4杯目 雪女は春を知らない
夜風が暖簾を揺らした。
今日の夜風は、いつもより冷たかった…。店主が空を見上げると、季節外れの白い吐息がふわりと漂う、不思議に思いあたりを見渡す。ふわりとまるで雪みたいに軽い足取りで歩く白い着物を着た美しい女がみえた。足取りは軽い。それでも、何かを探すように辺りを見回していた。
店主は屋台から出て、優しく声をかけた。
店主「おーい、何か探してんのか?」
女はこちらに気づくと、嬉しそうにかけよって来た。
女「あなたかしら、噂のラーメン屋さんって」
店主「噂…?」
店主は不思議がりながら質問した。
女「ええ、小さな子から聞いたのだけど…」
と女は楽しそうに噂について話始めた。
女「ある路地裏で倒れていたところをラーメン屋の店主に助けてもらい、悩みも解決してくれたって…なんでもそこのラーメンはすごいらしい。」
店主は誰が噂の出どころか気が付いたが女の話を楽しそうに聞いていた。
女「それでね、わたくしも行ってみようかと思い探していたのですが見つからず、路地裏をさまよっていて……ってあなたもしかして…」
店主「やっと気づいたのかい。そうだよ、その噂のラーメン屋さ。」
店主は楽しそうにそう答えた。
女「ほんとうなの…あなたが本当にラーメン屋なの?」
女は怪しみを隠し切れずにそう問いかけた。
店主「まったく、あんたしつれいだよ。こう見えて立派なラーメン屋さ。」
店主は笑いながらそう答えた。女は疑いの目でこちらを見続けている。仕方あるまい、なんせ見た目は十四、五くらいで、少年のような、少女のような姿であり、目はくりっとしていて髪は肩にかからない程度、それに少しサイズの合っていない割烹着を着ているのだから。
店主「それで、ラーメンは食うのか?」
女「食べます…あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。わたくしは雪女よろしくね」
店主「よろしくな」
店主は早速、麺を湯に入れてラーメンを作り始めた。
今回は雪女にあたたまってほしくて味噌ラーメンにしてみた。
店主「おまちどうさん、今回は味噌ラーメンだ。」
雪女「いただきます」
何も食べずに彷徨っていたのか、雪女は勢いよく食べ始めた。あっという間に完食していた。
店主「噂を聞いて探してたってことは、あんた、何か悩んでるのか?」
雪女「そうよ、わたくしはあなたに相談したくてさがしていたの。
実はわたくし、人間の男に恋をしてしまったの…でもわたくしは冬が終われば力が弱まり、人間に関われば消えてしまうの…でも、その前に一つだけ。あなたとはこうして話していても、どうして消えないの?」
店主「まぁ…俺は少し特別だからな」
雪女「納得はしませんけど、まぁいいです。それよりも、わたくしの悩みはかいけつするんですか?」
店主「あんたはどうしたいんだ?強く思ってみるといい。ほら…」
雪女は言われた通りにどうしたいか強く考えた…器に残されたスープに一人の青年が映し出された。
雪女「この人は…」
またさらに影が一つ増えた、その影は雪女だった。
雪女「わたくしも映ってます」
雪女は少し驚いていたが、先が気になるのか真剣に丼を覗いていた。
━━雪が降る中、一人の青年は防寒具を一切身に着けず公園のベンチに腰掛けていた。そこへ雪女が現れた、心配そうな顔をして青年に近寄る
雪女「そこのあなた、またここにいるのですね」
と言いながら雪女はマフラーを渡そうと手を伸ばした。
青年「ほっといてくれ」
青年は雪女の手を強く払った、気が立っていたのか顔を伏せたままだった。そんな青年が心配なのか雪女は諦めずに声をかけ続けた。
ようやく青年が顔を上げると雪女は優しく微笑みかけながら質問した。
雪女「なにがあったの?」
青年はぽろぽろと涙を流しながら話し始めた…
青年「生きる理由が分からない…」
雪女は、今なら自分の言葉が届くかもしれないと思った。思い切って相談に乗ることにした、相談に乗るにつれて青年は次第に笑顔になっていた。
雪女はこれしかチャンスがないと思い告白をした…告白は成功し二人は幸せな日々を過ごしていた。幸せな日々が過ぎるのは早い…気づけば雪女の力は弱まっていた、これ以上は消えてしまう…が雪女は最後まで青年といることを選んだ。そして雪女は青年の前で消えてしまった。青年は何も理解できないまま呆然としていた。雪女が最後に残した結晶だけが、静かに地面へと落ちていった…
そして月日が流れた、青年は雪女が消えた現実を受け入れられずにいつも出会っていた公園のベンチに足しげく通った。が雪女が現れることはなかった。そして青年はついにその公園で息絶えた━━
雪女「そんな…これでは全然幸せでないわ」
雪女は泣き出してしまった。店主は雪女が泣き終えるまで、優しく見守った。
雪女「ごめんなさい…見苦しい姿を見せちゃったわね」
店主「そんなことないぜ。でもあんたに涙は似合わねぇな」
っと言うと店主はおしぼりを渡した。
雪女「わたくしをからかっているの?あと、おしぼりじゃかっこよくありませんわよ」
雪女は楽しげに笑っていた。
店主「そうやって笑ってるほうがみりょくてきだぜ。
そうだ、いい案を思いついた。そいつの夢に雪を降らすのはどうだ?」
雪女「夢に雪を降らす…?」
店主「そうだ。夢は心と心が一番近づく場所なんだよ。だからこうやってだな…とこんな感じだ。冬に会うときは夢であんたがでてちゃんと伝えろよ。そうしたら確実に会えるし、なにより冬以外でも存在を忘れられることはないからな!」
雪女「なるほどね。わかったわ!やんてみるわ」
雪女は善は急げと言わんばかりに、屋台を後にした。
店主は丼の片づけをしはじめた。
店主「柄じゃない相談に乗っちまったな、まっ後悔はしてねぇけど。あいつになんて言われるかなぁ…」
店主の頭に、小さな雪の結晶がひとひら舞い降りた。
頭に触れた瞬間、それは静かに溶けて消えていった。




