139.ダイエットするのじゃ!
アクティース城に住み着いたレティは、それはそれは自堕落な生活をしていた。
ーグゥぅぅー
「ふぁ〜、よく寝たのじゃ、お腹が空いたのぉ」
時刻は11時、空腹を覚えレティは起床した。
普通ならこの時間帯は既にアクティースに住む誰もが活動している、王のアキラですら働いているのに、レティはこのザマだ。
レティは水玉模様のパジャマを着たまま、食べ物を探しに炊事場に行く。
炊事場にはファルスが居た、レティの起床を見計らいパンケーキと紅茶を用意していた。
「おはようございます、レティ様」
ファルスは恭しくお辞儀する。
「うむ、お腹が空いたから何か用意してくれ」
「既にパンケーキと紅茶を用意しています」
「さすが爺やじゃ、すぐに持って参れ」
「かしこまりました」
上級ニートになっているレティをファルスは叱らない、実際ヨルムガウレン魔王国でも同じ様な生活をしていたからだ。
寧ろ超過保護の魔王リバルは、このままずっと堕落して家に居てくれとさえ思っていた。
「パンケーキは美味しいのじゃ!」
パクパクとパンケーキを口に運ぶレティ、ファルスは既におかわりを用意してある。
レティがおかわりを頼むタイミングで、ルクレリアがやって来た。
「レティちゃん、お昼休憩?」
「違うのじゃ!これは朝食なのじゃ!」
「朝食って……もう11時過ぎてるわよ」
ルクレリアはレティを見て呆れている。
そしてレティの変化に気づく。
「……レティちゃん、太ったわよね?」
「へ?」
「なんかふっくらしてる」
「そんな事ないのじゃ!!」
「そうかしら?」
そう言いながらルクレリアはレティのお腹を摘む、すると立派な皮下脂肪が出来上がっていた。
「これはダメね」
「太ってないのじゃ!!爺やよ、体重計を持って参れ!!」
「かしこまりした」
少ししてファルスは体重計を持って戻って来る、レティはぴょんと体重計に乗った。
「「…………」」
体重計の針がどんどん上がっていく、その度レティの顔は青ざめていく。
前回測った時よりも8キロ太っていた。
「のぉぉぉぉぉーーー!!!!」
思わずレティは絶叫してしまう、何かの間違いだと思い何回も測り直すが結果は全て同じだった。
悲しみのあまり膝が崩れ四つん這いになっているレティに、無情にもルクレリアは追撃をかけた。
「これじゃあアキラに女として見てもらえないわよ」
レティは石化した様に固まる。
それは絶対にあってはならない過ち、一回そうなってしまったらアキラの気を惹こうなど、さらさらできやしない。
「……ダイエットなのじゃ」
レティはボソッとそう呟く。
そして必死の形相で自室へと戻って行った。
その後をファルスが追う。
「ちょっとけしかけ過ぎちゃったかしら?」
ルクレリアは苦笑いを浮かべた。
ルクレリアはレティの恋を応援している、無邪気で可愛いらしい所が気に入っているからだ。
やる気になったから大丈夫かと思いながら、ルクレリアも自室に戻って行った。
「ダイエットするのじゃ!!」
動きやすい服に着替えたレティの目は燃えている。
一刻も早く体重を落とさなければ、恥ずかしくてアキラの前に出れない。
決意を胸に城の出入り口へと向かった。
「レティ様、爺やもお供します」
着替え終えたファルスが、城の出入り口でレティが来るのを待っていた。
「爺やは別に太ってなかろう」
「いえ、レティ様のトレーニングサポートとしてです」
「そうか、世話をかけるな爺や」
「ありがたきお言葉」
ファルスは頭を下げながら言う。
そして2人は庭へと向かう。
庭に着き、レティは準備体操の後走り出す。
広大な庭を息を切らせ汗を流しながら周回する。
5周したところで一旦休憩に入った。
「汗を流すのは気持ちいいのお」
レティは清々しい笑顔を浮かべている。
「レティ様、水分をどうぞ」
ファルス特製ドリンクをレティに渡した。
レティは渡されたドリンクをゴクゴクと飲む。
「キャラメルチョコバニラフラペチーノモカのお味はどうですか?」
「うむ、美味いのじゃ!!」
「それは、よかt@/☆」
味を褒められ満面の笑みを浮かべたファルスの顔面に、レティの拳が入る。
吹き飛び転がるファルスの表情はご満悦だ。
「やけに甘いと思ったら、こんなカロリーが高そうな物を出すなのじゃ!!」
ゼェゼェと息を切らすレティ。
気を取り直したレティは、ただ走るのは飽きたので楽しんでやれるダイエットは何か無いのかと思考を巡らす。
「レティ様、トレーニングルームにある器具を使ってみてはどうでしょうか?」
ボロボロのファルスが蘇った様だ。
「確か妾が住む5階にもトレーニングルームがあったのお」
「はい、あれを使えば効率的な運動効果が得られるかと」
「でかしたぞ爺や!」
「ありがたきお言葉」
ファルスは恭しくお辞儀する。
「では、爺やは先にトレーニングルームの準備をしております」
「うむ、汗を拭いた後に妾も向かうぞ」
ファルスは一礼した後その場を去った。
暫くしてタオルで汗を拭き終えたレティは、5階のトレーニングルームへと向かった。
「ん?爺やがおらんの?」
中に入るとファルスの姿が見当たらない、まあいいかと思いレティはバランスボールに乗る。
「ほほう、これは楽しいのお」
バランスをとるレティの顔は楽し気だ。
少しして他の器具にも手を出してみる、ダンベル、フラフープ、マットなどを堪能した。
そしてサンドバッグの前に立つ。
「次はこれをやるのじゃ!」
グローブをはめたレティはサンドバッグに拳を打つ。
ーパンッー
『ん!』
ーパンッパンッー
『ん!あう!』
ーパンッパンッパンッー
『あ!んふ!もっと強く!』
レティはそっとサンドバッグの繋ぎ目の紐を解く。
すると恍惚な表情を浮かべたファルスと目が合った。
「…………」
途端にレティの目は冷たくなる。
そして吊るしてあるサンドバッグを下ろし担ぎ上げ運ぶ、窓を開けひょいとサンドバッグを5階から落とした。
『ぐひゃえ!!』
ファルスの潰れた様な声が聞こえたのはきっと気のせいだろう。
「次は泳ぐのじゃ!」
気を取り直したレティは敷地内にあるプールへと向かった。
城の出入り口の前にボロボロのファルスが待機していた、どうやら蘇った様だ、本当にしぶとい。
「レティ様、水着を用意しております」
「うむ、早速向かうのじゃ」
レティの行動パターンを予測していた様だ、変態さえなければファルスは完璧な執事なのだ。
そしてプールに着く。
「早速泳ぐのじゃ!」
スク水に着替えたレティはプールサイドで仁王立ちだ、何故スク水で何故胸の辺りに「れてぃ」と名前が刺繍されているのかは謎だ、きっとファルスの趣味なのだろう。
ーザッパーンー
レティはプールに飛び込む。
気持ち良さそうにバシャバシャと泳ぐ。
するとブーメランパンツ型の海パンを着たファルスが、プールに飛び込んで着た。
「爺やも泳ぐのか?」
「いえ、レティ様の出汁が取れるプールの水を飲☆*t@」
最後まで言い切る前にレティの拳がファルスの顔面にめり込む、その後ファルスはどざえもんの様にプカプカとプールの中で浮いていた。
「冷たくて気持ちいいのお」
「レティ様、プールで使えるとっておきのダイエット器具をご用意しました」
どうやらファルスはまたまた復活した様だ、不死身なのか。
「ほほう、そんな物があるのか!」
「ええ、早速用意します」
ファルスは手を翳す、すると黒い渦が現れそこからサメが飛び出て来た。
サメはぽちゃんとプールの中に着地する。
「…………」
レティはこいつ何してくれちゃってんの?と言う目でファルスを無言で見つめていた。
サメはレティ目掛けて猛スピードで迫る。
「ぬぉぉぉぉぉ!!」
バシャバシャと死に物狂いでレティは泳ぐ、サメとの追いかけっこが始まった。
暫くしてしつこく追いかけて来るサメに、とうとうレティはキレた。
強烈な殺気がサメを襲う、するとサメはプルプルと震え出した。
「……妾を乗せろ」
レティの言葉に涙目のサメはコクコクと高速で頷く、レティはサメの背中に跨ると指示を出す。
「爺やを殺せ」
サメはターゲットを変えファルスへと迫る、ファルスは必死の形相で泳ぎ出す。
少ししてレティはサメの背中に突起した物があるこ事に気づいた。
「ん?何か刺さっておるぞ?」
レティはそれを引っこ抜く、背中に刺さっていたのはモリだった。
どうやら痛みが原因で凶暴化していた様だ。
サメは痛みが和らぎイキイキし始める。
「レティ様お許しを〜!!」
「許さぬのじゃ!サメよ追い詰めるのじゃ!」
レティの命令でサメは更にスピードを上げる、モリを持ったレティの姿はさながら伝説のフィッシャーマンだ。
「何をしているんだ?」
そこにアキラが現れた、プールが何やら騒がしいとメイド達から報告があり様子を見に来た。
そしてアキラはこのカオスな光景を見て固まる、少しして我に帰るとレティとファルスを呼ぶ。
「2人共正座」
そこからアキラの説教が始まった。
レティとファルスはしょぼんとしながら聞いていた。
「全く、急にどうしたんだレティ?」
「アキラに嫌われたくなくてダイエットしてたのじゃ……」
「はあ……そう簡単に嫌いにならないよ」
「……ほんと?」
「本当だよ」
レティの顔はパァっと明るくなった後アキラに抱きついた。
「アキラが大好きなのじゃ!」
「ありがと」
なすがままにされているアキラは、レティの乙女な部分を知り無意識に愛らしさが芽生えていた。
日も暮れて来たので、アキラはレティとファルスを連れ城へ戻る。
その後は規則正しい生活をしたら、レティの体重は元に戻って行く。
こうしてレティは無自覚にも、痩せる事よりも大きな収穫を得たのであった。




