第六話「小雪と一平」
第六話「小雪と一平」
「ただいまー」
玄関を開ける。
夜の空気が、少しだけ部屋へ流れ込んだ。
「おかえり」
珍しく、父はもう帰ってきていた。
「お父さん、今日は早かったんだ」
「たまたまな」
ネクタイを緩めた一平が、ビールを片手に答える。
東京にいた頃より、少し疲れて見える気がした。
でも。
最近は前より、少しだけ表情が柔らかい。
「学校どうだった?」
「え?」
「友達とか」
小雪は少し考える。
そして。
「……うん」
小さく頷いた。
「渚って子と仲良くなった」
「そうか」
「凄く元気な子」
自然と、少し笑ってしまう。
「距離近くて、うるさくて、ずっと喋ってる」
一平は黙って聞いていた。
これまで。
小雪から、友達の話を聞くことはほとんど無かった。
学校のことを聞いても、
「普通」
「別に」
そんな返事ばかりだった。
でも今は違う。
一平は少し驚きながら、どこか嬉しそうに目を細めた。
「今度、家にも連れておいで」
「……考えとく」
少し照れくさい。
その時。
小雪は、抱えていた紙袋を差し出した。
「お父さん、はい」
「ん?」
一平は中を見る。
顔くらい大きな揚げ物が入っていた。
「これは?」
「大鶏排」
「ダージーパイ?」
「渚のお家、夜市でお店やってるの」
「へぇ……」
「お土産だって」
「うまそうだな」
一平は一口齧る。
サクッ。
その瞬間。
独特な香りが抜けた。
「うっ……」
顔が止まる。
小雪は少し笑った。
「ふふっ」
やはり親子だった。
すると小雪が、少し真面目な顔になる。
「残したらダメだからね、私も全部食べたんだから」
その言葉に。
一平は少しだけ目を細めた。
脳裏に浮かぶ。
食べ物を粗末にするな。
北海道で、父の豊平から何度も聞かされた言葉だった。
一平は苦笑する。
「おじいちゃんそっくりだな、お前」
「そう?」
小雪は少しだけ照れくさそうに笑った。
そして。
ぽつりと呟く。
「……お母さんの分も食べてね」
一平の手が止まる。
一瞬だけ、静かな沈黙が落ちた。
「……あぁ」
小さく頷く。
一平はもう一口齧る。
ビールで流し込む。
正直。
全然慣れない味だった。
でも。
結局、二枚とも全部食べ切った。
食べ終わったあと。
一平は静かにビールを飲む。
そして小さく呟いた。
「……もう二度と食わん」
小雪が吹き出す。
久しぶりだった。
父娘で、こんな風に笑ったのは。




