160.誠意
訓練場は戦いがあると聞きつけた多くの人で賑わっている。
観客席には宮廷魔術師団、宮廷騎士団の全団員、パーティに参加した貴族とその家族、アクティースからはジェイドとヴィクセン、そしてVIP席にはエラリーエ女王とリノア達が居た。
「「「「アキラ(さん)!頑張って!」」」」
リノア達は姦しくアキラを応援している、その光景を見た多くの独り身の男達は「アキラ王よ、ボコボコにされろ」と涙を流しながら念を送っていた。
「ふぇふぇふぇ、審判はワシがやる」
そう言うとミネルヴァはルールを説明し出す、どちらかが降参するかミネルヴァがこれ以上戦うのは危険と判断した場合に優勢な方を勝者とする事になった。
「レントン、足引っ張んなよ」
「わかっています、団長こそ熱くなりすぎない様に気をつけてください」
「言うじゃねぇか」
ジールとレントンは各々ストレッチしながら軽口を叩き合う。
アキラは相変わらず「何でこうなった?」と疑問を浮かべながら佇んでいた。
そんなアキラを目にした2人は、その余裕をぶち壊すとさらに意気込んでいた。
「アキラよ、漢を見せる時じゃぞ」
突っ立ているアキラに、ミネルヴァは発破を掛ける。
やるしかないのかと半ば諦めのアキラは、アイテムボックスから愛剣のラグナロクを出した。
そしてお互い距離を取り構える。
ミネルヴァは準備が整った事を確認した後に言う。
「試合開始!」
その言葉の後直ぐに、ジールとレントンはすぐさま魔法の詠唱に入る。
アキラのジョブスキルを警戒し比較的短い詠唱の魔法を選択した、それはアキラを牽制する意味も持っていた。
だが1つジールとレントンは大きな思い違いをしている。
「遅ぇよ」
「「!?」」
驚異的なスピードでアキラは2人との距離を詰めた。
それにより思わず2人の詠唱は止まってしまう。
2人の大きな思い違いは"強いのはアキラのジョブスキルにより出てくる魔物"だった、だがアキラはただ踏ん反り返って従者に命令して戦わせる奴では無い。
寧ろ自らが先頭に立って戦って来たのだ、アキラ単体でも充分強い、その強さは既にジェイドと同じレベルまでに達している。
アキラの滑る様な流麗な一閃が2人を襲う。
「マジかよ!!」
「これ程とは……」
先手を奪えなかった2人は回避に専念した、だがこれだけでは終わらない。
ジールが回避した先の地面から魔法陣が浮かび上がる。
「うぉ!!」
魔法陣から氷柱が飛び出てくる、それはアキラが新たに生み出した魔法【遅延魔法】だ、トラップ式の魔法であり最大5つまで設置できる。
「……早速その魔法の弱点を見抜きましたよ」
レントンはそう言うと見えているかの様に罠を回避していた。
【遅延魔法】の唯一の弱点は魔力の流れを見れば容易く発見される事だ、地面に有る不自然に強い魔力を感じれればそれが罠だとすぐわかる。
伊達に宮廷魔術師団を名乗っていない、正に魔術師のエキスパートだ。
「旋水流」
回避しながら詠唱していたレントンの魔法が発動する。
地面を抉りながら螺旋を描いた激流がアキラに襲い掛かる。
「天氷王の手縛」
アキラも負けじと魔法を詠唱した。
巨大な氷の手が現れ激流を掴むとたちまち氷つき崩壊した、そしてその極小の破片は鋭利な形に変わりレントンへと襲い掛かった。
「させるかよ!大炎盾!」
危機一髪かと思いきや、ジールが発動した灼熱の盾が氷の破片を全て蒸発させる。
「レントン!あれ行くぞ!」
「わかりました」
「煉獄の火炎!」
「全てを飲み込む大津波!」
ジールが出した灼熱の玉がアキラの周りを囲む様にあちこちに浮かぶ、そしてレントンが放つ大規模の津波がその玉を呑み込んだ。
ードガァン!!ー
その直後途端に爆発が起こった、これは水蒸気爆発の原理であり水と灼熱が合わさり気化される事で起こる現象だ。
「やったか!?」
「天氷王女の守護!」
手応えありのジールはアキラの方を見る、そして徐々に霧が晴れる。
「な、何だと!?」
晴れた先に有ったのは、氷で作られた巨大な翼の生えた女神だった。
その女神は羽を包み込む様にしてアキラを守っていた、そして顔はどことなくルクレリアに似ている。
「……この領域まで行くのにかなり時間がかかったよ」
つい最近地道な修練の末、アキラの氷魔法は天氷魔法へと昇華していた。ヴェルサスの魔法も只の炎魔法ではなく獄炎魔法、レティも闇魔法ではなく深闇魔法である様に魔法にも上位形態が存在する。
先程の【天氷王の手縛】も天氷魔法だから成せる技術だった。
「……まさかここまでとはな」
「剣の腕前は一流、魔法の腕前は超一流ですか……」
2人は一周回って呆れている。
普通ならジョブスキルを持っているだけで満足だ、だがこの男はそれに驕らず更なる力を磨いていたのかと。
「……レントン、最終魔法行くぞ」
「!?、お待ちください、あれは危険です!」
ジールの言葉を聞きレントンは途端に慌て始めた。
「だがもうあれしか残ってねぇ」
「……はぁ、わかりました」
レントンはため息の後魔法を詠唱し始める、その後にジールも続いた。
(まだ何かあるのか……)
正直アキラの魔力量はカツカツだった、天氷魔法は氷魔法と違ってごっそりと魔力を削っていく。
だがそんな事はお構いなしにジールとレントンの合体魔法は完成する。
「「消し去る蒼炎の不死鳥」」
それは巨大な蒼色のフェニックスだった。
素人目で見てもその強大な魔力を感じている観客は皆顔面蒼白だ、流石にヤバくね?と声が挙がるがミネルヴァは試合を止めようとはしない。
「……まじか、しょうがない、あれやるか」
アキラはラグナロクを上段に構える、これは実際に別名で"天の構え"とも言われている。
それは今までやる機会がなかったラグナロクのリミッター解除、ラグナロクから激しい光を放ちながら甲高い金切り音が鳴り響いてくる。
そして蒼いフェニックスがアキラに向かって飛びかかって来る。
それが直撃する刹那、アキラはラグナロクを下段に思いきり振り下ろした。
ラグナロクの意味は"世界の終末"、それを体現するかの様な途轍もない破壊の力が発動した。
ーバキ、ボキ、ゴキー
アキラの両腕の骨は余りの破壊の衝撃により粉砕してしまう、更に掌の皮は破れて捲り上がり筋肉の繊維が剥き出しだ、それでも最後までラグナロクを持ち続け蒼いフェニックスを打ち消した。
「「…………」」
ジールとレントンは絶句していた。
それは観客席に居る誰もが同じだった、アキラの強さはこれだけではない更にジョブスキルの力もあるのだから。
「そこまでじゃ!!」
そこにミネルヴァの試合終了の声が挙がる。
それを聞いたアキラはラグナロクを落としてしまう、すかさずミニライムが懐から出てきて【回復魔法/パーフェクトヒール】を発動した。
アキラの腕と手はみるみる回復し、少しして完治した。
「ふぇふぇふぇ、2人共わかったじゃろ」
ミネルヴァの言葉を聞き、ジールとレントンはアキラを見据える。
そして2人はアキラに近寄ると疑問を投げかけた。
「「何故ジョブスキルを使わなかった(のですか)?」」
当然の疑問だった。
強力な魔物の力を使っていれば、もっと試合を楽に運べただろう。
その質問にアキラは答える。
「……2人に俺なりの誠意を見せたかった、からかな?俺だけの力で戦いたかった」
アキラはジールとレントンが言った"弱い奴に娘をやらん!"と言う言葉を間に受けていた、2人が見たいのは従者達の力ではなくアキラ単体の力だと。
その為今回はジョブスキルを封印していた。
「……あっははは!!」
アキラの真意を悟ったジールは唐突に笑い出す、そのジョブスキルもおまえの力に含まれるだろと思いながら。
「……無茶苦茶なお方だ」
レントンはそう言いながら呆れているが、その表情は穏やかだ。
「イヴを任せた」
「ルルをお任せします」
そして2人は同時に頭を下げた。
「はい、大切にします」
アキラはそう告げると同じ様に頭を下げる。
ーウワァァァァ!!ー
観客席から歓声と盛大な拍手が送られる。
ルルとイヴに至っては感動しすぎて号泣していた、そんな2人をリノアとアイリスは涙を溜めながら慰めている。
「ふぇふぇふぇ、一件落着じゃな」
「長生きするもんじゃな」と思いながらミネルヴァは高笑いする。
こうしてジールとレントンに認められたアキラはルルとイヴの正式な恋人となった。




