第三十二話「レインボーブリッジ」
第三十二話「レインボーブリッジ」
翌朝。
バス停には、
朝の光が差していた。
荷物を持った小雪と渚の前に、
孝男と鶴子が立っている。
「本当は空港まで送ってやりたいんだけどな」
「農園が忙しくてな」
孝男が申し訳なさそうに笑った。
「すまんな」
「ううん」
小雪は首を振る。
「ここまでで大丈夫」
鶴子が小雪の手を握った。
「北海道のおじいちゃん、おばあちゃんにもよろしくね」
「うん」
「渚ちゃんも」
鶴子は渚を見る。
「山梨まで来てくれてありがとうね」
「いえ!」
渚は元気よく頭を下げた。
「めっちゃ楽しかったです!」
孝男が笑う。
「今度はじいちゃん達も台湾に行かなきゃな!」
「ぜひ来てください!」
渚の目が輝く。
「台湾の案内なら任せてください!」
「それは楽しみだ」
鶴子は二人を見つめた。
「二人とも元気でね」
「今を楽しむのよ」
その言葉に。
小雪は少しだけ胸が温かくなった。
「おじいちゃん」
「おばあちゃん」
「ありがとう」
そして笑う。
「また来るね」
バスが到着する。
二人は荷物を持って乗り込んだ。
窓の向こうで、
孝男と鶴子が手を振っている。
小雪も渚も手を振り返した。
バスが動き出しても。
二人の姿が小さくなっても。
孝男と鶴子は、
いつまでも手を振っていた。
山梨の山々が、
少しずつ遠ざかっていく。
「あー!」
渚が座席に背中を預けた。
「山梨楽しかったな!」
小雪は隣を見る。
「本当?」
「うん!」
渚は大きく頷く。
「富士山も」
「お祭りも」
「温泉も」
「あと、桃!」
「マジで桃が美味しかった!」
小雪は少し笑った。
「良かった」
そして窓の外を見る。
「きっと北海道も楽しいよ」
「うん!」
渚はすでに楽しそうだった。
しばらくして。
小雪がふと思い出したように言った。
「本当に東京寄らなくて良かったの?」
「うん!」
渚は迷いなく答える。
「東京は修学旅行まで取っておくの!」
「みんなで行った方が楽しいじゃん!」
「私とだとつまらないってこと?」
小雪が少し不服そうに見る。
「違う違う!」
渚は慌てて手を振った。
「今回は小雪の帰省が目的でしょ!」
「だから東京はまた今度!」
「そう」
小雪はそっぽを向く。
でも。
少しだけ嬉しかった。
数時間後。
バスは東京へ近づいていた。
高いビル。
広い道路。
車の流れ。
山梨とは違う景色が窓の外に広がる。
その時。
小雪が声を上げた。
「渚」
「ん?」
「レインボーブリッジ」
「え!」
渚が窓に張り付く。
「どこ!?」
「今から通るよ」
「マジー!?」
渚の顔が一気に明るくなる。
その表情を見て。
小雪はふと思い出した。
初めて会った日。
教室で。
渚は突然聞いてきた。
『レインボーブリッジって渡ったことある?』
『あるけど…』
あの時は。
ただの何気ない会話だった。
それなのに。
数ヶ月経った今。
二人は本当に一緒にレインボーブリッジを渡っている。
「すごーい!」
渚が窓の外を見ながら声を上げる。
「本当に渡ってる!」
小雪はその横顔を見る。
たった数ヶ月前のことなのに。
とても懐かしかった。
台湾へ来たばかりの頃。
知らない教室。
知らない街。
知らない暑さ。
その中で出会った渚。
あの出会いが。
いつの間にか、
こんなにも大切なものになっていた。
あの時交わした何気ない会話が、
今、現実になっている。
小雪は思った。
こんな日々が。
ずっと続けばいいのに。
バスはレインボーブリッジを渡っていく。
海が見える。
空が広い。
東京の街が遠くに光っている。
「小雪!」
渚が振り向く。
「次は北海道だね!」
「うん」
小雪は頷く。
北海道まであと少し。
山梨の夏を背中に残して。
二人の旅は、
次の場所へ向かっていた。




