっていた、2人は惜しいと思いながらも渋々引き下がる。
そしてアキラと従者達も少しだけだがレベルが上がっている、詳細はまた戦争戦略を練る時に皆と確認する事に決めた。
「予定は追って知らせるよ」
「お待ちしております」
ベルギムはアキラの顔を見て微笑む、そして一礼すると退室した。
「これで何とかなるな」
「だがいくらベルギムがベテラン中のベテランとはいえ油断はするなよ」
「わかってる」
ヒューリーのひと睨みを受け、アキラは苦笑いを浮かべた。
◇ ◇ ◇ ◇
4日後……。
S級ダンジョンの砂漠エリアにアキラ達は居た。
次のメンバーはシルヴィア、カム、アレイ、ムゲン、ロイズ、ベルギム、そして回復要員のライムだ。
「カムとアレイは無理だと思ったら後方に下がって安全を確保してくれ」
「「よ、よろしくお願いします!!」」
緊張気味のカムとアレイは動きがぎこちなく見える。
「そんなに固まってたら動けるものも動けませんよ」
そんな2人にシルヴィアからの喝が入った。
「「す、すみません!!」」
だが全く効果が見られなかった。
「カムとアレイはここで大幅にレベルを上げる予定だからな、期待してるよ」
「「あ、ありがたきお言葉!!」」
「アキラ様、逆効果になりますよ」
ベルギムは苦笑いを浮かべる。
「ムゲン、ロイズ、ライム、頼りにしてるからな」
「御意」
「我が君は我が守ろう」
「んーっとね、きょうもがんばる!!」
従者達もやる気満々だ。
ムゲンとロイズに至ってはやる気がありすぎて抑えている漆黒のオーラが滲み出て来ている。
「よし、行くぞ!!」
アキラの掛け声と共に皆歩き出す。
こうして第二回S級ダンジョンでのレベル上げが始まった。
ベルギムと言う1人の不安要素を引き連れて……。




