164.道化師の思惑
「初めまして、ベルギムと申します」
男はヒューリーに恭しく頭を下げる。
この男の本当の正体は璽金の鶏冠の暗殺部門長、ライガだ。
職業【道化師】を持っており、対象の姿形を真似るジョブスキル【生写す他人の運命】を使う、本当の自分の姿は仲間にすら見せていない。
体臭、声質、言葉遣いすらも真似てしまうその力は、暗殺にはもってこいだった。
「よろしく、わからない事があったら質問してくれ」
礼儀正しいベルギムにヒューリーは安心している、好き好んで上下関係を力で分からせたいわけでは無い。
(……先ずは信頼を得てからだ)
俯くベルギムの表情はほくそ笑んでいる。
先ず第一に始める事はアクティースに馴染む事だ、早速暗殺に向かうのは三流以下のやる事、信用を得ることで暗殺対象の心は緩むのだ。
(……この女に認められれば自ずとアキラの懐にも入れるだろう)
アキラ1人での会合ができれば暗殺は容易い、そう思ったライガは心の内で気合いを入れた。
「ちらほらと冒険者達もこの国に来始めている、今の所問題は無いが注意していてくれ」
「わかりました」
話を終え解散しようとした矢先、ギルドの出入り口の扉が開く。
「すみません、ここで活動したいのですが」
訪ねて来たのは娯楽都市ゴールデンサーラーでオズマンに雇われていたAランクパーティ"月影"のリーダー、バルトルフだった。
バルトルフに続いてパーティメンバー達もギルド内に入る。
「おう!お前たちか!」
見知った顔を見てヒューリーは話しかける。
「お久しぶりですヒューリーさん」
「久しぶりだな!元気だったか?」
「おかげさまで、ヒューリーさんがまさかアクティースのギルドマスターとは思いませんでした」
「ははは!まぁ成り行きでな、それよりまさか月影が来るとはな」
「ははは、まぁアキラさん……いや、今はアキラ王か、アキラ王の伝でここに来ました」
「ほう、アキラと知り合いなのか?」
「顔見知り程度ですよ、危うく戦いになりそうになったので即行で白旗あげました」
そう言うとバルトルフは苦笑いを浮かべる。
「さすがバルトルフだな、それが正解だよ」
ヒューリーは笑いながらバルトルフの肩を叩く。
「あれ?あそこにいるのベルギムさんですか?」
「ん?知り合いなのか?」
「はい、まだ駆け出しの頃にお世話になりました」
「そうなのか、ちょっとベルギムを呼んでくるよ」
ヒューリーは受付の女性と会話しているベルギムを呼びに行く。
「ベルギムちょっといいか?」
「どうかされたんですか?」
「月影のリーダー、バルトルフが挨拶したいそうだ」
「おお!バルトルフですか!いやはや懐かしい!」
ヒューリーの言葉にベルギムは笑みを浮かべた。
早速ベルギムはバルトルフの元へ向かう。
「久しぶりだな、バルトルフ」
「お久しぶりです、さすがベルギムさん、副ギルドマスターになったんですね!」
「ははは、まぁ評価されて嬉しいよ、今ではもうバルトルフの方が実力が上だがな」
ベルギムはバルトルフの髪をわしゃわしゃと撫でた。
「これもベルギムさんのおかげです、ベルギムさんから教わった事今でも思い出しては実践しています」
「そうか、なら水不足に困ったら何をするか答えられるかな?」
「ははは、そんなの最初に教わりましたよ!スライムを燃やせですよね?」
「正解だ、これを知っている者は意外と少ないからな」
ベルギムは満面の笑みを浮かべた。
本当のベルギムの過去は洗いざらい調べ済みだ、この程度の会話合わせなどライガにとっては序の口だった。
そしてバルトルフと仲良さげをこれでもかと周りにアピールする、これで一層周りからの信用も得られる。
そして再び出入り口の扉が開く。
「ヒューリーいるか?」
アキラが中に入って来た。
すかさずベルギムに扮したライガはターゲットを見据えた。
(……護衛もつけずここに来るか、己の強さに自信があるのか?)
すかさず思考を巡らす。
ヒューリーと話すアキラは少しして、バルトルフとベルギムの元へやって来た。
「あれ?君はあの時の!」
「覚えてくださいましたか、月影のリーダーバルトルフです」
バルトルフが頭を下げるとパーティメンバーもそれに倣った。
「歓迎するよ、ここにあるダンジョンはまだまだ探索不足だから期待しているよ」
「はい!頑張ります!」
話を切り上げアキラはベルギムを見る。
「初めましてアキラ王、副ギルドマスターを担う事になったベルギムと申します」
ベルギムは深々と頭を下げた。
「よろしく、ヒューリーとうまくギルドを運営して行ってくれ」
「はい、それより護衛の方が見られませんが大丈夫なのですか?」
「あぁ、護衛なら心配ないよ」
「……それはやはりアキラ様のジョブスキルが関係しているのですか?」
「……よく知ってるね」
アキラの意味深な言葉に、先走りすぎたかとライガは心の内で焦る。
「ははは、アクティースの副ギルドマスターを任されるのですからいろいろ調べはしますよ」
「……それもそうか、困った事があったら行ってくれ、俺はもう行くよ」
危機を回避できた事にライガは詰まった息を思わず吐いた。
「お気をつけて」
(……これは予想外だな)
ライガの予想外、それはジョブスキル抜きに考えてもアキラが想像以上に強い事だ。
生半可な作戦では逆に殺されるだろう、暗殺を成功させるには従者達と同等の信用が必要になる事が予想できた。
「どうしたベルギム?」
アキラが去った後固まっているベルギムにヒューリーは話しかける。
「いえ、やはり王を前にすると緊張してしまって」
思考を辞めベルギムはヒューリーの方へと振り返る。
こうして着々とアキラ暗殺という暗雲は、皆の信用と共に育って行くのであった。




