142.お互いに譲らず。
城の中へ入ったアキラ達は客間へと案内された。
中は広く、天井にはシャンデリア、壁には数多の絵画や調度品などが飾られていて高級感が漂っていた。
ソファーに座る国王と周りを囲む貴族達がアキラ達に気づく、にこやかな笑顔を浮かべていた貴族達だが最後にゴードンが入室するのを見て顔色が変わる。
それは緊張だった、あれだけ散々罵倒し国から追い出しておいて、今現在ゴードンが言った通りの事が起きているからだ、会わせる顔など無い。
だがバルムスだけは違った、その目は爛々と燃えている様だ。
案内されたアキラはウォーガレフ王国の現国王、バルムス王と対面する形で向かい合う。
その後ろをヴィクセン、ゴードンが控える、護衛役のジェイドは更にその後ろに待機していた。
最初にバルムス王が声を挙げた。
「よくぞ参られた、神樹国アクティースのアキラ王よ、ウォーガレフ王国は貴殿を歓迎する」
バルムスは握手する為手を出す。
「初めましてバルムス王、会談を設けてくれた事を感謝する」
アキラは差し出された手を握り、がっちり握手した。
暫し雑談した後、バルムスに促されそれぞれが席に座った。
「さて、それでは始めるとするか」
バルムスがそう言うと進行役の者が前に出る、ウォーガレフ側からは宰相のグリンドが、アクティース側からはヴィクセンが前に出た。
今から行われるのは情報と要求の擦り合わせだ、ここから舌戦が本格的に始まる。
「まず初めにこの先話す内容は、お互い王の代弁とするでよろしいかな?」
グリンドがヴィクセンにそう尋ねる。
「それで構わない」
ヴィクセンは頷く。
「わかった、ではアクティースが保有する鉱山の詳しい説明を聞きたい」
「我が国の鉱山は殆ど手付かずだ、現在確認されている鉱石は銅、鉄、金、鉛、金剛、ミスリルだ、炭鉱経験者の見解によれば更なる鉱石も眠っていると言われている」
ヴィクセンの言葉にウォーガレフ側の貴族達は騒めき始める、それがもし本当なら宝の山だ。
「嘘、ではないよな?」
グリンドはヴィクセンの目を見る。
「嘘を言ってどうする、もしそうならここには来ていない」
ヴィクセンはやれやれという呆れた雰囲気を醸し出し、グリンドを挑発した。
それを見たグリンドは一言すまないと謝る、怒るどころか冷静さが増している様だ。
「では次にアクティース側の要件を聞こう」
「我が国の要件は鉱山開発者の派遣だ」
ヴィクセンの言葉にグリンドへわざとらしく悩んでいる素振りを見せる。
「……ふむ、それで見返りは?」
「それを言う前にそちらの要件を聞きたい」
このまま進めばグリンドに主導権を握られてしまう為、ヴィクセンは修正を掛けた。
「我が国の要件は、鉱山開発の権利だ」
グリンドの言葉にアキラ、ゴードン、護衛のジェイドまでが何言ってんの?という気持ちになっていた。
その要件はアクティースにある鉱山の全てをよこせと言う事に代わり無い、ずうずうしいにも程があった。
「無理がありますね」
ヴィクセンは冷静に対処する、きっとまだ仕掛けが残っていると見破っていた。
「それが無理なら、採掘した鉱石の半分を我が国に無償で提供していただきたい」
やはりそう来るかと思っていたヴィクセンは、目つきが鋭くなる。
最初に無理難題を吹っ掛けておいて、本命の要件を飲ませる手口だ。
そこだけしか話し合いの出口がない為、最初の要件よりかはマシだと思わせるテクニックである。
ヴィクセンがそんな事を許すはずがない。
「それは些か大きく出ましたね、開発者が現れる時を待つ事もできるのに無理をしてまでウォーガレフ王国に頼む必要も無い」
ヴィクセンの言葉にグリンドはピクリと反応する。
何かしらの事情で時間の猶予が無いからウォーガレフ王国に採掘提携をしに来たのではないのかと思っていたからだ。
「ははは、無理をなさるでない」
ハッタリだと思ったグリンドは笑ってやり過ごそうとするが、ヴィクセンの目を見ると大真面目な事に気づく。
「……困るのはそちらでは無いですか?」
言葉を濁しているが、ヴィクセンの言葉に含まれている意味はウォーガレフ王国の現状を指していた。
グリンドは表情こそ変えないものの、心の中では焦っていた。
「困るのはそちらも同じではないか?」
「いえ、我が国にはそちらに座っているゴードンがいます、最悪開発者が現れなかった場合、時間は掛かりますがその者が開発者を育てれば良い事です」
「開発者を育てるのにどのくらいの時間が掛かるかはご存じかな?」
「…………」
「0から育てるならばおよそ20年は掛かるだろう、それに鉱山開発のかの字も知らないヒヨッコが一人前になるのには才能も必要だ」
グリンドの言っている事は嘘では無い。
この世界において開発者とはそう簡単になれるものでは無い、物理や地層学などの座学を網羅し、現場に入り職人から技術を学びそれを身につける、それを何年も積み重ねて初めて開発者としての才能が芽吹く、膨大な根気が必要であり余りの厳しさに逃げ出す者もザルにいる。
「少々楽観的な考えですな」
グリンドはニヤッと笑う。
「我が国も少しがっつき過ぎました、ここはもう一度お互い冷静に考えてみてはどうですか?」
「……そうですね、少し考える時間をいただきましょうか」
1時間の休憩という事になり、ヴィクセンとグリンドは一旦戻った。
前半戦が終わりアキラはぐったりしていた。
「こりゃ俺には無理だわ」
もしアキラがヴィクセンの代わりをしていたら、すぐに丸め込まれていただろう。
ヴィクセンの"国がどれだけ手強いか"の意味がようやくわかった。
「なかなか手強いですね、さてどうしましょうか?」
ヴィクセンは頭を悩ませる。
「ワシが行こう」
そこにゴードンが声を挙げた。
「化かし合いは終わりじゃ、腹を割って話せばならん」
ヴィクセンとグリンドのやり取りを見ていて、ゴードンには何か思う所がある様だ。
ゴードンの目は静かな怒りと哀れみに満ちていた。
「……良いのか?」
その目を見たアキラは不安そうに尋ねる。
「ワシもそろそろ決着をつけないとと思っていたからの、バルムスを引きずり出すわい」
そう言いながらゴードンは貴族達と話し合っているバルムスを見る。
「バルムスの心の内を暴き出す……、アキラよ頼みがある」
「……頼みって?」
「もしバルムスが少しでも反省している様なら、この国を見捨てないでくれないか?」
やはり故郷だから情けを掛けたいのだろう、その言葉にアキラは考える間も無く頷く。
「わかった」
「ちっとは考えんかい、バカ者」
ゴードンはアキラを見て呆れるが、心の中で感謝の言葉を述べた。
そして休憩は終わり再び会談は始まる。




